5月8日。

午後4時、仕事を切り上げて、病院に向かう。


状況は変わらない。

危険な状態が続く。

何度も痙攣を起こす。

少しでも、力が伝わるように、手を繋ぐ。

体をさする。


22時を過ぎて、シカゴから妹と息子の拓海が到着した。

「たっくん、よく来たねえ」

娘と孫の拓海を見て、一瞬だけど両親に笑顔が戻った。

笑顔を見てホッとした。

家族が揃ってホッとした。

気持ちが少し楽になった。

死という重い空気に取り囲まれて、潰れそうになっていた。

そんな自分に改めて気づいた。

少しだけ客観的に周囲が見えるようになってきた。


「おす。拓海、元気か」

まだ4歳の拓海だけど、対等に付き合いたいので

彼が生まれた時から、そう呼んでいる。

以前の拓海は、こちらの姿を見ると泣きだしていた。

今回は少し様子が違っている。

妹の後ろに隠れて、いたずらな笑顔で、こちらを覗き込む。

アメリカの社会の中で成長したのだろう。


「おばあちゃん・・・おばあちゃん・・・」

妹が走り寄る。

「おおばあちゃん、元気になってね」

拓海が声をかける。


おばあちゃんは、曾孫である拓海から

「おおばあちゃん」と呼ばれると、顔をくしゃくしゃにして喜んでいた。

アメリカの拓海と電話で話した後

「かわいいんよ。たっくん坊主は、かわいいんよ。おおばあちゃんって呼ぶんよ」

と何度も言っていた。

もう一度、目を開いて、拓海の姿を見て欲しい。

くしゃくしゃの笑顔を見せて欲しい。


23時発の終電が近い。

長旅の妹と拓海は、今晩は実家で休む。

一旦、父が車で送る。

「おおばあちゃん、おうちに帰らないの。かわいそう」


拓海、おおばあちゃんを元気付けてくれよ。