宿に戻ると日本人らしき男性がいた。
在日韓国人の旅行者、パクくんだった。
今日の宿泊者は自分達二人だけのようだった。
「とにかく、飲みましょう」
パクくんはサトウキビで出来た安酒を一本持っていた。
そこに宿のオバサンがやって来て言った。
「同じ部屋に移れ」
文法的なことは分からないが、その高圧的な口調は、明らかに命令であった。
明日以降、お客も増えるだろうから、相部屋になるのは仕方ない。
問題は、その人を見下したような態度だ。
同じ部屋に移れ。
宿泊代は下げない。
明日からは、更に値上げする。
それがイヤなら公園で寝ろ。
何という言い方だ。
もともとの宿泊代も高かった。
明日以降たくさんの宿泊者が来るのを知っているのだろう。
ここ以外に宿泊場所がないのを知って、こちらの足元を見ているのだろう。
パクくんが怒っているのは、すぐに分かった。
あんな言われ方をしたら誰だって頭にくる。
しかし、昼間探し廻った感じから、オキナワに滞在したい自分には選択肢が無かった。
「良いよ。分かった。分かった。
パクくん、俺は此処にいたいので泊まるけど」
「ったく、普通なら、こんなとこ、すぐに出て行くんですけど・・・・」
パクくんと宿の前にあったテーブルで飲み始めた。
いろいろな話をして、時間が過ぎた。
オバサンがやって来た。
ひとをバカにしたような態度で、見下ろしながら言った。
「もう、部屋に行って寝ろ」
何でそんなふうに言われなきゃいけないのか全く理解出来なかった。
時間は11時前だった。
普通に飲んで話してただけだ。
外は人通りも多く、辺りは騒がしかったから、近所迷惑にはなっていない。
「もう少し、此処にいたいのだけど」
次のひと言は、頭にくると同時に、更に理解に苦しんだ。
「さっさと寝ろ。さもなければ警察を呼ぶ」
何を言ってるんだ。
どうして警察を呼ばれなきゃいけないんだ。
ただ飲んでるだけだろ。
「呼ぶなら、呼べば良いさ」
俺たちが何をしたっていうんだ。
呼べるもんなら呼んでみろ。
オバサンは電話をかけ始めた。
来るなら来たで事情を話すまでさ。
腕組みをして待った。
やがて、二人のボリビア人の警官がやってきた。
オバサンは、こちらの理解できないスペイン語で何やら捲くし立てた。