タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎
「狼はガガーリン空港へ行く」を主宰している男
の書く生活記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。
>>これまでの記録
<176> 7月14日(月)
■■ 海育ち・山育ち・街育ち ■■
『高原へいらっしゃい』というドラマを2話まとめて見た。
ロビーさんにはこてんぱんに書かれていたけど(笑)
俺は「おもしろい!つづきを見たい!」と思いました。たしかにかなり類型的なストーリーだし、
きっとオリジナルには遠く及ばないんだろうけど、
俺はもともとド素人が集まって困難に立ち向かうという
シチュエーションが大好きなのです。
たとえば野球の素人ばかりを集めて甲子園をめざす
水島新司の『おはようKジロー』とか。(たとえがマイナー?)
だから、このホテルがどうなるのか気になって仕方ない。
これがまずおもしろいと思った理由のひとつ。もうひとつ、このドラマをいいなと思った理由は
ただ単純に高原が舞台になっているから。長野県出身の俺は、高原は故郷の風景。
きりっと冷えた澄んだ空気。みずみずしい木々の香り。
青空と夏の山々の緑が描きだす、鮮やかなコントラスト。
ブラウン管を通じても、そんな空気の手触りや、
木の匂いを、懐かしく思いだすことができて、
あたかも高原にいるようで気持ちが安らぎます。で、おもしろいことに、ちょうど同じ時間帯に放映している
『Drコトー診療所』は沖縄の離島が舞台。海と山、対照的だ。これも良いドラマで、つい涙ぐんでしまうんだけど、
潮の香り、強い日射し、あたたかい風など
南の島の暮らしは想像できても、俺にとってはやっぱり別世界。
憧れはするけど、親密感を抱けるのは沖縄よりも八ヶ岳。
自分はやっぱり山育ちなんだなぁと改めて実感してしまう。ひとりの人間が形成されていく上で
育った環境というのは想像以上に大きいんだろう。
山育ち・海育ち・街育ち、それぞれで、
きっと懐かしいと思える風景も香りも風も全然違うのだ。
そういえば、『永遠のガンダム語録』という本をつくったときに、
とても印象に残っていることがある。
「あなたには、あの夕日の美しさもわからないみたいね」
これは戦争によって心の余裕を失ってしまったアムロに対して、
ある島で暮らしている少女が非難をこめて言ったセリフで、
俺にはしみじみと共感するところがあったんだけど、
このセリフを担当したライターさんはこんな感想を書いていた。
“僕はこの手にセリフには一番共感できない質だ。
灰色の空とコンクリートに囲まれ、建物だらけでごみごみしている東京で
生まれ育っているので、夕日が美しいと思ったことは一度もない。
(中略) 夕日より、赤く染まっていくビルとか、
闇に飲まれていく細い路地の方が美しいと思う。”
なるほどなあ、そういう人もいるんだなと驚いた。
彼にとっては、山や海といった自然よりも、
東京のビル群の方が懐かしく、ホッとできる光景なんだ。
山しかない信州や海しかない沖縄で暮らすのは
きっと苦痛で仕方ないだろう。今、我が家では湘南移住計画が懸案事項になっているのだけど、
俺はちょっと躊躇している。海のそばで暮らせたらいいなあと思う反面、
そういう暮らしが自分の肌に合うのだろうかと心配なのだ。
果てのない景色、湿っぽい潮風、海の匂い…。
旅行などではそれもいいなぁと思うんだけど、
エブリデイ、エブリタイムとなるとどうなんだろう…?まあ、長い人生そんな経験をしておくのも良さそうだが、
『高原へいらっしゃい』と『Drコトー』を見比べて、
ますます不安になってしまった。
(つづく)