タイトル■雪と先生 〜ある豪雪の村より〜
書き手 ■市川先生

市川先生は、信州の山奥にある小学校に勤務して
います。とんでもなく雪が降るこの村。そんな豪
雪地帯での生活とは一体どんなものなのでしょう?
このコラムでは、異次元空間のような雪国におけ
る先生達の活躍を中心に、雪と暮らす人々の様子
を伝えてもらいます。では、いざ豪雪の世界へ!




ひとりめ ● ラッセル先生、出動!!

昨年1月末、関東甲信地方を襲った
雪による交通の混乱は
雪に対する豪雪地帯の強さ、
非豪雪地帯の弱さを如実に表したのでした。

長野県松本市周辺では
2〜3日間にわたり
国道や高速道路、鉄道のマヒ状態が続きました。

豪雪対策が整っている地域では
速やかに除雪対策が講じられるため、
松本のように幾日も社会機能がストップするという
事態にまで発展することは
ほとんどないようです。
(少なくとも、私は体験していません。)

そんな私が今住んでいる豪雪地帯でも
早朝に降る大雪だけは
対応できないことがあります。

1月某日、、、
前の晩に降雪の状況を確認していた私でしたが、
朝起きて愕然としました。

この日の朝、早朝だけで
50B以上の降雪!

いつものように
家を出ようと玄関を開けたとき、
なんと、車がない!
折からの雪に
完全に埋まっていたのです。
白銀の世界とかいう
幻想を想像できる世界ではありません。
まさに、すべてを覆い尽くした
…とでも言いましょうか。

「まさかこんな状況とは…」

取りあえず、出勤しなくてはならないので
車の雪を下ろす、というよりは
除雪スコップに車の雪を載せては投げて、
何とか車を掘り出しました。

私自身も既に今年何度か除雪を体験していたおかげで
体はできあがっていたせいか、
15分ほどで掘り出して
やっと通勤、とあいなりました。

突然の大雪にもかかわらず、
広い道路は取りあえず車が通れるようになっていました。
さすが豪雪地、「雪だらけ村(仮称)」。

しかし、いつもよりも明らかに交通量は少なく感じます。
また、いつも元気に歩いているはずの
小学生の姿が全く見えません。
いつもなら歩道用(?)のロータリー除雪車により
綺麗になっているはずの歩道が
全く除雪されていなかったのです。

「さすがにこういう状況だと休校か?
早朝の大雪にはかなわないのか…」

と思いつつ、特に連絡が来たわけでない私は
遙か12km先、「山おくの村(仮称)」
の勤務校に向かいました。

しかし、
やはり豪雪地帯の子どもたちは
強かったのです!

しばらく走ると、
歩道を50mほどにわたり数珠繋ぎになって
腰あたりまで積もった雪
をかき分けつつ、
学校に向かって進んでいる子どもたちの姿が
私の目にとび込んできました。

「さすがに、こういうときは集団登校になるんだ…。」

いつもは雪玉を投げながら無邪気に登校している
子どもたちですが、
この日ばかりは、体の大きい6年生が中心に
協力して登校しているように見受けられました。
嗚呼、雪国ならではの情緒的な風景だなぁ、と
私は朝から一寸感慨深げに車を走らせました。

しかし
そんな感慨が
とんでもない勘違いであることに気づくのには
さほど時間はかかりませんでした。

その列の先頭にいたのは
その小学校のラッセル先生(仮称)だったのです。

ラッセル先生は腰まで雪の中に埋もれ
子どもの先頭に立って
歩道をラッセルして
進んでいたのです!

直後にいる子どもたちは
心配そうにラッセル先生を見つめながら
後ろを進んでいきます。
ラッセル先生は、ただひたすらに、
目の前の雪を踏みつけ、
そして両手でかき分けながら歩きます。

1歩進むのも楽なことではありません。

そういえばラッセル先生が、
このところ歩いて通勤している姿を
私は何度か見ていました。
年末最後の登校日、
私がこの日特別にバス通勤をするために
駅まで歩いていったときに
ラッセル先生とすれ違い、久しぶりに話しました。

「健康のため?登校指導?」
遠回しに理由を聞く私に対して
徒歩通勤する理由ははっきり言いませんでしたが。
何か思惑があることだけは感じていました。

もし、ラッセル先生が夏と同様に
自家用車で通勤していたなら
この子どもたちはこの日、
自分たちの手でラッセルしながら
登校することになったことでしょう。
ラッセル先生は子どもたちが
安全に登校できているのかを確かめるために、
歩いて登校していたのかなぁと
今になれば推測できます。

この日がまさにXデー。
子どもたちは、最も危険で過酷な
登校をしなくてはならないはずでした。
その子どもたちの登校の安全を
いつでも守れるようにするために
ラッセル先生は、スタンバイしていたのでしょう。

ラッセル先生がいた場所から
300〜400メートル進んだところが学校です。
そこでは既に到着していた先生方によって
少し離れた交差点あたりまで
歩道の除雪を進められていました。

この小学校、
きっと、いつもよりほのぼのした雰囲気で
1日が始まったことと思います。

私はいつもと同じ出発時間になったことが
異様に恥ずかしくなるような思いがしました。






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