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「バイファム」パイロットフィルム感想

データ

(注: 判明している限り)
放送時間約12分程度
脚本: 星山博之
作画監督: 芦田豊雄
作画: スタジオライブ(原画: 芦田豊雄、海老沢幸男、松下浩美; 動画: 松本明子、山内則康、近永健一)
背景: スタジオ風雅
音楽: (既存のものの流用と思われる)

解説

「銀河漂流バイファム」には1983年4月頃、スポンサー、報道、下請けのスタジオ等へむけて公開されたパイロットフィルムが1本存在している。このフィルムは、上のデータにあるように本格的なものである。しかしタイトルがいまだ「ヴァイファム」となっているなど、設定が本放送と微妙に異なることから、あくまで準備稿的な扱いが一貫してなされ、存在が公表されることはなかったようである。
過日、神保町の古書店で「銀河鉄道999」などの脚本の山を別目的で漁っていたときに、このパイロットフィルムの脚本を偶然発見した。その脚本は一見したところ現場で実際に使われたもののようだったが、私はその存在について今まで全く耳にしたことがなかったし、TVアニメにパイロットフィルムというのもあまりありそうなことではない。例えば『ジ・アニメ特別編集・銀河漂流バイファム』(近代映画社)の制作年表(p.116)にもそのような記述は全くない。そのため発表をためらいながら慎重に調査を進めた結果、上のような結論にたどりつき(あくまで推論だが)、どうやら「本物」と見なしてよいとの確信を得た。もっとも最初に一目見た時点で、私は「本物」だろうと直感していたのだが……。
この調査の過程でこのページの最後に参考文献として列挙した出版物を新たに発見することができた。ただし、これらの書籍においてもパイロットフィルムの存在についてはあくまで間接的にしか触れられていない(詳しくは直接文献を当たられたい)。関係者がこうまで存在を秘匿する理由は定かではないが、あるいはフィルムを直に見ることができれば、謎は氷解するのかもしれない。勿論そうしたいわくがあろうとなかろうと、是非このパイロットフィルムを見てみたいと、私を含め誰しも思うはずだ。しかし今のところフィルムが現存するかは不明である。
しかしここで終わらせてしまうのはあまりに勿体ない。この脚本が「バイファム」に関して第一級の資料であることは疑いない。そこで熟慮の結果、ここに脚本を転載することにした。著作権法に照らせば明らかに違法であるが、上述のようにフィルムの現存が確認できないため、この転載には法を犯すだけの価値があると信じている。
なお上のデータは、脚本の表紙見返しにボールペン書きされていた、おそらく前の所有者によると思われるメモに基づくものである(前の所有者が誰なのかは勿論不明だ)。残念ながらキャストについては一切不明だが、この時点でキャスティングはすでに決定していたので本編と変わらないはずである。
物語は、ジェイナスのある日という典型的な舞台設定をとっている。ただし、子どもたちの会話から察するところ、どうやら船は地球へ向かう途中と思われ、この時点では13人、というより「バイファム」の目的地は地球として設定されていたと推測される。また、一部本編の下敷きになった箇所もあり、このあたりに準備稿としての性格が見える。

脚本

(注: 以下の脚本はレイアウトの都合上、基本的にセリフ主体になっている。)

―宇宙―
FI
ジェイナス画面に入ってくる
(ナレーションとともにカメラが回ってジェイナスの各部外観、内部各所を映す)
ス(Na)「ステーション出発から3週間、ジェイナスのイプザーロン脱出の航程もいよいよ最終段階だ。航路設定の基本プログラムがすでに入力されていたとはいえ、僕らだけの力でここまでやれるなんて、今でも信じられないくらいだ。正直言ってほめていいと思う。だが、まだまだ気は抜けない。アストロゲーターはいつまた襲ってくるかわからない。彼らの科学力は人類のものさしでは計りきれないことは身に染みている。今はともかく全力を尽くすしかない。ジェイナス艦長代理スコット・ヘイワード」

(タイトル)

―食堂―
ス「君たち遅いぞ」
シ「わりーわりー」
ロ「お前たちが食事に遅れるなんて珍しいな」
ケ「我々は、食事も忘れて任務に励んでいたのであります!」
バ「なーんかクサいな…」
シ「いやなに、ホントはさ、トイレいってただけなんだよ。何せオレ、最近便…」(ペンチ、テーブルをバンと叩く)
ス「(ゴホン) それ以上言わなくていい。さ、それじゃ食べようか。」
全「いただきます」(シャロン、ケンツに目くばせ)
ス「カチュア、針路の誤差のほうはどうなってる?」
カ「許容範囲内です」
ス「そうか、それはよしと。ロディ、バーツ、RVの整備は?」
バ「とっくに終わってるさ」
ロ「いつでも出撃できるよ」
ス「ま、できればそれはないほうがいいな。あとは、と…」
ク「食事のときくらい余計な心配するの、やめたほうがいいわ」
ス「すまん、だがどうも…」(マルロ、ルチーナを何となく見やる。無邪気に食べている2人)
ペ「だってもう敵も追ってこれないんでしょう?」
ス「だといいけどね。今は石橋を叩いて渡るくらいでなきゃ駄目だと思うんだ」
バ「叩いて壊さなきゃいいけどな」(全員笑う)
ケ「ごっつぉーさん」
マ「え、もういいの? あれ、シャロンも?」
シ「早飯なんとか芸のうちってね」
フ「あ、シャロン。さっき何て言いかけたの?」
シ「便秘! (フレッドむせる) イヒヒヒ」

―格納庫―
(RVのポッドが床に置かれ、シャロンとケンツ、何やら作業)
シ「おっし、いいぜ」
ケ「できたのか?」
シ「バッチシだぜ!」
バ「じゃ、ちょっくら試し乗りさせてもらうかな」
シ「おうともよ! …え?」
ケ「バーツ!?」(気まずい顔に)
シ「オレたち遊びでやってたわけじゃないんだぜ」
ケ「そうそう、俺たちだって役に立ちたいんだ、だから…」
バ「ふーん、こりゃなかなかよくできてるな」
(ケンツ、シャロン、顔を見合わせる。脈がありそうだという表情。)
ケ「な、いいだろ?」
バ「俺はかまわんさ。だがスコットは何て言うかな?」
(ケンツ、シャロン、顔が曇る。それを見てバーツ、にやっと笑う)
バ「ま、俺からも言ってやるがな」
ケ「ホントか!?うわっ、バンザーイ!」
(突如警報)
バ「何だ!?」
ク(off)「みんな敵よ。急いで持ち場について」
ケ「やった! 早速初陣だ! (バーツ、頭をコツン) ッテ〜」
バ「いきなり乗れると思ったら大間違いだ! 当分俺がみっちりしごいてやる」
ケ「うえ〜」
バ「とにかく、今は2人ともさっさとブリッジに行け!」
ケ・シ「は〜い」

―ブリッジ―
(マルロ、ルチーナ、ブリッジの入り口の廊下の床に落書きしている)
シ「ちぇっ、お前らノンキだな。あっち行って遊んでろ」
マ・ル「(渋々)はーい」
(シャロン、ケンツ、持ち場につく)
ス「どうしてこのまま黙って行かせてくれないんだ…!」
ボ「敵艦からの長距離ミサイル攻撃が予想されます。本艦の進路、あるいは航行速度の変更を提案します」
カ「どうしますか、キャプテン?」
ス「このまま進む」
フ「ジェイナスの砲座じゃ近距離になってからしか迎撃できないよ」
ク「大丈夫なの、スコット?」
ス「わからない。だけど、このまま行くなら、おそらく敵の攻撃はこれが最後だ。今のコースで行けば、もう敵も追いつけないはずなんだ。今さら変えるわけにはいかない」
カ「ボギー、進路固定よ」
ボ「承知しました。敵艦からのミサイル発射を確認、第1波は2分後に本艦に到達します」
ス「ロディ、バーツ」
バ「はいよ」
ス「RVで出てミサイルを撃ち落としてくれ。無理はしなくていい、砲座があらかた片づけてくれるはずだ」
ロ・バ「了解」
マ「あたいは?」
ス「君はいい。RV戦で持たなくなるだろう」
マ「だから、一度戻って乗り換えるけど?」
ス「それはこの前やってさんざんな目にあったじゃないか!?」
マ「わかったわよ、怒鳴らなくたっていいじゃない!」
ボ「敵艦、本艦に対して一旦静止、今後は接近してくるものと思われます」
カ「RVが来るのね」

―格納庫―
シ(off)「格納庫内減圧終了」
ロ「よしフレッド、頼むよ」
フ(off)「O.K. 接続開始」
ロ「接続チェックO.K.」
フ(off)「データ通信開始」
ロ「主推進エンジン、1番2番オン、3番4番オフ、5番から8番オン」(スイッチON/OFFにSE)
フ(off)「RV起動確認。気分はどう?」
COM(off)「ハロー、私は…」
フ(off)「はいO.K. 君の番号は7番だ。機器データ記録開始」(SE)
ロ「開始確認。出撃していいか?」
シ(off)「ハッチオープン。カタパルト動作O.K. いつでもどうぞ。」
フ「兄さん、気をつけて」(コックピットのコンソールパネルに顔が映る)
ロ「無茶はしないさ。(カタパルト発進) ううっ…!!」
バ「俺も出るぞ」
ペ「バーツさん、無茶はしないで」
バ「あんがとよ、ペンチ」(ウィンク)
マ(off)「あたいも行くよ」
ス「君が一番心配だよ」
マ「余計なお世話。それっ!」
(相変わらずのマキにクレアくすくす笑う、スコットじとっとニラむ。)

―戦闘―
ボ「ミサイル多数接近」
ス「迎撃開始!」(どうやら砲座はほぼオートマになっているという設定のようだ――上村注)
ク「トリガーオープン。撃ちます!」
(ジェイナス、各砲台ビーム斉射(SE)。VFとNFも撃ちもらしに対処する。)

ブリッジの戦闘時担当分担(脚本の余白の書き込みより)
カチュア: ボギーのオペレーション
クレア: 火器管制
シャロン: 格納庫管制 & クレアのサブ
フレッド: ロディのサポート
ペンチ: バーツのサポート
ケンツ: マキのサポート
ボ「敵RV出撃」
ス「数は?」
ボ「現在確認中…。5機です」
カ「敵の機種確認次第、情報を各サポータに回してください」
ボ「承知しました」
(ミサイル第2波も第1波と同じように打ち落とされる。爆発の光が次々に生じる(noSEで)。)
(ARV5機の編隊。不気味に光る目(SE)。)
ボ「敵RV、第2防衛圏を突破しました」(ARV、どんどん近づいてくる)
(ジェイナス、各砲台ビーム斉射(SE)。1機がかわせずに中破。)
ボ「敵RV1機編隊を離脱します」
ス「幸先いいな」
(ARV視界に)
ロ「来たぞ!」
(NF、挨拶がわりに1発。ARVひょいとかわして回り込む)
(UPで突っ込んでくるARV、VFよけながら乱射、撃破)
(2機に囲まれるVF。ARV回転しながら挟み撃ち。PF割り込んでくる。ミサイル発射。)
ロ「よしあと2機だ」
ボ「敵母艦、なおも接近します」
ス「何だって!?」
ボ「敵母艦より新たにRV出撃。機数6」
フ「兄さん、新手だよ!」
ロ「何!」
(光点6つ。続いてビーム)
(ジェイナスよりビーム応戦)
ス「くそっ、今度は駄目か!」
(編隊分かれて2機を残しout。)
(ARV2機旋回VFにビーム、VFビームで反撃。別の方向からVFにビーム。VFをかすめる。)
ロ「うわっ!?」
バ「ロディ! くそっ」
(NF、回転しながらビーム乱射)
(ARV3機、散ってよける)
(アオリ、追われるPF。)
マ「しつこい…! あっ!?」(目の前に敵。とっさにミサイル発射。ARVの片腕がふっとぶ。PF旋回して反転、被弾したARVをビームで撃破。)
マ「ふうっ…。え、まだ来んの!?」
(俯瞰でVFin、撃ちながらout。)
(ARV3機編隊、1機離脱。)
ロ(off)「スコット、1機そっちに行くぞ!」
ス「何だって!?」
(砲座各個に応戦。ARV小気味よく動いてよける。)
シ「あたんねー!」
(VF、2機に挟まれて逃げようとするも、新手がもう1機。)
ロ「多すぎる!」
(ARV2機、UPから奥に引きながら交互に乱射)
(NF乱射の応酬。俯瞰)
(ARV2機分かれ、NFどっちを攻撃するか迷う)
(NF被弾、ふっとぶ)
バ「くっそー! 駄目だ、もたねえ!」
(PF、追われ続けながらもジェイナスのARVのほうへ。)
(ARV、PFねらい撃ち。PF、被弾。)
マ「きゃああっ!」
ロ「大丈夫か!?」
(助けに行こうとするVF、ビームに阻まれる)
(母艦UP。)
カ「敵母艦が視界内に入ってきます」
フ「キャプテン、このままじゃ僕たち…!」
ロ「スコット、どうにかしてくれ!」
ス「わかってる。……だが、どうすればいいんだ?」
(戦場の閃光が光っては消え続ける。)
ケ「おい、カチュア?」(スコット、顔を上げる)
ス「カチュア、勝手に持ち場を離れるな!」
(2機を相手によけるのが精一杯のVF。VF、まばらな応戦。)
(思わぬ方向からビーム。おどろく敵。VFがビームを浴びせる。撃墜)
バ(off)「ヴァ、ヴァイファム?」
ロ「誰だ、乗ってるのは?」
ジ「カ、カチュア……」
ロ「カチュア? だって…」
シ(off)「オレが乗れるように改造しちまったんだよ!」
ス(off)「馬鹿な真似を!」
シ(off)「バカとは何だよ!」
ロ「そんなことを言っている場合じゃない! カチュアの動きが妙だ」
(カチュアのVF、銃を捨てる。ハッチが開き、ポッドが離脱する。)
ロ「何を考えてるんだ、カチュア!」
(敵ARV接近。)
ロ「ああっ!」
マ「逃げて、カチュア!」
ス「逃げろ、逃げるんだカチュア!」
(敵ARV接触。ポッドをのぞき込む。カチュア、ぐいと顔を上げる。)
(ペンチ、一瞬目をそらす。)
ジ「……」
カ(off)「・・・・・・・・・・」(ブリッジに流れる意味不明な音声。現場で処理して下さい)
ク「何? これは?」
フ「地球の言葉じゃないよ」
ス「まさか」
(驚く子どもたちを一通りなめる)
(カチュア、自分の額に銃を向け、敵母船のほうを指さしてARVに撤退するように指示する。)
ロ「カ、カチュア…!?」
ク「ア、アストロゲーターが引き上げていく…」
ス「どうなってるんだ…?」
(ARV、次々に離脱していく。中にはカチュアに向かって合図を送るものも。あっけにとられる子どもたち。無言のままのカチュア。)
(母船、ARVを収容すると、ジェイナスから離れていく)

―宇宙―
ス(Na)「こうして思いがけない展開で危機は去った。しかし僕らはまた新たな問題を抱えてしまった。今まで無口で自分のことをしゃべらなかったカチュア。彼女は、僕たちの知らない大きな秘密を持っているらしい。難しいことになるのは避けられそうもないようだ」
FO
(了)

凡例
FI
Fade In
FO
Fade Out
in
画面に入ってくること
Na
Narration
NF
NeoFam
off
画面内にその人物がいないこと
out
画面から出ること
PF
Puppet Fighter
SE
Sound Effect
VF
ViFam

参考文献

『銀河漂流バイファム』(パーフェクト・エンサイクロペディア・シリーズ133)、1986年。
植田益郎『あのころ13人がいた』、1989年。
島海勝美『いつだって13人』、1990年。
神忘那弘志『アニメーターよもやま話』、1992年。(神志那、松下、渡辺による座談会にて言及)
アゾレック大学SF研究会編『銀河漂流バイファムの謎』、1995年。
いずれも民明書房刊。

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