タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

>>これまでの記録


<57> 2月26日(火)

■■ 音楽 ■■

LPを初めて聴いた時の
ことを覚えてますか?

あ、LPじゃ
今はもう通じない人も
いるのか。
アルバム、です
アルバム。

子供の頃に買ってもらった
「およげ!たいやきくん」
とかを除いて、
もっと意識的に音楽を
聴くようになった最初の1枚。

俺の場合は
サザンオールスターズの
「綺麗」というアルバムです。
たぶん中2の夏休み。

なんでサザンだったかというと
春に出たシングル
「ボディスペシャル」が
むちゃくちゃお気に入りだったので。

どのくらい好きだったかというと
学校行事の旅行で行われた
キャンプファイヤーのダンス曲として
強力にプッシュしたほど。
結局、多数決で「君に胸キュン」に負けたけど。
ま、あの歌詞じゃ中学生行事には
まったくふさわしくないわな。

で、たぶん「LP」というものを
買ってみたいという背伸び(?)した
気持ちもあったんだろう。
遊びに来ていた祖母にねだって
イトーヨーカドーで買ってもらった。

当時、引っ越したばかりの
新築の一軒家(それまで団地だった)
の居間で、
今ではもうあまり見かけない
家具調のステレオで聴いた。

もちろん自分の部屋に
ステレオなんてなかったからだ。

そうっとそうっと
袋から取り出し、
ホコリや傷をつけないように
慎重に慎重に針を落とし
聴いた。

引っ越したものの夏休み中だから、
転校先の学校には行っていない。
だから、まだ友達がいない
退屈な夏休みだった。

新品のソファ(それまでなかった)
に座って、何度も聴いた。
日当たりのいい広い部屋(それまで狭かった)
で、新生活に馴染むための
BGMのようにして聴いた。

アルバムというものは
いろいろなタイプの曲が入っていて、
曲順にも何か意図があり、
アートワークも含めて、
何かひとつの世界を作っているもの
だということを知った。

でも
こづかい(たしか当時、1ヵ月千円だっけ)
じゃ、なかなか
2800円もするLPは買えない。

だから、しゃぶるように
何度も何度も聴いた。
歌詞カードを見ながら、
全曲丸暗記できるくらいに聴いた。

たぶん次に聴いたのは
JAPANの「ブリキの太鼓」。

その夏休みが終わった、
秋の始めだった頃のように思う。

これは近所で発見した
レンタルレコード(!)で
借りてきた。

まだ洋楽のことはよく
わからなかったが、
「ストップ!! ひばりくん」の扉イラストに
江口寿史の聴いているアルバム名とかが
書いてあって、それに影響を受けて
借りてきたのだと思う。

一風堂の土屋昌巳が解散コンサートに
参加していたバンド、くらいの知識しかなかった。
これは「ザ・ベストテン」で仕入れた知識。

で、聴いてみると
まったく聴いたことのないような
音楽で、正直とまどった。
最初は「なんじゃこりゃ」と
思った記憶が残っている。

日曜日の夕方、
これまた居間で聴いているので
台所にいる母に
「なに、このお経みたいの?」
と文句(?)を言われた覚えがある。

録音の仕方も良くわからないので
ラジカセをステレオの前に置き、
「録音してるんだから静かにしてて!」
と威嚇して、録音ボタンを押した。

そして
「早くこの音楽の良さがわかるようになりたい!」
とか思いながら、
今度はラジカセを自分の部屋(それまでなかった)
に持っていき、録音したテープを
何度も何度も聴いた。

そして何度も聴くことによって
音楽が自分の身体の一部になっていく
快感がわかってきた。

少なくても10代の頃は、
この最初の体験に限らず
いつもそんな風にして音楽を
聴いていた。

買ってきたばかりの日は
他には何もせず、集中して聴いた。
ドキドキしながら聴いた。
わざわざ電気をつけないで
部屋を暗くして聴いたりもした。

1枚1枚じっくりと
耳をすまし、
ジャケットを絵画にように眺め、
歌詞カードや解説は熟読し、
そのアルバムを自分のものに
できるまで何度も何度も聴いた。

未知の世界との出会い、
自分を変えていってくれるもの、
自分を最も遠くに連れていってくれるもの、
音楽は自分にとって
そういうものだと思っていた。

けれど、大人になり
自由になるお金は増え、
気軽にCDを変えるようになった今なのに
そういう聴き方は
滅多にしなくなった。

歌詞カードはほとんどみないし、
曲名もまったく覚えない。
ヘタすると買ったきりロクに
聴かないこともある。

単に仕事中のBGM。
何かしながら聴くもの。
自分にとっての音楽は
今そんなものに
なってしまっている。

音楽によって
何かの衝動を受け、
自分でも押さえられないような興奮を
味わうことは滅多になくなった。

…と、ここまでは前置き。

久しぶりにそんな10代の頃のように
音楽が聴けた!

小沢健二の新譜「Eclectic」!

最初はいつものように
仕事しながら聴くつもりだった
…が、
最初の音を聴いた時に
パソコンは閉じた。

1曲1曲、
自分でもわけのわからない
興奮を感じながら、
暗くなっていく部屋で電気もつけずに
1枚アルバムを聴き通した。

ムチャクチャイイ!

ジャケットをじっくり見つめ
アートワークを堪能しながら
歌詞カードを追い、
全ての音を聴きもらすまいと聴く!

夜!!
闇!!
光!!
匂い!!
体温!!
官能!!
都会!!
ニューヨーク!!!

フラッシュバックのように
いろいろな感情が言葉が
脳の中でジュースミキサーのように
ぐるぐるどろどろ!

部屋がゆがんで広がっていく!

此所じゃない何処かへ意識が飛ぶ!

スゲエ!!!

「才能」ってのは
こういうもんなのかーッ!

この興奮は幸せだ!

只今爆発中!

(つづく)





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