おばあちゃんの部屋が一般病棟に移った。
南に窓がある明るい部屋だ。
24時間体制の看護は解除された。
面会が可能なのは、夜8時まで。
表面的な症状は変わらない。
もう、痙攣は収まり、静かにしている。
常に栄養や薬が入れられ、呼吸は酸素マスクで補われている。
昏睡状態が続いているのは、薬の影響なのだろうか。
本人の意思なのだろうか。
時々、目を開くが、何が見えているのか分からない。
話すことはない。
苦しみは消えたようだが、表情も消えた。
そんな、姿を見るのが、やるせない。
再検査の結果、癌はすい臓から大腸に転移していた。
肺は既に半分潰れてる。
いかに現状を維持してゆくかというのが、本当のところなのだろう。
受け入れたくない現実だが、受け入れるしかないのだろう。
直って欲しい。
元気になって欲しい。
掻きむしるように、そう思う。
自分が交代してあげられたらと思う。
良くなる可能性はあるのだろうか。
時々、おばあちゃんと目が合ったような気がする。
「おばあちゃん」
呼んではみるものの、視線は、すぐに泳ぎ始めるので
こちらを見ているのか定かではない。
数年前の出来事を思い出す。
おばあちゃんから思いがけない言葉を聞いた。
「あれー、ずいぶん徳が高くなったねえ」
自分の後方の辺りを眩しそうに見ながら、そう言った。
生きているのが、やっという嵐をくぐり抜けて
久しぶりに実家に帰った時のことだ。
あの時の、おばあちゃんは、いったい何を見ていたのだろう。
全ての事柄に意味があるのだと思う。
今は、学ぶ時なのだと思う。
悲しさや辛さや弱さや恐れに目をそらすんじゃなくて
それを包み込むキャパシティーの大きさを獲得する時なのだと思う。
自分の光の部分に、たっぷりと栄養をあげよう。
おばあちゃん・・・
直って欲しい。
元気になって欲しい。
おばあちゃん・・・
おばあちゃん・・・