タイトル■ドラマは何でも教えてくれる
書き手 ■ロビー田中

放映中のTVドラマを“ほぼすべて”見ている、
驚異のドラマ通による、ドラマに関するコラム。

“TVドラマなんかくだらない”と言う人に、
あえて反論するつもりはありません。ただ、
“すべてのTVドラマがくだらないわけでは
ない”とだけ言っておきます。これからも僕は
TVドラマを見続けていくでしょう」(田中)

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『すいか』
 7/12〜
日テレ系 土曜9時  期待度 ★★★☆☆

レトロな下宿屋を舞台に
自分らしく生きられない女性たちが
少しずつ成長していく姿を描くコメディー。

主演は連ドラ初主演の小林聡美。
同じ下宿屋に住む漫画家にともさかりえ。

ちなみに、脇役でもたいまさこも出るんだけど、
脚本は「やっぱり猫が好き」などを書いていた木皿泉。

何となくセンスのあるコメディーになる気がする。




『すいか』  第1話

チーフプロデュース:梅原幹
プロデュース:河野英裕
協力プロデュース:西口典子
演出:佐藤東弥
脚本:木皿泉
音楽:金子隆博
主題歌:「桃ノ花ビラ」大塚愛
制作:日本テレビ
出演:小林聡美、ともさかりえ、浅丘ルリ子、市川実日子、小泉今日子、
   高橋克実、金子貴俊、白石加代子、もたいまさこ、他

これはイイ! 
絶対に見るべき!

子供の頃、1999年に世界が滅亡すると思っていた女性たちが主人公。
ずっと自己主張をしない人生を送ってきた
地味なOLの基子(小林聡美)。
1999年に双子の姉を亡くし、
終わった世界を暮らしてきた絆(ともさかりえ)。

センスのいい笑いの中に
日常に埋もれたせつなさがにじみ出ていて、
「STAND UP!!」と同じ味の涙が出てくる。

賄い付きの下宿「ハピネス三茶」の大家・ゆか(市川実日子)、
39年間「ハピネス三茶」に住んでいる大学教授・夏子(浅丘ルリ子)、
この2人のキャラクターもいい。

あと、登場人物みんなが
すごく丁寧な言葉で会話をしているのも新鮮。

少なくともこの第1話では
マイナス要素がほとんどない。

ドラマをたくさん見る時間がないなら
「STAND UP!!」とコレだけは見て欲しい。

             採点  8.0(10点満点平均6)






『すいか』  第2話

演出:吉野洋
脚本:木皿泉

母親の一万円。
プールの入れ替え。
2つのショートケーキ。
ろうそくの匂い。

つーんと来るなあ。

おせんべいを吸って食べる母子とか
いろんなものの匂いを嗅ぐ絆(ともさかりえ)とか、
細かい描写もこのドラマらしい切り口。

初回を見逃した人には
ストーリーが分かりにくかったかもしれないけど、
全体のトーンは変わらず良かった。

今回から男性出演者が加わるのでちょっと心配したけど、
間々田(高橋克実)も野口(金子貴俊)も
スムーズに入り込めた感じ。

毎週、この世界に浸れるのかと思うとうれしい。

             採点  7.5(10点満点平均6)





『すいか』  第3話

演出:佐藤東弥
脚本:木皿泉

すごいなあ。
このドラマのクオリティーの高さは。

ひとことで言ってしまえば成長物語なんだろうけど、
それを日常的な些細なエピソードを細かく積み重ねるだけで
大きく深い物語にしてしまうんだよな。

それとやっぱり馬場ちゃん(小泉今日子)の存在は大きい。
彼女が第1話で取った行動が、
唯一、このドラマの非日常的なエピソードなんだけど、
自由を求めて不自由になってしまった彼女がいるからこそ、
基子(小林聡美)たちの日常がより鮮明に写っている。

あの第1話の衝撃は、
全体のトーンに対するものだけでなく、
大きな、でも身近な、
浸みるドラマの始まりだったんだなあ。

             採点  8.0(10点満点平均6)





『すいか』  第4話

演出:佐久間紀佳
脚本:木皿泉

もうあっぱれとしか言いようがない。
ほのぼのとしたドラマなのに
ものすごく緻密に構成されていて
これこそが大人の仕事って感じだった。

話は今回も、変わりたくても変われない、
どう変わればいいのか分からない、
基子(小林聡美)と絆(ともさかりえ)の
日常から始まるわけだけど、
ズル休みの電話をかけて疲れてしまう基子、
いつもの仕事なのに突然涙が出てきてしまう絆の描写が
まず見事だった。

このあたりの感情移入のさせ方が
このドラマのうまいところなんだよな。

そしてそんな日常に今回現れたのが、
馬場ちゃん(小泉今日子)のことを調べに来た刑事(片桐はいり)。
彼女が基子にかなり直接的なアドバイスを送ることになる。

この刑事の話を説教くさいと感じた人もいるかもしれないけど、
作品のテーマを考えると分かりやすくて良かったと思う。

完成度の高さを感じるのは
登場人物たちの関わり方。

馬場ちゃんになりたかったという基子にアドバイスをしたのが
馬場ちゃんを調べに来た刑事で、
基子が捨てた制服を拾って
ささやかな変身の手伝いをするのが絆。

絆は刑事のぬいぐるみも変身させ、
刑事が無くしてしまったぬいぐるみの目は
最後に基子が見つける。

まだ姉の呪縛から解けていない絆は
人との関わりを極端に苦手にしているけど、
絆もまたこうして人と関わっているんだよねえ。
だから絆っていう役名にしたのかもしれないけど…。

もちろん、教授(浅丘ルリ子)の悩みも
ゆか(市川実日子)の大切な記憶が救い、
間々田(高橋克実)の指輪も教授が最後に見つけた。

変わりたいと願う基子や絆と、
ずっと変わらずにいてくれる教授との対比も見事だった。

人はこうしていろんな人と関わり合いながら
少しずつ成長していく。

ゆかの母親も変わりたいと願ったのかもしれない。
そしてハピネス三茶を出ていったのかもしれない。
でも、プチプチにハマってすぐに飽きてしまったゆかは思う。

“お母さんも何か面白いことにハマっていたらいいのに。
 ひとつのことでなくていいから、
 明日も、次の日も、生きていたくなるような。
 それだけで幸せになれるようなものに
 ハマっていたらいいのに”

             採点  8.0(10点満点平均6)





『すいか』  第5話

演出:佐藤東弥
脚本:木皿泉

個人的に親子モノに弱いので、
絆(ともさかりえ)が実家で
メロンを食べる父親を見てしまったシーンと、
そのあと庭で教授(浅丘ルリ子)と話しながら
泣いてしまうシーンには相当やられた。

ただ、このドラマの神髄はむしろ、
基子(小林聡美)が出したハガキに対して
母親(白石加代子)に“ああ、基子。わっスイカだ”
ぐらいのリアクションしかさせないところだな。

同じくストーリー全体の締めに関しても、
普通なら基子が書く社内報の原稿そのものを感動的な内容にして
そこで泣かそうとするんだろうけど、
このドラマはそんなことはしない。

結局、社内報なんて誰も読んでなかったという
やたらリアリティーのある終わり方で、
エピソードの余韻だけで基子たちのささやかな成長と
ハピネス三茶を中心とした人のつながりを描いた。
見事だった。

             採点  8.0(10点満点平均6)





『すいか』  第6話

演出:佐久間紀佳
脚本:木皿泉

ちょっとファンタジックなお盆の話(笑)
最近の夏の連ドラで、
ここまでお盆をモチーフにした作品はなかったかもしれない。

教授(浅丘ルリ子)がその繋ぎを担当していたとはいえ、
恋愛に関する部分との繋がりはやや物足りなかった。
ただ、生きていくことの尊さ、
変化すること、成長することの意味など、
作品本来のテーマに沿った部分は
相変わらずうまく描けていたと思う。

「Dr.コトー診療所」に引き続き、
柏原収史が絆(ともさかりえ)の姉・結の婚約者として登場。
その柏原収史も良かったんだけど、
今回はともさかりえがいつもにも増して良かった。

姉に“会いたかったな”というセリフなんか、
それだけで泣けて来るくらい良かった。

個人的には基子(小林聡美)と母親(白石加代子)の
どうしようもなく親子なんだなあ、という些細な描写が好き。
そして基子と馬場ちゃん(小泉今日子)の関係も。

次回、24時間テレビで1回休みになってしまうのが
残念でたまらない。

             採点  7.5(10点満点平均6)





『すいか』  第7話

演出:佐藤東弥
脚本:山田あかね

今回は脚本家が木皿泉でなかったこともあって
いつもと少し雰囲気が違った。
テイストというより密度の問題かな。

飼い犬になるより苦労しても自由を選んだシンギング・ドッグ。
孤独な時は吠えて自分の居場所を伝えるシンギング・ドッグ。
このモチーフはまた直線的すぎたと思うけど、
そこから八木田(篠井英介)への絡め方、
八木田と教授(浅丘ルリ子)の会話を聞くことで変化する
基子(小林聡美)の母親の心境など、
大きな流れは相変わらず良かったと思う。

それにしても、
どんな生き方でもそれが自分で決めたことなら
「いてよし」と言ってくれる教授の存在は大きいな。

あと、いつも数カットだけの登場なのに
きちんと存在感を出している小泉今日子もスゴイ。

このドラマに大きな結末は必要ないけど、
馬場ちゃん(小泉今日子)がどうなるのかは楽しみだ。

             採点  7.0(10点満点平均6)






『すいか』  第8話

演出:吉野洋
脚本:木皿泉

浸みたなあ。
ある意味、最も「すいか」らしい回だったかも。

ケーキの病院の前で話す
基子(小林聡美)と母親(白石加代子)のシーンは圧巻。
これに教授(浅丘ルリ子)が遭遇した事件も絡めて、
今回のテーマをより深く描いていた。

こうなると間々田(高橋克実)の存在も貴重。
彼が軽く笑いを取ることで全体のメリハリも強調されていた。

全然関係ないけど、
「愛するために愛されたい」のスタッフに
このドラマの爪の垢でも煎じて飲ませてあげたくなったな。
「星。」はこうやって使うんだって(笑)

             採点  8.5(10点満点平均6)




『すいか』  第9話

演出:佐藤東弥
脚本:木皿泉

停電のシーンはまたストレート過ぎたか。
ただ、全体としては人とのつき合い方、
生きることの苦しさ、かけがえの無さなどを
相変わらずうまく描けていたと思う。

「独立記念日」と書かれた紅白まんじゅう、
馬場ちゃん(小泉今日子)の
“苦しいよ、早川”
はかなりグッと来たな。

最終回の予告の後、
今までの食卓シーンばかりを
フラッシュバックさせた映像は、
このドラマの姿勢を端的に表しているようで良かった。

             採点  7.5(10点満点平均6)





『すいか』  第10話

演出:佐藤東弥
脚本:木皿泉

最後はさすがに駆け足になっちゃったな。
内容的には90分スペシャルで見たかった感じ。
まあ、いつものように60分で終えるところが
「すいか」らしいんだけど…。

ストーリー的には
馬場ちゃん(小泉今日子)が最後まで
逃げ続けたことがトピックだった。

最近のテレビドラマではあまりやらない方法だけど、
(犯罪を肯定しているように取られるから)
この作品における馬場ちゃんは
“絶望の状況でも生きていけることを
身をもって証明してる”キャラだったので、
これはこれで良かったと思う。

もちろん、馬場ちゃん自身が
日常を捨ててしまったことを後悔してることは明らかで、
だからこそ早川(小林聡美)に対して
飛行機のチケットと買い物リストを選ばせたシーンは良かった。

早川が馬場ちゃんに新しい買い物リストを渡す展開、
忘れ物を取りに行くと言ったまま馬場ちゃんが去っていく場面など、
この2人に関するシーンはどれも印象的だっただけに、
絆(ともさかりえ)や教授(浅丘ルリ子)のエピソードが
散発的になってしまったのが残念だった。

もっと時間があれば
ただ繋げたような構成にはならなかったと思うけど…。

とは言うものの、
作品全体を通してみれば奇跡のようなドラマだった。

今のドラマ界において
この企画が通ったこと自体、今でも信じられない。
ドラマ分野においては
すでに守るものがなくなっている日テレだからこそ
できたのかもしれないな。

視聴率はそれほど良くなかったけど、
口コミで伝説化するタイプの作品なので
いつか多くの人に見てもらえたらと思う。

             採点  7.5(10点満点平均6)

                  脚本  ★★★★★
                  演出  ★★★★★
                  配役  ★★★★★
                  主題歌 ★★★☆☆
                  音楽  ★★★☆☆
                  新鮮さ ★★★★☆
                  話題性 ★★★☆☆

           平均採点  7.75(10点満点平均6)








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