タイトル■ドラマは何でも教えてくれる
書き手 ■ロビー田中

放映中のTVドラマを“ほぼすべて”見ている、
驚異のドラマ通による、ドラマに関するコラム。

“TVドラマなんかくだらない”と言う人に、
あえて反論するつもりはありません。ただ、
“すべてのTVドラマがくだらないわけでは
ない”とだけ言っておきます。これからも僕は
TVドラマを見続けていくでしょう」(田中)

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『ビギナー』 10/6〜
フジ系 月曜9時  期待度 ★★☆☆☆

ヒロインを公募で決めた、
という話題作りがすべての感がある月9。
内容は司法研修生8人の群像劇となる。

8人はヒロインに選ばれたミムラの他、
オダギリジョー、松雪泰子、堤真一、北村総一朗、
奥菜恵、横山めぐみ、我修院達也。

豪華なようで豪華じゃない印象。
ミムラをフォローする人数を多くしたことが
かえってマイナスに作用するような気がする。




『ビギナー』  第1話

プロデュース:山口雅俊
演出:水田成英
脚本:水橋文美江
主題歌:「TOP OF THE WORLD」THE CARPENTERS
制作:フジテレビ
出演:ミムラ、オダギリジョー、堤真一、松雪泰子、奥菜恵、北村総一朗、
   横山めぐみ、我修院達也、金田明夫、岡田義徳、石橋凌、他

想像していたよりも良かった。
ミムラは写真の印象よりずっと清潔感があって
表情も悪くない。
セリフはまだまだだけど…。

山口P、水橋文美江脚本、水田成英演出、
そして松雪泰子とくれば
「太陽は沈まない」のセット。
同じ法律関係のネタということもあって
音楽の使い方などはかなり似ていた。

ちなみに「太陽〜」は医療ミスに対して
高校生(滝沢秀明)が裁判を起こす話で、
松雪泰子は弁護士役。
水田成英はセカンドで
メイン演出は水橋文美江の旦那、中江功だった。

…まあ、そんなことはどうでもいいんだけど、
「太陽〜」がゆったりしたテンポだったのに対して
こちらはかなり畳みかける感じ。

でも8人のキャラクターを示しながら
司法修習生の日常を紹介し、
(そこにリアリティーがあるかどうかは別にして)
8人が連帯していくまでを描いた構成はうまかったと思う。

ただ、全体的にゴツゴツした印象は歪めなかった。
専門用語を多く取り入れたため、
松雪泰子でさえセリフにリズム感がなかったのが大きな原因だと思う。

まあ、このへんは徐々に解消されていくだろうな。
毎回、課題を8人で議論していくとは思えないし。

今後はこの8人がずっと健全な“仲間”でいるわけがないので、
その対立や誤解、仲直り、恋愛などのエピソードが
お約束にならないように描けるかがカギ。

ムリに月9テイストにこだわらず
木10トーンのままで行って欲しい。

そしてその中で
なぜ若人あきら(我修院達也)をキャスティングしたのかを
ぜひ示して欲しい(笑)

             採点  7.0(10点満点平均6)




『ビギナー』  第2話

演出:水田成英
脚本:水橋文美江

出だしの雰囲気は初回とかなり違った。
でも講義の課題から8人の話し合い、
そこで名もない人の心情を拾い上げていく展開は同じ。

この姿勢はどうやら守るようで、
ここが作品の柱になるようだ。

まだゴツゴツした感じは残るけど、
やり方は間違ってないと思う。
寮での羽佐間(オダギリジョー)と鈴希(奥菜恵)の絡みのように
印象的なシーンも必ず入れているし。

あと、課題を話し合っている時に
想像の場面がイラストから映像に変わる瞬間もいい。
その名もなき人の心情がハッキリと実感できる効果があって
かなりグッと来る。

今回の月9は成功だな。

             採点  7.5(10点満点平均6)




『ビギナー』  第3話

演出:川村泰祐
脚本:水橋文美江

スタイルは完全に安定した感じ。
今回は名もなき主婦の心情を
同じ主婦である圭子(横山めぐみ)を中心に
8人が汲み取っていった。

“素敵な猪瀬夫人”役として
「真珠夫人」で横山めぐみと共演した森下涼子も登場。
課題となった事件の少女A子ちゃん役には
「太陽は沈まない」の瑠奈ちゃん(井上結菜)が登場し、
ドラマファンにはキャスティング的にもおいしかった。

ただ、やっぱりセリフの流れにスムーズさは無くて、
羽佐間(オダギリジョー)とのレストランのシーンなどで
ミムラがセリフを後から撮り直している部分もあるように
時間的な制約をかなり受けていることが窺える。

舞台並みの練習時間が取れれば
かなり面白くなるのでは、と思うと残念な気がする。
まあ、時間がない中で作るのがTVドラマの宿命ではあるんだけど…。

レストランのシーンでミムラが言った
“怒らないでください”というセリフは
楓(ミムラ)のキャラクターを示すいいセリフだった。

             採点  7.5(10点満点平均6)




『ビギナー』  第4話

演出:川村泰祐
脚本:水橋文美江

課題を議論していくというパターンは同じなのに
うまくアレンジして飽きさせない作りになっていると思う。

個人的には今回、
おじいさんX(谷津勲)より
松永(奥菜恵)の方に感情移入した。

松永の気持ちだけでなく、
田家(画修院達也)の心情、
あるいは森乃(松雪泰子)の過去についても
他の7人が理解している様子が
見ていて気持ちよかった。

こういう作品はたとえキレイ事に見えても
やさしい人間の集まりの方がいい。

             採点  7.5(10点満点平均6)





『ビギナー』  第5話

演出:水田成英
脚本:水橋文美江

講義で出される課題から離れ、
各法律事務所を訪れての実地研修に。
まず、この2人ずつの組み合わせが良かった。

普通なら楓(ミムラ)と羽佐間(オダギリジョー)、
森乃(松雪泰子)と桐原(堤真一)というセットになるところを、
互い違いにしたことで
各自が相手を認めたり、
自分を見つめ直したりする効果を出していた。

ただ、訪れる法律事務所が4箇所になったことで、
メインとなった楓・桐原コンビ以外のエピソードが
ややあっさりと描かれた印象は歪めない。

もちろん、それぞれのエピソードには意味があって、
各キャラクターの成長という側面からは
決して間違ってはいない脚本なんだけど…。
もう少し時間があったらよかったのにね。

楓が、自分は弁護士ではない、
まだ司法修習生なんだから
今できることを精一杯やりたい、と
初めて大きな声を出したシーンは良かった。

             採点  7.5(10点満点平均6)




『ビギナー』  第6話

演出:松山博昭
脚本:水橋文美江

今回もせつなかった。
森乃(松雪泰子)の過去を絡めた
今日子(室井滋)のエピソードだけでなく、
少しコミカルにアレンジした
黒沢(横山めぐみ)のエピソードも絡めた点が
構成として正しかったと思う。

最後、厳しい言葉で森乃が過去と決別したシーンも
見ごたえがあった。

最近、このドラマのオープニングの音楽が鳴ると
ワクワクして仕方がない。

             採点  7.5(10点満点平均6)




『ビギナー』  第7話

演出:川村泰祐
脚本:水橋文美江

実際の司法修習でも
裁判所、検察庁、弁護士事務所での
実務修習を行うわけだけど、
今回は裁判所の実務修習にあたるストーリー。

係争中の事件を議論し合うという構成で、
初めて結論が出ないまま次回に持ち越された。

社会的に弱い立場の人間が事件関係者の中にいる、
という部分は今までと同じでも、
殺人事件ということでシビアな議論になった。

その中でエリートだった桐原(堤真一)の考え方、
検事を目指す松永(奥菜恵)の考え方が
他のメンバーと衝突するという展開に。

まだ結論は出ない段階だけど、
それでも楓(ミムラ)のキャラクターが
この議論の中でよく表現されていたと思う。

ずっと最後は“妥当です”という
スッキリとした合議がなされていた流れの中で、
初めて意見がぶつかったままになったストーリーを
一緒に写真を撮れなかったという
母との手紙のやりとりで括っていた構成がまた見事だった。

             採点  8.0(10点満点平均6)




『ビギナー』  第8話

演出:水田成英
脚本:水橋文美江

やっぱりいいドラマだなあ。
ミムラもすごくいいよ。

今回、桐原(堤真一)が傍聴席で泣いた、
という部分だけでなくて、
その前の羽佐間(オダギリジョー)との会話から
桐原の心情をきちんと描いていたところが良かった。

そして裁判では泣かなかった楓(ミムラ)が
自分の書いた殺人罪適用の起案を読み上げて泣くシーンも。
泣くのはこれが最初で最後、みたいな決意が感じられて良かった。

もう我修院達也の起用理由なんかどうでもいい。
山口P、水橋文美江コンビの作品がもっと見たい。

             採点  8.0(10点満点平均6)




『ビギナー』  第9話

演出:松山博昭
脚本:水橋文美江

検察実務修習のエピソード。
7・8話と裁判所の実務修習で
シビアな殺人事件を扱ったので、
今回はかなり笑えるシーンを盛り込んだ内容だった。

とくに2話以降から頻繁に使っている
登場人物の心の声が効果的。
楓(ミムラ)が「人」という字を手のひらに書いた後、
“飲み込むんだろうね。……胸に当ててるよ!”
という松永(奥菜恵)のひとりツッコミは最高だった。

あと、楓の素直なキャラクターを活かしたボケ。
8人による検証でいきなり楓が踊り出したシーンは
コテコテなのにやたら笑ってしまった。

楓が松永に自前のメモ帳を渡そうとするシーンも
最初はこのボケの一部なんだけど、
それが最後にはストーリーに食い込んでくるあたり、
水橋文美江のうまさを感じる。

構成としては、
5話とはまた違う2人の組み合わせで
実務修習に当たった設定がうまかった。

これでさらにお互いが相手を理解する、
という効果を生み出していたわけだけど、
メインとなったのはもちろん楓と松永のセット。

その中で事件の真実を暴いただけでなく、
恋愛の要素も軽く絡めて
松永が楓を認めるシーンはかなり感動的だった。

5話と同じように楓が担当した事件以外が
かなりあっさりと描かれてしまったり、
ジョン(葉山力樹)の取り調べで8人全員が勢揃いしたりと、
形良く収めてしまった傾向は確かにある。
でも何を優先して描くかという作品の方向性を考えれば
とくにマイナスとは言えないと思う。

ラストで羽佐間(オダギリジョー)が
楓を映画に誘わなかったのはもの足りなかった気もするするけど、
そこがこの司法修習を舞台にしたドラマらしくて良かったと思う。

             採点  8.0(10点満点平均6)




『ビギナー』  第10話 最終回の1回まえ

演出:川村泰祐
脚本:水橋文美江

何のドラマだっけなあ。
「最終回の1回まえ」みたいな表示、
以前もやったことあるよなあ。
たぶん、山口Pの作品だと思うけど…。

で、その「最終回の1回まえ」の内容は、
冤罪を扱ったエピソード。
それを課題や実務研修ではなく、
楓(ミムラ)自身が巻き込まれるという
展開にしたのは面白かった。

ただ「最終回の1回まえ」ということもあって
それほど冤罪そのものについては深く切り込まず、
むしろ主要メンバーの人間性にスポットを当てていた。

楓が仲間だからといってただ無罪を主張するわけではなく、
客観的に楓の行動を議論していったのは
このドラマらしくて良かった。

逆にそこで描かれるメンバーの人間性などに
あまり新しい面が見られなかったのが残念。
まあ「最終回の1回まえ」だから
そんなに新しい側面を出す必要もないんだけどね。

最終回は比較的重ための
森乃(松雪泰子)の過去をモチーフに話が進む模様。

最後までこのドラマらしい
気持ちのいい内容で締めて欲しい。

             採点  7.5(10点満点平均6)



『ビギナー』  最終話

演出:水田成英
脚本:水橋文美江

最後の課題として出されたマグロの不当表示事件。
羽佐間(オダギリジョー)が大手弁護士事務所に出した起案。
桐原(堤真一)のプロポーズに対する森乃(松雪泰子)の返事。
そして8人それぞれの進路。
このすべてを最後の討論で絡めた脚本は見事だった。

森乃の過去に関しては
裏社会から足を洗ったキッカケが自らの告発だったこと、
その後、勉強して司法試験を突破したことなどから
検察官に任命されるという展開に。

この部分に関することだけでなく、
全体的に簡潔に描く傾向はあったので
多少、強引に展開する場面は確かにあった。

でも、この「ビギナー」のトーンを守りながら
司法修習生として最後まで課題を議論し、
ひとりひとりのキャラクターを大事にした作りは
実に見ていて気持ちのいいものだった。

森乃が自分の将来を決める過程で楓(ミムラ)が言った
“自分のことは自分で決めるべきです”
というセリフも効果的だったし。

恋愛に関する要素も桐原と森乃に関しては
様々な経験をしてきた2人らしい大人の結論で決着。
楓と羽佐間に関しても今後を暗示させる程度で
キスシーンもなく終わらせた。
ドラマ全体で考えれば
このバランスも絶妙だったと言っていいだろう。

物語の締めは、
今まで何度もやってきた課題の検証に沿って
「指紋は5年後も残っているか」という立証。
そのシーンを8人が確かに一緒に勉強したという証しに代えた。

放送前はヒロイン・ミムラの売り出し方に
かなり穿った見方もされたこの作品。
でも、実際に完成したドラマは実にセンスの良い
賞賛に値する作品だった。

             採点  8.5(10点満点平均6)

                  脚本  ★★★★★
                  演出  ★★★★★
                  配役  ★★★★☆
                  主題歌 ★★★★☆
                  音楽  ★★★★★
                  新鮮さ ★★★☆☆
                  話題性 ★★★☆☆

           平均採点  7.68(10点満点平均6)




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