タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

>>これまでの記録


<96> 4月14日(日)

■■ 山おくの村へ ■■

今日は、市川先生が
(実際にはそう呼んでない)
先月まで働いていた「山おくの村」へ
蕎麦を食べに行くツアー。

市川くんが運転する大型ワゴンで
長野県の北へと向う。

進むごとに
まだ真っ白な北アルプスが
目の前に迫ってきて、
松本や塩尻のある中信地区とは
景色が変わっていく。

狼ガガの連載コラム「雪と先生」で
おなじみの「山おくの村」に来るのは初めて。
果たしてどんなところなのだろう?

到着すると、想像以上の田舎だった。
もちろん雪はもうないけど、
畑と民家がポツポツあるだけの
(もちろん商店は一軒もない)
おとぎ話のような、のんびりした世界。

蕎麦が名物らしく
蕎麦の店だけはいくつかあった。
我々は、市川先生の前の教え子の実家である
民宿に連れてきてもらった。

「あら、先生〜!」
なんて民宿で働いてる人々が
次々に親しそうに声をかけてくる。
その一人は村会議員さんだそう。

市川くんがこの地で、
ちゃんと地域の人に愛されながら
「先生」をしていたことがよくわかった。

「立派になったんだねぇ…」
改めてそういう光景を
目のあたりにすると感心してしまう。

当たり前の話だけど
もう給食をバカ食いしてた
中学生ではないのだ。

打ったばかりの蕎麦は、
瑞々しくて、実に美味しかった。
孝太郎くんは3枚も食べていた。

座敷の外には縁側があり、
そこから見えるのは一面の畑、
その向こうには、茶色い小さい山。
それにその向こうには
氷山のようにそびえる北アルプス。

縁側に座り
しばらくずっとその景色を眺めた。

何種類かの鳥の声と
農作業用の機械を動かす音しか聞こえない。
猫が寄ってきて
手や足をベロベコ舐めている。
日射しは強く、腿のあたりが
チリチリと熱い。

のどかだ。
時間がゆっくり流れ、
日本昔話のような風景が
心をほぐしてくれる。

このままビールでも飲んで
昼寝して、泊まっていきたくなった。

けどそうもいかない。
次回はこういうとこに宿を借りて
飲み会したいねぇ、なんて話をして、
おいとました。

「山おくの村小学校、見せてよ」
とリクエストして、連れていってもらう。

車でひとつ山を超え、
ずいぶん高いところまで登っていく。
山おく、というより山の上に
その学校はあった。
天空の城ラピュタみたい。

小さな小さな学校。
校庭はもちろんだだっ広い。

校舎の裏には
巨大なシロナガスクジラがいた。
いや、そのように見える
雪の山だった。
屋根から落ちてまだ溶けてない
雪のかたまり。
先日まで雪だらけだったことが
よくわかった。

校庭の脇にある用具室には
例のスノーモービルがあった。
しかし用具室の扉は開けっぱなし。
扱いもなんだか雑だ。

後任の先生がどうやら
ちゃんとしていないらしい。
市川先生達が必死に築いてきただろう世界が、
そこを去ってわずか数週間で
こわれ始めてしまってる。
なんだか、せつない。
市川くんが帰りにその扉を締めた。

山を下る。
下るといかに高い場所に
その学校があったかがわかる。

赤や青の三角型のトタン屋根の
家が下界にいくつか見えてくる。
雪国だなぁ、と思う。
こういう屋根じゃないと
雪で家が潰れてしまうのだ。

いろんな村を通りすぎながら長野市に向う。

桜や梅、菜の花、
赤や黄色のカラフルなチューリップ、
雪国にも確実に春が訪れている。
考えてみると、
こんなにも桜を堪能してる春は
今までなかったかも。

田舎道は続く。
ラジオからシュガーベイブの
「DOWN TOWN」が聴こえる。

“ダウンタウンへくりだそう♪”

山下達郎の歌声が
ずいぶん遠くに感じる。
ここでは「ダウンタウン」なんて
全然リアリティがない。
くりだしようがない。
別の惑星の話みたいだ。

山や川を超え、
いくつもの桜の群れを眺めていると、
やがて村から町へ風景が変わり
長野県いちばんの都会、長野市へ。

長野駅の構内ではジャズバンドが
演奏の準備をしていた。

1曲くらい聴きたかったが、
すぐに発車時刻になってしまった。

改札で別れる。
俺は長野新幹線で東京へ。
みんなはまた塩尻へ。

こうして帰ってくると
すぐに集まってくれるみんなに感謝。
故郷や旧友はいいものだ。

そんなことを思いながら、
シュガーベイブがリアルに
聴こえる街へまた帰るのだった。



(つづく)





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