タイトル■ドラマは何でも教えてくれる
書き手 ■ロビー田中

放映中のTVドラマを“ほぼすべて”見ている、
驚異のドラマ通による、ドラマに関するコラム。

“TVドラマなんかくだらない”と言う人に、
あえて反論するつもりはありません。ただ、
“すべてのTVドラマがくだらないわけでは
ない”とだけ言っておきます。これからも僕は
TVドラマを見続けていくでしょう」(田中)

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第97話「“北の国から”の21年」

連続ドラマ「北の国から」が始まったのは、1981年10月9日。
2クール(半年間)に渡って放送された作品で、
平均視聴率は14.8%(関東)だった。

9月からTBSでは山田太一の
「想い出づくり。」が放送されていて、
前半は完全にバッティングしていたのだった。

自分がどちらをリアルタイムで見ていたのかは
ハッキリと想い出せない。
当時、家にはビデオがなかったので、
どちらかをリアルタイムで、
どちらかを再放送で見たんだと思う。

ただ、当時の評判は、
やはり「想い出づくり。」の方が高かったと記憶している。

あの「北の国から」の純や蛍の成長を
その後、21年間に渡って目撃するとは、
誰も想像していなかったのだ。

スペシャルの第1弾は「'83冬」だった。
正吉の母親が富良野を出て行き、正吉が五郎の家に引き取られる話。
蛍が一緒に住んでいる正吉に年賀状を出すエピソードもこの中にあった。
平均視聴率は26.4%。

第2弾は「'84夏」。
純と正吉の火の不始末で丸太小屋が焼けてしまう話だ。
ずっと正吉のせいにし続けた純が、
ラーメン屋で自分は卑怯な人間だと五郎に詫びるシーンはあまりにも有名。
平均視聴率は24.3%。

第3弾は「'87初恋」。
中学生になった純が、れいちゃんと恋に落ちる話。
ふたりで東京の定時制高校へ通うことを夢見るが、
結局、れいちゃんの家は借金を抱え夜逃げをすることになり、
純はひとりで東京へ。
東京へ向かう長距離トラックの中で
泥の付いた1万円札を古尾谷雅人演じる運転手に突き返されるシーンは
「北の国から」の忘れられない名場面のひとつ。
平均視聴率は20.5%。

第4弾は「'89帰郷」。
泥の付いた1万円札を取り戻すために
純が東京で傷害事件を起こしてしまう話。
蛍が勇次と出会い、ファーストキスをするのもこのスペシャル。
東京で何もかもうまくいかない純が
富良野に帰って来てもいいかと五郎に聞くが、
ダメだと言われる風呂場のシーンは、
個人的に最も印象深いエピソード。
ラストではれいちゃんの居場所が分かり、
札幌で純とデートするシーンもあった。
平均視聴率は33.3%。

第5弾は「'92巣立ち」。
前編と後編に分け、2夜連続で放送された。
純が東京でタマコと出会い、
妊娠、堕胎に直面するという話。
自衛隊員になった正吉も登場する。
タマコの父親に誠意をみせるため、
五郎は丸太小屋を作るための丸太をすべて売ってしまうが、
今度は拾った石で家を作り始める。
ラストは吹雪の中、五郎が屋根から足を滑らせて
雪に埋まってしまうシーン。
五郎は今まで身につけた知恵を使い、自力で生還する。
平均視聴率は前編が32.2%、後編が31.7%。

第6弾は「'95秘密」。
結婚するれいちゃんとは別れ、
純がシュウとつき合っていくことを決意する話。
蛍も勇次とは別れ、
妻のいる男性と駆け落ちをする。
純は正吉と2人でアパート住まい。
AVに出演していたというシュウの過去を
純が悩みながらも受け入れていく部分が見どころだった。
平均視聴率は30.8%。

第7弾は「'98時代」。
これも前編と後編、2回に分けて放送された。
蛍と正吉が結婚する話。
そして草太にいちゃんが死んでしまう話。
蛍は駆け落ちした男性との子供を身ごもったままひとりに。
正吉はすべてを受け止めて蛍にプロポーズする。
雪子おばさんはこのスペシャルで離婚し、富良野に住むことに。
草太が死んだあと、
純と正吉が農場を継ぐことになる。
平均視聴率は前編が25.9%、後編が24.8%。

こうしてずっと北の大地で生き続けていた黒板一家だが、
スタッフの高齢化という理由で打ち切りが決定した。
多くのスタッフが定年の60歳を過ぎ、
この先、同じクオリティーで作り続けることは
困難であると判断されたからだ。

そして「北の国から」の最終回、
「2002」遺言は作られた。


『北の国から 2002 遺言』

プロデュース:中村敏夫、杉田成道
演出:杉田成道
脚本:倉本聰
音楽:さだまさし
制作:フジテレビ、フジクリエイティブコーポレーション
出演:田中邦衛、吉岡秀隆、中嶋朋子、地井武男、竹下景子、内田有紀、
   唐十郎、岸谷五朗、柳葉敏郎、杉浦直樹、高橋昌也、布施博、
   ガッツ石松、原田美枝子、岩城滉一、宮沢りえ、清水まゆみ、
   中島ひろ子、沢木哲、串田和美、根岸季衣、平賀雅臣、春海四方、
   水津聡、円城寺あや、佐戸井けん太、山崎銀之丞、他

「'98時代」の撮影中、
ドラマの中の蛍と同じように妊娠していた中嶋朋子だが、
今回、蛍の息子役には、
中嶋朋子の実の息子が起用された。

中嶋朋子自身は固辞したようだが、
本当の母親を見る子供の視線を撮りたいというスタッフの強い希望で
最初で最後と思われる親子共演が実現したのだった。

今回のスペシャルはこの親子共演もひとつのトピックだったが、
もうひとつ、中沢桂仁の不参加も大きなポイントだった。

正吉役の中沢佳仁が仕事の都合で出演できないことは
制作発表当時から伝えられていた。

彼はもうずっと前から役者を廃業していて、
「北の国から」の時だけ役者の仕事をしていただけなのだ。

確か大工さんか何かで、
今はもう棟梁になっているはず。
責任ある立場になったので、
長期間、仕事を休むわけにはいかないという理由だった。

今回のストーリーは
そのことを前提として作られたわけだが、
この正吉の不在、
そして最終章であることから
作品に何らかの区切りをつけなくてはいけないことが、
ストーリーをやや緩慢にしてしまったと思う。

とくに最終章という意味で
オールスター的キャスティングになったのは、
ひとつの作品としてはマイナスだったような気がする。

もちろん、個人的に涼子先生(原田美枝子)の出演などは
涙が出るほど嬉しかった。
純(吉岡秀隆)や蛍(中嶋朋子)が小さかった連ドラ版において、
やはり涼子先生の存在は大きかったので。

ただ、シュウ(宮沢りえ)のシーンなどは、
誰かのナレーションだけで片づけてもよかったかもしれない。
それでも最終章となれば宮沢りえを出さないわけにはいかないし、
そうなればあのくらいのシーンは作らないといけない。

とくに前編は
こうしたオールスターキャストの積み重ねが
大きなストーリーにのめり込んでいくのを
妨げていたのではないだろうか。

それでも、
中畑のおじさん(地井武男)に関するエピソード、
そして結(内田有紀)の父・トド(唐十郎)が出てきたあたりから
物語は急速に締まった。

まず、中畑家に関するエピソードは
序盤に出てきた雪子おばさん(竹下景子)の息子、
大介(沢木哲)と絡めてかなり印象的だった。

確かに時代は変わって
メールで友達を作り、
メールでコミュニケーションを取るのは当たり前になっている。

しかし、中畑のおじさんのような状況に陥った時、
その友達はすぐに駆けつけてくれるのか。
無償で手助けをしてくれるのか。
ここには倉本聰の強い警鐘があったような気がする。

地井武男の号泣はすさまじいものがあったが、
メイキングで明かされたように、
地井武男自身も妻を同時期にガンで亡くしていた。

もともとこのエピソードは
中畑木材のモデルとなった麓郷木材の奥さんが
ガンで亡くなったことに対する鎮魂歌の意味合いが強かったが、
地井武男自身の私生活ともダブり、
演技を越えた号泣シーンとなってしまった。

そして唐十郎が演じるトドのキャラクター。
五郎(田中邦衛)にしてもトドにしても、
30歳やそこらのガキでは到底太刀打ちできない強さがある。

「北の国から」を見て、純や蛍の成長を見るたびに、
自分もトシを取ったなあ、と思うことがあるが、
逆にそこで描かれる五郎や今回のトドのような人物を見ると、
自分のオコチャマ加減に愕然とすることがある。

年齢を重ねること、経験を積むこと、
そして大人になること。
そんな当たり前のことがいかに難しいか、
このドラマは時折、我々に鋭く突きつけてくる。

しかし、五郎やトドも
いつかは三沢のおじいさん(高橋昌也)のようになってしまう。
すまない、すまない、と言いながら
誰かに下の世話をしてもらうようになる。

そのことをどれくらいの若者が実感として理解しているのか。
かつては強い大人だったと、
畏敬の念をもって接することができるのか。
ここも今回の物語の大きなメッセージだった。

結果的に純の結婚相手となった結を演じた内田有紀は、
さすがにつか劇団で揉まれてきただけあって
存在感のある演技だった。

今まで純の相手役となった裕木奈江にしても宮沢りえにしても
芸能界という世界においては
その才能に比べて悲運な女優と言えるかもしれない。

最後の相手役となった内田有紀には
ぜひ今後も頑張ってもらいたい気がする。

個人的には結がひとりで富良野に来て、
スーパーや病院、役所などをまわり、
最後に神社でお参りするシーンが印象的だった。

人が普通に暮らしていくということ。
その普通という漠然とした基準を
「北の国から」はいつも示していたと思う。

富良野で純と暮らしていくことを決めた結の心情を、
シンプルに、そして日常的に描いた、
いいシーンだった。

そしてついに「北の国から」は終わってしまった。
倉本聰は終わらないと言っているので、
ラジオや舞台などで黒板家の物語は続くかもしれない。
あるいは新しいスタッフで
また「北の国から」が再開されるかもしれない。

それでも、我々がイメージする「北の国から」は
やはりこれで最後だろう。
決して賛辞ばかりが送られた作品ではなかったが、
日本のTVドラマ史に
間違いなく永遠に残る作品になったと思う。

“残すべきものは残した気がする
 残すべきものは伝えた気がする”

五郎の遺言通りに、
時折、この「北の国から」を見返しては
そこから何かを感じたいと思う。

                  脚本  ★★★★★
                  演出  ★★★★★
                  配役  ★★★★★
                  音楽  ★★★★★
                  新鮮さ ★★★★☆
                  話題性 ★★★★★

             採点  9.0(10点満点平均6)

平均視聴率は前編が38.4%、後編が33.6%。






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