丘の上に立ち家々に灯る光を見ている。
数え始めた灯りの数は61でストップした。
闇は深く広く、天空に輝く星々の方が遥かに明るい。
遠い昔を思い出す。
それは浪人生としての一年間を終え、友人達と夜行バスでスキーに出かけた時のことだ。
バスの最後尾の座席に陣取り、窓の外を見ていた。
日付が変わり、暗い車内は静まり返っていた。
不思議な湧き上がりだった。
流れる町灯り。
こんなにもたくさんの人が生きていたのだと思った。
自分は、その人々の人生を知ることもなく通り過ぎてゆく。
今までそんなことにも気付かずに生きていた。
そんなふうに思ったのは初めてだった。
旅をする。
訪れれば訪れるほど、出会えば出会うほど
そこに自分の知らなかった生活があることを思い知る。
その全てが、自分と同じ人間が、同じ時間に、同じ世界で行っている現実。
きっと全てが繋がっている。
あのバスの時間から、20年近い歳月が流れた。
そして、今、改めて、あの時の自分を思い返す。
あの時の自分は、考えてもみなかった。
電気の無い生活があるなんて、考えてもみなかったと。
今日もまた通り過ぎる人々のそれぞれの人生が通り過ぎる。