タイトル■ドラマは何でも教えてくれる
書き手 ■ロビー田中

放映中のTVドラマを“ほぼすべて”見ている、
驚異のドラマ通による、ドラマに関するコラム。

“TVドラマなんかくだらない”と言う人に、
あえて反論するつもりはありません。ただ、
“すべてのTVドラマがくだらないわけでは
ない”とだけ言っておきます。これからも僕は
TVドラマを見続けていくでしょう」(田中)

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『高校教師』 1/10〜

TBS系 金曜10時  期待度 ★★★★★

10年前に脚本家・野島伸司の名前を
決定的なものにした名作が再び。

続編でもリメイクでもないが、
舞台は同じ日向女子高校。
英語教師の藤村はそのまま学校に残っている設定で
10年前と同じ京本政樹が演じる。
主題歌はもちろん森田童子の「ぼくたちの失敗」。

主役は教師役に藤木直人、生徒役に上戸彩。
ちなみにヒロインの名前は繭から雛に変わる。

この主役2人に不安がないわけじゃないが、
「喪服のランデヴー」の時の藤木直人、
「金八先生」の時の上戸彩が合体して相乗効果を出せば
もしかしたら10年前の真田広之・桜井幸子に近づけるかもしれない。

キャスティングでの注目は
上戸彩の同級生役でソニンが出演すること。
今、ソニンは最も期待を裏切らないタレントなので(笑)
いろんな意味で注目したい。

制作サイド的なトピックとしては、
今はもうTBSエンターテイメントの
会長になっている鴨下信一が
10年前と同じようにメイン演出を担当すること。
TBSもかなり威信をかけている感じだ。

今さら誤解してる人もいないだろうけど、
「高校教師」はギリシャ神話をモチーフにした
ある意味、古典的なラブストーリー。

10年経った今、
野島伸司が提示する純愛がどう受け取られるのか、
そこにも注目してみたい。




『高校教師』  VOL.1 禁断の愛、再び

プロデュース:伊藤一尋
演出:鴨下信一
脚本:野島伸司
音楽:千住明
主題歌:「ぼくたちの失敗」森田童子
制作:TBS、TBSエンターテイメント
出演:藤木直人、上戸彩、ソニン、成宮寛貴、京本政樹、眞野あずさ、
   蒼井優、眞鍋かをり、大倉孝二、菅原大吉、他

一話ではまだ何とも言えない。
湖賀(藤木直人)の秘密が
難病っぽいものだったのは意外だったけど、
物語の焦点はむしろ湖賀が雛(上戸彩)に行う
「実験と観察」だと思うので、
あせらずじっくりと見ていきたい。

役者の演技力に不安を抱いたのは事実。
とくにソニンのセリフと間の取り方は気になった。
でもこれはそのうち解消されると思う。
このドラマに関して言えば、
そういう修正はスタッフができてしまうので。

上戸彩も完璧ではなかったけど、
湖賀が朝まで横で寝て欲しいと言った時の
“…いいよ”にはやはり非凡なものを感じた。

全体的には鴨下信一を
メイン演出に迎えられたのはかなり大きい。
独特な叙情的映像は
この純愛物語に欠かせないものだと思う。

とりあえず最初のキーパーソンは
橘(眞野あずさ)か?

             採点  7.0(10点満点平均6)



『高校教師』  VOL.2 先生の秘密

演出:吉田健
脚本:野島伸司

「実験と観察」とはそういう意味か。
野島伸司らしい。

やっぱり湖賀(藤木直人)は
余命半年の脳腫瘍だったけど、
それだけを単純に描くわけがないもんな。

あと半年の命と宣告された湖賀の気持ちを
本当に理解できる人間は誰もいない。
だから湖賀は自虐的になり、
失意と諦めの中にいた。

そんな時、湖賀と医師(眞野あずさ)との会話を、
頭を打って検査を受けていた雛(上戸彩)が聞いてしまう。
そして雛は自分が余命半年と勘違いをしてしまう。

それを否定せず、
君の命は半年だと告げる湖賀。
こうして湖賀は、
自分の“悲しみや苦しみを完璧に理解できる誰か”を手に入れた。

“愛とは理解力だ”
と、恋人(小島聖)に別れを告げた湖賀の
残酷な実験と観察。

この大きな主題に
藤村(京本政樹)や悠次(成宮寛貴)が
どう絡んでくるのか。
ちょっと興味が湧いてきたな

今回の上戸彩はほとんどミスがなかったと思う。
いい表情、いい声のトーンだった。

逆にソニンは最悪。
河原で雛と話す時の
“自分で言うのも何なんですけど”
ぐらいかな。
自然で良かったのは。

ソニンが足を引っ張らないことを祈る。

             採点  7.0(10点満点平均6)



『高校教師』  VOL.3 眠れないふたり

演出:吉田健
脚本:野島伸司

上戸彩はどんどん良くなっていく。
逆にソニンに加えて
成宮寛貴の演技も気になってきた。
早く何とかしてくれないと…。

今回は大きな展開はなく、
湖賀(藤木直人)が
思わず始めてしまった実験と観察について、
ハッキリと自覚していく内容だった。

ただ、藤村(京本政樹)が
視聴覚室でのレイプシーンを思い出したり、
会話の中で新庄(赤井英和)の話を持ち出したりした。
10年前のエピソードをどこまで絡めてくるのか。

嘘から始まった雛(上戸彩)の湖賀に対する依存。
実験によって始まった湖賀の雛に対する依存。

そして、
紅子(ソニン)は悠次(成宮寛貴)に、
手島(眞鍋かをり)は藤村に、
またあるいは、
橘(眞野あずさ)も湖賀に依存しているのかもしれない。

依存は果たして愛なのか。
このテーマを描く上で
藤村の存在が非常に興味深い。

             採点  7.0(10点満点平均6)



『高校教師』  VOL.4 哀しいデート

演出:今井夏木
脚本:野島伸司

野島伸司が描いていた雛像に
上戸彩はもうほとんど近づいたんじゃないだろうか。

湖賀(藤木直人)が“機嫌のいい時”に
2人で会話するシーンは、
10年前を思い出して懐かしい感じすらするな。

ところで先週は日テレに
「千と千尋の神隠し」をぶつけられて、
6.4%という低視聴率。
14日は「もののけ姫」ミサイルも用意されている。

来たな、日テレのジブリ攻撃が(笑)

湖賀(藤木直人)に対して
“エゴイストだと思わない?”と言った
橘(眞野あずさ)自身のエゴイズムが早く知りたい。

             採点  7.5(10点満点平均6)



『高校教師』  VOL.5 真夜中の対決

演出:今井夏木
脚本:野島伸司

悠次(成宮寛貴)がいくらクスリに詳しいからといって
横流ししている程度で脳腫瘍に関するのクスリを判別できるのか。
クスリを飲む時間が少し遅れただけで
湖賀(藤木直人)の症状があそこまで悪化するものなのか。
クスリを飲んだ途端に症状が回復するほど
即効性のあるクスリをこんなに早い段階から飲むものなのか。
などなど、今回は設定そのものに疑問点が多かった。

もちろん、
これらはかなり医学的な知識がないと正確には判別できないので
何とも言えないんだけど。

湖賀が学校の教室のガラスを割る場面は
野島伸司が誤解を受ける典型的なシーンかも。
個人的にはこのドラマのテーマに即したものだと思うので
あのシーンに関しての疑問はなかった。
成宮寛貴の役作りについては依然として疑問があるけどね。

今回、一番印象に残ったのは
むしろ藤村(京本政樹)のセリフか。

“僕の中には相反する2つのタイプがあってね。
 健康的で健全な人に惹かれる気持ちと
 一方でメンタルで分かり合える…、
 いや、分かり合えなくてもいい。
 情緒の深さ、ある種の病的な深度が似ている人に
 惹かれる気持ちがあるんだ”

こういうことをハッキリ言うところが野島伸司らしい。
つまり、野島伸司のドラマは難解なようで
実はとても分かりやすいんだな。

橘(眞野あずさ)の旦那が
ガンで死んでいることが明かされた今回。
やっぱり橘の真意が早く知りたい。

             採点  7.0(10点満点平均6)




『高校教師』  VOL.6 片想いのチョコ

演出:吉田健
脚本:野島伸司

手島(眞鍋かをり)は
日向女子校の卒業生だったか。

そして藤村(京本政樹)は
かつて教え子をレイプして撮ったビデオを
まだロッカーに持っていた。

予想以上に前作とのリンクがあるなあ。

湖賀(藤木直人)と雛(上戸彩)の関係については
丁寧といえば丁寧だけど、
展開が遅いといえば遅い。

2人のシーンは心地いいので
いらつきはしないけど、
藤村のパーツとの関連がまだ薄いため
全体的な重厚感を削いでいる感じはする。

ところで、橘(眞野あずさ)の心情は
今回、かなり明かされた。
現段階では予想よりもかなり薄い関わりだった。
でもまだこの先どうなるかは分からないな。

野島伸司のことだから
ジョーカーはまだ手の中にあると思う。

             採点  7.0(10点満点平均6)




『高校教師』  VOL.7 ふたりが結ばれた夜

演出:吉田健
脚本:野島伸司

このテーマで雛(上戸彩)と湖賀(藤木直人)が
結ばれるのは重要なことなので、
上戸彩も頑張ってラブシーンを演じた。

“依存は内にこもる。
 排他的で希望を見出せない”
だから依存と恋愛は違う、
というのが橘(眞野あずさ)の意見だったけど、
雛と湖賀はお互いに相手を見ることで
希望を見てしまう。

その結果、
“死にたくない”と強烈に感じてしまう。

依存が愛なのかどうか、というより
そのことで引き起こされる感情の方に
スポットを当てた描き方だった。

そしてついに藤村(京本政樹)が
湖賀の病気を知るという展開に。

やっと本格的に藤村と湖賀がリンクしてきそうだ。

             採点  7.0(10点満点平均6)




『高校教師』  VOL.8 許されない嘘

演出:今井夏木
脚本:野島伸司

もう8話なんだから当然といえば当然だけど、
意外と唐突に雛(上戸彩)が真実を知ることになった。

雛のリアクションは
“先生は人間じゃない。悪魔だよ”

とりあえずここでは小細工なしということか。
次回からだな、このドラマは。

宇宙の塵となっても再び出会える確立を知りたいのは
今や湖賀(藤木直人)自身。
そのことを雛がどう受け入れるのか。

それにしても藤村(京本政樹)が
まだ直接的には絡んでこないなあ。
大丈夫か?

             採点  7.0(10点満点平均6)




『高校教師』  VOL.9 壊れかけた先生

演出:今井夏木
脚本:野島伸司

やっぱり野島伸司はうまいな。
雛(上戸彩)が湖賀(藤木直人)を軽蔑し、
すべてを忘れようと努力し、
迷いの中で自分が湖賀の孤独を癒そうと思い直し、
結局はそばにいることさえできないと湖賀に告げる展開は、
一見、単純なようでいて
セリフで紡ぎ出していく行為は難しい。

一度は自分の死期を知って
恋人と別れたこともある湖賀の狼狽ぶりが
雛に対する特別な感情も際立たせていて、
プロットの緻密さを証明している。

もちろんこれは、藤村(京本政樹)が
手島(眞鍋かをり)との結婚を考えることにも
対応しているわけだけど。

今回はやっぱり、悠次(成宮寛貴)が藤村に
紅子(ソニン)のビデオも持っていると告げた時、
藤村が大笑いするシーンが印象的だった。

何も経験がない愚かな子供と
依存と愛について悩む若者の対比も面白い。

             採点  7.5(10点満点平均6)




『高校教師』  VOL.10 よみがえる純愛

演出:吉田健
脚本:野島伸司

今まで散りばめてきた布石が
一気に集結した感じ。

こういうテクニックに関しては
野島伸司の右に出る者はいないな。

個人的には橘(眞野あずさ)の心情が哀しくて
思わず泣いてしまった。
夫との想い出がある別荘というシチュエーションも含め、
湖賀(藤木直人)が橘の前から去るシーンは哀しかった。

藤村(京本政樹)に関するエピソードは
直接、湖賀と雛(上戸彩)に絡んでは来なかったけど、
こういう形で藤村の罪と報いを描くのなら納得できる。
最終回、手島(眞鍋かをり)がどう描かれるかにも興味が湧いてきた。

今回はまわりの人物にスポットが当たったこともあって
雛の心情についてはやや描き方が浅かったけど、
これは最終回にたっぷりと見せてくれると思う。

あと1回、最後まで堪能させてもらおう。

             採点  7.5(10点満点平均6)




『高校教師』  最終話 永遠の愛と死

演出:吉田健
脚本:野島伸司

10年前に「高校教師」を見た直後は、
作品として肯定はしていたものの
野島伸司自体を肯定していたわけではなかった。

「高校教師」はあくまでも純愛のひとつの形であって、
もし野島伸司がこれを最も純粋な愛と考えているなら
それは到底納得できなかったからだ。

ただ、その後に「この世の果て」を見て、
考えは変わった。

野島伸司はたったひとつの純粋な愛を描こうとしているわけではなく、
様々な形の愛を提示できる作家であることが分かったからだ。
それはその後の作品を見ても確認することができた。

ただし、そこで描かれる愛は常にハードルが高く、
時には無様に、時には血を流さなければ得ることはできない。
言い換えれば、この世に簡単に手に入る愛など無い、
と言っているようでもあった。

本当は愛を信じていないのに
いちばん愛されたいと願っているのが野島伸司である、
というのが個人的な野島伸司に対する印象であり、
だからこそ彼はこれからも愛の物語を書くべきだと思っている。

……前置きが長くなってしまった。
つまり、野島伸司の純愛に関する表現は、
少なくとも「高校教師」と「この世の果て」を
セットで見るべきだと思っているので、
今回の「高校教師」もラストの落としどころは納得ができた。

“I Love You”に留まっていた前作の「高校教師」に
「この世の果て」的な“I Need You”も加味していたから。

したがって最後にかなり強引な形でヘリコプターが出てきた時も
さほど違和感はなかった。
むしろ必要なアイテムだったとさえ思う。

ただ、果たして今回の湖賀(藤木直人)と雛(上戸彩)の物語に
「高校教師」というプラットホームを使うべきだったかどうかは
いささか疑問が残る。

最終回、藤村(京本政樹)の物語と
湖賀・雛の物語はリンクした。
10年前の藤村のレイプ事件は
彼なりの実験だったということで…。

しかし、罪を認識し、報いを受け、
許されて死んでいった藤村の物語をここまで描くのなら
それだけで独立させるべきだったのではないだろうか。

もちろん、藤村=京本政樹主演で
今、「高校教師」をやるというのでは
企画が通らないのは分かっている。
それでもこの藤村の物語は
湖賀と雛の物語と一緒にするには強烈すぎた。
そこが一番残念だった。

では仮に、
主人公が高校教師と女子高生という設定がベストだとして、
舞台を日向女子高校にせず、
まったく別の「高校教師」にしたとしたらどうなっていたか。

たぶん成功していたと思う。
それくらい湖賀と雛の物語のプロットには見どころがあった。

2人に投影される橘(眞野あずさ)の哀しみにしても、
最終回で“自分が死んじゃうと思ってた時より恐い”と言った
雛の複雑な心情にしても。

個人的にはそういう「高校教師」を見たかった。

             採点  7.0(10点満点平均6)

                  脚本  ★★★★☆
                  演出  ★★★★☆
                  配役  ★★★★☆
                  主題歌 ★★★★★
                  音楽  ★★★★☆
                  新鮮さ ★★★☆☆
                  話題性 ★★★☆☆

           平均採点  7.14(10点満点平均6)





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