今日も小麦畑に陽が落ちていった。
そして、昨夜に続いて、この日も困ったことが起きた。
泊めてもらったカラオケ店に入ることが出来ないのだ。
店には、いつの間には鍵が掛かってしまっていた。
セキュリティの面から言ったら、それは当然のことなのだが、
いつまでたっても中に入れないというのは、とにかく困る。
荷物は全て店の中にある。
これでは他に移ることも出来ない。
自分は、昼間の暑さから、半袖・短パンでいた。
陽が落ちてから、この格好では寒くてしょうがない。
まあ、そのうち開くだろうと、ゆっくりと夕飯を食べた。
8時、開かない。
公民館の前では、明日の予行練習が始まった。
その様子を見て、合い間合い間に戻ってみるが、開く気配は無い。
パクくんと何度も顔を見合わせる。
忘れられてしまったのだろうか。
今夜はどうすればいいのだろうか。
何度目かに戻った時に、帰省している大学生の妹さんがいた。
「そこは、お兄ちゃんじゃないと開けられないんですよ」
店の前で待ち続けるのも、怪しまれて迷惑が掛かるといけない。
公園で時間を潰しては、様子を見に行く。
10時、開かない。
10時半、開かない。
時間を潰す。
11時、開かない。
11時半、開かない。
様子を見に行くたびに、パクくんとすれ違う。
12時、いくらなんでも、そろそろ戻って来るだろう。
来ない。
しょうがない、店の前で待つことにする。
寒い。
蚊がガンガン寄ってくる。
痒い。
寒い。
眠い。
いつの間にか午前1時だ。
もう、6時間以上待っている。
なんでこんなことになってしまうのだろう。
寒い。
眠い。
痒い。
いくらなんでも、これは辛い。
少し、うとうとするが、蚊にさされる痒みで目が覚める。
痒い。
寒い。
おいおい、2時かよ。
厚意で泊めてもらった以上、文句を言える立場では無いが、一体どうしてしまったんだ。
昨日、ろくに寝てない身にとって、この状況は辛過ぎる。
眠いぞー
寒いぞー
痒いぞー
いったい今日は寝れるのだろうか。
体を横にしたい。
3時近くになって、妹さんが、帰ってきた。
「こんばんはー」と涼しい顔で家の中へ入ってゆく。
「すいません。毛布だけでも貸してもらえませんか」
「あ、はい、はい。でも、何で中に入らないんですか」
おい、おい、頼むよー。
やっと、中に入れた。
もうシャワーなんか良いや。
とにかく体を横たえて休むのが先決だ。