こちらの言い分が聞かれることは一切なかった。


「パスポートを見せろ」


聞く耳を持たない警官。


つまみ出されるように、宿を追い出されてしまった。


くっそー、一体何だっていうんだ。


時間は12時を廻っていた。


とりあえず公園に行って、ベンチに落ち着いた。


全く想像もしなかった状況に自分がいた。


何でこんなことになってしまったのだろう。


俺たちが何をしたというのだ。


オレンジに灯る微かな街灯。


闇の向こうに蠢く人々。


急がされて詰め込んだ荷物を探り、貴重品を確認した。


夜の外気は冷たく、上着を着た。


「金子さん、どうします?


今なら、まだタクシー捕まえて宿のある町まで行けますよ」


このまま、オキナワを後にするのは何だか違うと思った。


「うーん、町に追い出されるのなら仕方ないんだけど・・・」


かと言って泊まれる所はない。


このままベンチで夜を明かすことになるのだろうか。


それでも構わないと俺は思った。


オキナワにいることに、こだわりたかった。


とにかく出来るだけのことをしよう。


ひとりが宿を探し、ひとりが荷物番。




パク君が戻ってきた。


「何とかなりそうですよ」


ひろしさんという日系の方に会い、事情を話したのだそうだ。


「車に乗って下さい」


ひろしさんが言ってくれた。


荷物と一緒に、荷台に飛び乗る。


以前、宿をやっていたボリビア人の家など、心当たりの所を全て廻ってくれた。


しかし、宿は無かった。


「すいません。お世話になります」


結局、ひろしさんの厚意に甘えることになってしまった。


彼は農業のかたわら、カラオケ店を営んでいた。


その店の床で寝かせてもらえることになった。


ビールを飲み直す。


事態は思いも寄らぬ方向に流れてゆく。


「何か歌ってください」


「普段はカラオケ歌わないんですけど・・・


よし、今日は、ひろしさんの好きな曲を歌います」


午前3時を過ぎていた。


♪これで青春も終わりかなと呟いてえー♪


日本の裏側のオキナワ。


「大阪で生まれた女」を歌っている自分がいる。


なんでこんなことをしているのだろう。


♪青春のかけらを置き忘れた街ー♪


なんでこんなことになってしまうのだろう。