オベンティックの特徴は中学校と医療機関があること。
中学校はサパティスタ自治区唯一のものである。
各自地区から集まった約80名の生徒が共に寝泊りをしながら学んでいる。
教室の前には子供達のものであろう洗濯物がたくさん干してあった。
同室になったスペイン人のイヴァンは、ボランティアとして子供達に教えている教師だった。
サパティスタ自治区で半年間教え、また自国での教壇に戻るそうだ。
医療機関は入院設備もあるサパティスタ自治区内で最大のものである。
そうは言っても日本で言えば町医者くらいの規模だ。
現在は医師に関してはサパティスタ内で運営できるが、どうしても薬などが不足してしまうのだそうだ。
入り口付近にはちょっとした売店がある。
ちいさな男の子がジュースの王冠をはじいて遊んでいた。
自分もあのくらいの頃、集めた王冠を宝物にしていた。
「コモ・テ・ヤーマ(名前は?)」
声がした方には、気の強そうな女の子と、その弟らしき、気の良さそうな男の子がいた。
「ネリー」
「オマール」
ふたりの名前も聞いて、日本語で書いた紙をプレゼントした。
翌朝、オマールが笑顔で走り寄ってきた。
嬉しそうに彼が差し出したのは、ボロボロに破けた昨日のプレゼントだった。
たくさん遊んだんだね。
「おまーる」
今度は、ひらがなで書いて渡した。
オベンティックに着いた日は、ちょっとしたお祭をやっていた。
ささやかな楽器演奏とスピーチが交互に行われ、時折思い出したように花火が上げられた。
スピーチはスペイン語で話された後、同じ内容がトツィル語で繰り返された。
トツィル語は、この付近に多いマヤ系インディヘナの言語だ。
こんな所にも多様性を尊重するサパティスタのあり方が良く現れている。
最後にサパティスタの歌を歌って、祭りは終わった。
暗闇の中、サパティスタ達が肩を組んで、素朴なワルツに揺れながら歌っていた。
夜が暖かかった。
ちいさなホタルの光が、流れ星のように、ひとすじ流れた。
その夜、中学生がリコーダーで吹く、サパティスタの歌がいつまでも聞こえていた。