タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

>>
これまでの記録


<123> 6月4日(火)

■■ がんばれニッポン ■■

午後5時半
テレビの前にドカっと座った。
初夏の日射しで明るい夕方。

日本vsベルギー戦。
それほど日本代表に思い入れのなかった俺でも
少々緊張していた。

しかも読んだばかりの「とるしえ」で
観戦モチベーションはかなり上がっている。

しかし、それはそれとして
なぜかテレビに映る「がんばれニッポン!」と
熱狂する人々と一緒になって盛り上がる気持ちは
やっぱりあまり沸いてこず、
なんとなく居心地の悪い思い。

客席に掲げられた無数の日の丸、
皇太子殿下。君が代…。

漠然と太平洋戦争のことを思う。

いや、愛国心自体は決して
悪いものではないと思っているのだけど、
なんだか素直にノレない。

そして、試合が始まってからも、
前半が終わるまで、
「自分が日本人じゃなかったら
 あんまり面白い試合じゃないな」
と思っていた。

日本、ベルギー
どちらにもこれといって
際立った魅力が見つけられず
試合内容は低調に思えた。

やはり熱心なサッカーファンじゃないと
わかりやすい世界一流レベルは楽しめても
そうでない微妙な試合は楽しめないのだろうか?
K-1グランプリは誰が見ても面白いけど、
K-1JAPANはそうでないように…

しかし、そもそも
なんで俺は素直に「がんばれニッポン!」
と思えないのだろう…?
自分の国を応援することは当たり前だろうに…?
性格が致命的に屈折してるのだろうか…?
いわゆる、単なるひねくれ者?

…などと試合の行方そっちのけで
考え始めてしまう始末。

そんな風にモヤモヤしてるうちに
後半が始まった
…と思ったら、ベルギーがゴーーーール!

見事なオーバーヘッドキック!

ヤバイ! 前半の雰囲気からして
これで決まりになっちゃうんじゃないか!?
やっぱり日本の勝利はまだ叶わぬ夢なのか?

一気に緊張感が高まる。
モヤモヤを忘れた。
グイッと身をのりだす。

すると今度は、鈴木がゴーーーーッル!

やったぞーーーーーーッ!

しかも、最後まで諦めず
粘りの末のゴールといった入れ方で
実に日本人ぽくていい!

悪い予感をかきけすようなタイミングで
すぐに点を取れたのもいい。
殊勲だ、鈴木ーッ!

そしてその興奮がさめやらぬうちに
稲本が来た!
そしてシュートッ!
ゴーーーーーーーーーーーーーーーッル!

うおおおおおおおお〜〜〜!

爆発する歓声!
俺も一緒に爆発!

単独で乗り込んできて
ズバッと決めたのがまたよかった!

かっこいい!見事!素晴らしい!

これで2点目!
もしかして勝てる…!?
歴史的瞬間がやってくる!?

もはやモヤモヤのかけらもなかった。
完全に試合に釘づけだ。
いい試合だーーーーッ!

日本が完全に優勢!
がんばれトルシエジャパン!

んが、ベルギーも伊達じゃなかった。
再び点を取りかえしてしまった。

むむむむ、やるな…

状況はまたリスタート。
だが、試合の主導権は
まだ日本が握っているように見える。
これからだ。
まだまだいけるぞ、ニッポン!

また稲本が来る!
そして、ゴーーーーーーーーーーーーーーーッル!

やったあああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!
これで勝ったあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!
稲本ぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!

…と大爆発したら、あら?
ファウル?

えええええええええええええええええええ〜〜〜〜〜〜ッ!?

ちょっと待たんかい、コラ!
どういうことやねん?

スローで見直す。
えっ?どこがいけないの????

つーか、さっきから
スロバキアのおっさんよー、
日本のファウルばっかりとりくさって
どうなってんじゃい、ワレ!

お前はミスターフレッドか!

あ、ミスターフレッドというのは、
ZERO-ONEで活躍中の悪役レフリーです。

外人レスラーが日本人をフォールすると
「ワットゥッスリッ!!」と
目にも止まらぬ超高速でカウント。

でも日本人レスラーがフォールの体勢に入っても
なかなかカウントを始めず、やっとマットを叩いても
「ワ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、トゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ウ、……」と
ハエが止まるような超スローモーション。さらに
「トゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」と
これ見よがしに観客に大袈裟アピールしてヒートを買う、
あからさまなえこひいきを芸とするレフリーです。
そんな人が実は弁護士だというので、驚きですが。

…んなこたーどうでもいい!

理由はさっぱりわからんが、
稲本のゴールは幻になってしまった。

仕方ない、もう1点入れればいいことだ。
いけいけニッポン!

しかし試合終了。
結局ドローか。
でも勝ちに等しい引き分けだ。

それでもやっぱりくやしい
…勝てた試合だった。

ただ結果はともかく、俺にとっては、
日本代表を素直に応援できるようになったことが
この日いちばんの収穫だった。
愛国心云々は置いておいても、
いいチームだと思えた。

前半は互いに探りあう地味な関節技の攻防で
後半は大技連発のシーソーゲーム、
そんなプロレスの名勝負のような戦いだった。
うん、いい試合だった。面白かった。

初勝利も本当に夢じゃないような気がする。
決勝トーナメント進出もあり得てきた!

海の向こうでは韓国が
悲願の初勝利を遂げた。
しかも圧倒的な試合内容で。

解説の人が「ポジティブ」と
表現していたけど、
まさにその言葉がピッタリな韓国。
強い攻撃的意識と素早い判断力が
あるように見えた。プレーも鮮やか。

身体的条件が変わらぬ韓国人の活躍は
日本人にとっても今後に希望が見えた。
アジアの逆襲、これが今回のテーマかも。

ところで、日本代表を見ていて
ずっと気になっていたのは
中田英寿の穏やかな表情だった。

劣勢になっても笑顔を浮かべ、
ムードメーカーを務めている様子には、
心を打たれるものがあった。

そして、翌日の新聞を見て驚いた。
日本代表でプレーするのは今回のW杯が
最後だと決めている、というではないか。

「国の名誉という鎧を着せられた国対抗の代表戦は、
 チームのために働くことが優先される。そんなサッ
 カーを終わりにし、自分を表現する場を探したい」
 (6月5日付 朝日新聞)

そうか、そういう覚悟だからこその
あの表情だったのか…。

日本代表の試合を見る上で
また新たなテーマが加わった。

次はロシアだ。


(つづく)





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