タイトル■愛の400メートル自己批判 〜新・オナンの末裔〜
書き手 ■高井ジロル

「自己批判コラムを書かせていただく所存。
 今までに自分が書いたものとか、編集として
 携わってきたものとかを客観的に見たつもりで
 主観的に辛辣批評する予定なのだ」
と本人が語る、自分の作品を自己批判する企画。
真のナルシストによる新しい自画自賛の形?

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■ ■ 第ニの自己批判 ■ ■

「未来本 from2001 〜2001年日本の旅〜」より、
「未来へのメッセージ」

                   (発表/1992年)

新世紀の幕開けまであと9年と迫った年、
「未来本」という名の特集記事がフロム・エー誌を飾った。
科学が進展した2001年の日本社会を自由に想像し、
大判のイラストで楽しげに展開するという、
一大未来絵巻とでも呼ぶべき大特集である。

Science makes the future.
科学が人類に明るい未来をもたらしてくれると
半ば盲目的に信じられていた古きよき時代は
その頃既に過去のものとなっていた。
「未来って、そんなにバラ色のもんじゃないのかも…」。
予感が確信に変わろうとしていた20世紀の終わり。

そんな時代だからこそ、
あえて科学が見せてくれる夢を前向きに再現しよう。
まだ少しは科学への信頼イメージが残っている今だからこそ、
もう一度その夢を積極的に検証しよう。
新世紀を担うべき若き世代としての、
それは高らかな「科学と人類の共存宣言」であった。

蛇足として付け加えるならば、
悲観情報はびこる現代にあえて楽観情報ばかりを集めた「安心本」、
一攫千金情報大集結の「黄金本」と続いた
「○○本」シリーズ3部作の最後を飾る、
担当者的には非常に重要な一作だったようだ。

もちろん、未来を予想するなんて企画は珍しくもない。
最近も、2001年初冬に「TITLE」(文藝春秋)が
「PREVIEW2010 2010年、予告編!」
と題した一冊を送り出していたのは記憶に新しいところだ。
未来予想図を描いておきたいと思うのは、
ドリームがカムトゥルーな3人組ならずとも、
時代の境目に生命を授かった人間としては
ついつい身をまかせたくなる欲求なのであろう。

件の「未来本」も、
そうした欲求に思う存分身を投げ出した企画の一つであることは、
各イラストにつけられた見出しを拾うだけでも十分伝わる。

「ネオギンザで逢いましょう
 〜ケイコとU-JIRO(最新型サイボーイ)の楽しいデート〜」
「ぼくの先生は火星人
 〜コスモポリタニズム時代の学園風景〜」
「私を月に連れてって
 〜銀河旅行元年のスペースポート〜」
「ペア・リュック(小型飛行装置)でスカイラブ 
 〜ウイング・エイジの空中アミューズメント〜」
「土曜日は“マザーズ・デー”
 〜ロボコック革命後の食卓〜」

サ、サイボーイ? 
ウイング・エイジィ? 
ロボコック革命後の食卓ぅ?
欲求に身をまかせるのもほどほどにしとけ!
と言いたいところをぐっとこらえて続けよう。
(ちなみに、サイボーイはサイボーグ・ボーイの略、である)

誌面からは新しいアイディアもビジョンも工夫も何一つ見出せないが、
ステレオタイプな未来アイテムを落とさず提示することこそ
「ポップ」への道標なんだと担当者が割り切っていた、
と非常に好意的に解釈する限り、この辺のページに関しては、
見逃してやるに吝かでない。
勝手にやってれば? 
である。

だが、
同じ人間として、
とても見逃すわけにはいかないページがある。
それがこれ。

特集の締めくくりとして配置されたページだ。
上半分には「未来からのメッセージ」が。
今では日本船舶振興会(日本財団)でも言わないような、
箸にも棒にもかからない標語が並ぶ。
2001年の未来人から1992年の読者に送られたメッセージらしい。
「タイムパラドックスを生む危険性を考慮してみたが、
敢えてここに公開する」と書いてある。
時間の神をも恐れぬとは、
担当者の並々ならぬ決意があふれているとは言える。

上半分と対をなす下半分には、
「未来へのメッセージ」の文字。

そして、これはなんだろう?
色あせた自衛隊払い下げのコートにスキー用サングラス、
どっかで拾ってきた帽子にカビのはえたライダーブーツという、
意味不明かつ珍妙ないでたちの青年が、
堂々と腰に両手をやって空を見つめているではないか。
2000円で買った足元の中古トランクも実にみすぼらしい。
縦で入れるつもりでレイアウトしたのをうっかり忘れて
横位置で撮影してしまったのだろうか、
やけに無意味な空間が目立つこの写真。
謎を解くカギは、
隣に書かれたキャプションにあった。

「右の写真は、トランク型のタイムカプセルと、
それを守るタイムカプセル警備隊員の写真である」

おいおい、「写真」って言葉がダブってるよ!
と言いたいところをぐっとこらえて続けよう。

そう。
記事の未来予想図をながめた後は、
今度は自分で2001年の予想をしてみようよ、
と読者に呼びかけているわけ。
送ってくれたメッセージはタイムカプセルに保存して、
警備隊員が大事に守りますよ、というわけ。

この記事を一方通行で終わらせはしないぞ、という
担当者のせつない努力を批判したいわけではない。
徒労に終わったとしても、
そういう努力を否定するのは人として野暮である。

だが、
純粋なハートを持ってメッセージをしたためてよこした、
数少ない読者の心を踏みにじるような非道な振る舞いは、
たとえ記事のためであっても許してはならないはずである。
そんなことでは、いくら科学が進展しようが
明るい未来なんて来るはずないんである。

引用しよう。

「抽選で100名のメッセージをタイムカプセルに封印し、
2001年まで保管致します。
そして、2001年に発売されるフロム・エー誌上で、
一挙大公開します」

2002年の到来を確認後、
昨年一年間のフロム・エー誌をくまなくあさってみたが、
そんなページを見つけることはできなかった。

…詐欺じゃねーか!

(了)

・蛇足
1992年に「タイムカプセル警備隊員」だった男性は、
このウェブマガジンとは切っても切れない役職についていることを
付け加えておきたい。





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