タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

>>これまでの記録


<81> 3月28日(木)〜29日(金)

■■ A:偏らないミカタ ■■

「A」という映画を見てきました。

地下鉄サリン事件以後の
オウム真理教の様子を密着取材した
ドキュメンタリー映画です。

オウム真理教の広報担当をしている
Aという青年を中心に、
当時の教団、それをとりまく状況を
教団内部に入って
ビデオカメラで撮影しています。

特筆すべきことですが、
この映画は
オウムの側にも
世間の側にも立たず、
ただ、淡々と中立的に
その様子を記録し続けます。

字幕もナレーションも
何の説明もありません。

結論めいたものも
具体的なメッセージもありません。

彼らがなぜ
地下鉄サリン事件のような
大罪を犯した組織に
まだ残っているのか?
…結局のところ、
それもよくわかりません。

でも、すごく面白かったです。

よくわからないことを
わかったふりをしないで
ただ記録し、見せてくれることが
なんとも素晴らしい。

観察者に徹するという意味では
バクシーシ山下監督の
作品に似た手触りでした。

そんな風に撮影された
一連の犯行に関わってなかった(らしい)
信者達は
ある意味ノンキに見えます。
笑ってしまう場面も
多々あります。
もちろん痛ましかったり、
不可解でもあります。

「狂った殺人集団」のように
報道されていた信者達も
実は僕らと大して変わりない
良くも悪くも
普通の青年達であることが
見ているうちにわかってきます。

むしろ、怖かったのは
マスコミ、地域住民、警察など
我々「世間」の側でした。

どちらも特定の
「固定観念」を縛られた者同士で
その怖さ、滑稽さにおいて
大差はないです。

でも、この映画においては
教団の仲間が犯した「らしい」罪によって
自分たちの教団に
いくらかでも疑問を持ち始めた信者達よりも
(でも基本的には信じられない様子)
自分達を絶対的正義だと信じ、
そこに一切の疑問を持たない人々の方が
僕には、はるかに怖かったです。

「善」のためなら、何をしてもいいという
言動には恐怖を感じました。

別にオウムの味方をしようとは
思いませんが、
主人公Aさんは、正直に言って
「いい人」に見えました。
(余談だけど、ハリー・ポッターに似てた)
友達になれそうな気さえします。

しかし、そんな彼が
どうしていまだに
悪名高きオウムに残っているのか?
そもそも、なぜ入ったのか?
なぜ入らざるを得なかったのか?
日本の、あるいは
僕らの生きている世界が抱えている
問題の根は深いと感じます。

村上春樹による
オウム信者と元信者のインタビュー集
「約束された場所で」も
読みましたが、
今、改めてオウムにまつわる
いろいろな問題について
考えたいと思いました。

「A」は1998年に公開された作品で
現在、続編の「A2」が公開され始めました。
http://www.jdox.com/

それもさっそく見てきたいと思ってます。

「A」は東京近郊の方なら、
4/4まで渋谷のアップリンクという映画館で見られます。
サロンのような不思議な空間でした。
1400円でドリンク付きってのもいいです。
http://www.uplink.co.jp/

「A2」はBOX東中野でロングラン・ロードショウ中。
http://www.mmjp.or.jp/BOX/

パンフレットに書いてあった
鈴木邦男さんの言葉を引用させてもらいます。

“真実の姿を見ずに、ただ「オウムは悪い」
 と言っているのはやさしい。
 マスコミや一般の人々は向き合い、
 闘うことから逃れてきたのだ。
 オウムと向き合い闘ったのは唯一、この映画だけだ。
 全国民が見て考える義務がある”

僕は、義務とまでは言えませんが、
とにかく面白い映画だったので、
「見た方がいいですよ」
とは言いたい気持ちです。

135分間、まったく
退屈することはありません。

変なたとえかもしれないけど、
これもひとつの
青春映画だと思いました。

それにしても
このドキュメンタリーを作りあげた
森達也さんという監督はすごい!
自分の仕事の在り方、生き方についても
考えさせられました。

***
あ、これはあくまでも、僕の見方です。
いろいろ書いておいてナンですが、
見る時は、どうか忘れてください。
言うまでもないことだとは思いますが。


(つづく)





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