インドの楽器といえばシタール。
ブライアン・ジョーンズの姿が思い浮かぶ。
エド・サリバン・ショーでの映像だったであろうか。
シタールを抱えて、うれしそう演奏する姿が印象に残っている。
プールに浮かんだ水死体で発見される少し前。
輝いていたブライアン・ジョーンズ。
ペイント・イット・ブラック。
そんな事を思いながら、夜になり、ちょっと涼しくなったので
インドの古典音楽を聞きに出かける。
小さな集会場のような民家。
演奏者から1メートルくらいの至近距離に、あぐらをかいて座る。
まずはシタールとタブラでの演奏。
シタールはメロディー。
インド特有の音階を紡ぎ出す。
タブラは不思議だ。
指先と手のひらで、叩いたり、こすったり。
たったひとつの太鼓なのに
想像できないような高い音や低い音が出る。
宗教と密接な関係にあるインド音楽。
音階ごとに感情や色彩との対応がなされているという。
曲はテーマが決まっていて
シタール、タブラがそれぞれ複雑なヴァリエーションを繰り返した後
そのテーマに戻っていった。
シタールの男は数曲演奏すると
「サンキュー、グッナイ」と言って帰って行った。
すると、今まで演奏していた二人の隣で
ぴくりとも動かなかった老人が楽器を取り出した。
丁寧に時間をかけてチューニングしてゆく。
ヴァイオリンのように弓を使うシャーランギーだ。
タブラとキーを合わせると演奏が始まった。
複雑に変化するリズムにのって
張りつめた繊細な旋律が奏でられる。
10分以上ある曲が一瞬で終わったように感じた。
シャーランギーがゆったりとした旋律に変わる。
呼吸もゆっくりになってくる。
ゆったりした呼吸の間にタブラの激しく細かいリズムが入ってくる。
シャーランギーのやさしく繊細な音に身を任せていると
いつの間にか演奏が終わっていた。
静かな虫の鳴だけが残っていた。