タイトル■ドラマは何でも教えてくれる
書き手 ■ロビー田中

放映中のTVドラマを“ほぼすべて”見ている、
驚異のドラマ通による、ドラマに関するコラム。

“TVドラマなんかくだらない”と言う人に、
あえて反論するつもりはありません。ただ、
“すべてのTVドラマがくだらないわけでは
ない”とだけ言っておきます。これからも僕は
TVドラマを見続けていくでしょう」(田中)

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第40話「木更津キャッツアイに関する一考察」

来週から4〜6月期の連ドラも始まるけど、
1〜3月期、最も印象に残った
『木更津キャッアイ』について
気になっていることをつれづれなるままに
書いてみたりして…。

 

最終回、美礼先生(薬師丸ひろ子)の肩に
なぜ“しじみ”がついていたのか。

もちろん、あのシーンは
死を目前にしても
人間なんて意外とああいうどうでもいいことが
気になってしまうものではないか、
ということを表す面白い描写だった。

そして木更津といえば潮干狩り。あさりとしじみ。
あさりは4話あたりから度々出てきているので、
最後にしじみが出てきても不思議ではない。

でも、本当にそれだけだろうか?

 

古典落語に「しじみ売り」という話がある。
あさりやしじみを担いで売りに来る
しじみ売りが出てくる噺で、
関東では古今亭志ん生が得意としていた人情噺だ。

志ん生のCDには入ってないけど、この噺をする時、
しじみ売りの「あさり〜、しじみ〜」という物売り声を
「あっさり〜、しんじめ〜(あっさり死んじまえ)」
「おい、縁起でもねえこと言うな」
とやる人もいるらしい。

死をテーマにした
今回の『木更津〜』のことを考えると
なかなか面白い符号だ。

そして、しじみ売りは朝の商売なので
「朝だよ〜」というかけ声と共にやってくる。

『木更津〜』の最初のセリフは
オジー(古田新太)の「朝だよ〜」で、
最後のセリフは狸の置物になった
オジーとぶっさん(岡田准一)の「朝だよ〜」だった。

あれ? これまた関連が…

しかし、『木更津〜』の脚本家・宮藤官九郎の
インタビューによると、
当初、舞台は東京から近い、中途半端な地方都市で、
都会でも田舎でもない、船橋や松戸を考えていた、
とのこと。

つまり、あさりやしじみで有名な木更津が舞台になったのは
ロケの都合などによる偶然だったらしい。
(ちなみに「しじみ売り」の舞台は汐留)

ということは、
この「しじみ売り」との符号は偶然なのか。

いや、どうしても気になる。
この「しじみ売り」は
大長編の講談の一部を落語にしたもので
主人公は天下の義賊、鼠小僧次郎吉なのだ。

『木更津〜』の主人公たちも
もちろんキャッアイを名乗る義賊。

これも偶然なのか?
本当は宮藤官九郎の頭の中には
最初から「しじみ売り」の噺が
インプットされていたのではないか?
だから最後に美礼先生の肩についているものは
他の何物でもなく、
しじみにこだわりたかったのではないか?

 

……そんなことを考える、春の一日なのであった。
(「しじみ売り」は『木更津〜』の放送時期と同じ冬の演題)





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