6月16日。

16時、納棺。

18時、お通夜。


次々と準備を進めながらも、家の中は静まり返っていた。

気が付くと、いつの間にか、お昼を過ぎていた。

食事も摂っておかないと。

母が台所に立った。


そういえば、昨日から、テレビもずっと付けていない。

ちょうど、おばあちゃんの好きな「のど自慢」の時間だ。

見せてあげよう。


スイッチを入れるが、テレビは反応しなかった。

祭壇を設置する為に、アンテナのコードが外されていたのだ。


「微笑んでくれて どうも ありがとう」


台所から元気な歌声が聞こえてきた。

同じ事を思ったのだろう。

母がラジオで「のど自慢」をかけたのだ。


「ありがとう ありがとう 感謝しよう」


銀婚式を迎える祖父と祖母に捧げる、孫達の歌声だった。




やがて親族が集まってきて納棺の時間になる。


みんなで少しずつ手伝って、おばあちゃんの旅支度をする。


おばあちゃんの唇に薄く紅をひく。

花を敷き詰める。

いつも背負っていた、お気に入りのリュックを入れる。

リュックの中には、のど飴が入っていた。

「これもそのまま、持って行くだろうね」



おばあちゃん、元気でね。

ありがとう。