インドにはアルコールを飲む習慣がない。

          宗教的な理由であろうか。

          ある種、飲んではいけない物といった感もある。


          聞いた話では、ビールを買った時

          黒いビニールに厳重にくるまれて渡され

          「なるべく店から離れた所で飲んでくれ」と言われたらしい。


          アルコールを売っている店を探すのも、ひと苦労だ。

          ビールが飲みたい。


          アルコールを飲める店があるという情報を入手した。

          行くしかない!


          階段を地下に降りてゆく。

          客が全くいないガラーンとした店だった。

          入り口に近いテーブルに付く。

          メニューにはアルコールは全く載ってなかった。

          「ビールが飲みたいんだけど」

          店員は、こちらをじっと見て小刻みに何度か頷くと

          「あそこに移動してくれ」と一番奥のテーブルを示した。


          薄暗い店内には、古いアメリカンのロックが流れている。


          かなり待たされてから、店の奥から店員が現れた。

          びんのビールには布がかけられている。

          彼は自分の座っている真横にしゃがむと

          隠すように床の上でビールの栓を開けた。

          そして同じく床の上で銀の容器にビールを全て移した。

          「ノーライセンス」

          彼はひとこと言うと、ビールが注がれた銀の容器をテーブルに置いた。

          そういうことか。

          出されたグラスには、ピンクのナプキンが巻かれ中が見えないようになっていた。


          何だか悪いことをしているかのような後ろめたさに

          ワクワクしながら、ひさしぶりのビールを飲んだ。


          中学校の頃に隠れて飲んだビールを思い出し、

          禁酒法の時代に思いをはせる。


          銀の容器は、すぐに、からっぽになった。


          店を出ると地上の太陽がまぶしかった。