タイトル■雪と先生 〜ある豪雪の村より〜
書き手 ■市川先生

市川先生は、信州の山奥にある小学校に勤務して
います。とんでもなく雪が降るこの村。そんな豪
雪地帯での生活とは一体どんなものなのでしょう?
このコラムでは、異次元空間のような雪国におけ
る先生達の活躍を中心に、雪と暮らす人々の様子
を伝えてもらいます。では、いざ豪雪の世界へ!


>これまでの「雪と先生」




ふたりめ ● 伝説の除雪主任

「先生と一緒に仕事できないのが心残りで…」
昨年3月、人事異動で
別の学校に行くことになった「イヤシ(癒し)事務長」が
4月から来るサブちゃん先生
(注:演歌の巨匠、北島三郎に『クリソツ!』←死語!)
と電話を交わしていました。

イヤシ事務長に、
そこまで言わせたサブちゃん先生とは
一体どんな人なのでしょうか…

とある朝、6時半。
ところは雪だらけ村中学校。
あたりは一面、
夜じゅう降り続いた
雪景色。
ありとあらゆるもの
白い、分厚いカーテンで
覆い尽くされたような景色。

程近い教職員住宅から
一筋だけ刻まれた足跡は
学校の玄関に一直線に向かっていました。
まだ仄かに明るくなってきた
静寂の玄関先に、
やがてエンジン音がこだまします。

「伝説の除雪主任」サブちゃん先生の朝は
降り積もるに足跡を付けることと
1台の除雪機
を駆使することから始まります。

その目的は、
生徒が登校する道を拓くこと
車で通勤する教師が
車を置くスペースを確保すること、
でした。

真冬でも
朝7時から
課外部活動が始まることになっていた
雪だらけ村中学校。
いくら日課がそうなっていても
主人公である生徒と
名脇役である教師が現れなければ
はじまらないわけですから…。

そもそも学校に「除雪主任」
なる仕事があるわけではありません。
サブちゃん先生は
なぜ「除雪主任」だったのでしょうか。

私はある日、
元「伝説の除雪主任」であるサブちゃん先生に
話を聞いてみることにしました。
普段は自分のことについて
誇らしく語ることのない
サブちゃん先生ですが、
私の執拗な口撃?に促されるままに
口を開いてくれました。

サブちゃん先生がかつて勤務していた
雪だらけ村中学校で
最新式の除雪機が
納品されたのだそうです。

※注:道路の除雪をするようなでっかい除雪車でなく、家庭用で30万円程度か
 ら買える除雪機が各メーカーから発売されています。地域にしっかり住み着いて
 いる人にとっては漁師の漁船、農家のトラクターと同様、一家に一台必要不可欠
 となっているといっても過言でない文明の利器です。学校のような広い敷地では
 それなりに大きなものを使います。

除雪に関しては
大抵、学校用務員さんが
心配してくれます。
現に私が今いる山おく村小学校でも
除雪機の鍵は用務員さんが管理しています。

ところが雪だらけ村中学校の用務員さんは
女性の方だったのでした。
しかも、最新型の除雪機ということで
使い勝手もだいぶ違ったようで、
用務員さんが
困ってしまったようです。
新しい除雪機がきたけれど
使いこなせない、、、、
そこで、立ち上がったのが
サブちゃん先生だったのです。

サブちゃん先生は夏場でも
朝7時からの部活動に来る
生徒たちを迎えるために
朝6時50分には
学校を開けていました。
しかしこの除雪の仕事が加わってから、
冬場は毎朝6時半
出勤となりました。

雪だらけ村の真冬は
毎日のようにしんしんと
雪が降り続きますので
子どもたちはもちろん、
教師が学校に辿り着くも一苦労です。

雪だらけ村中学校はそんな日も、
サブちゃん先生の手で
確実に除雪がなされていたそうです。
もちろん、雪だらけ村の除雪車も
学校の除雪をしてくれるのですが、
到着する頃には
必要最低限の除雪は
サブちゃん先生の手により終わっていた
という状態だったそうです。

豪雪地ゆえ日中でも
どか雪が降る場合があります。
そんなときは昼間でも除雪をしないと
道は雪に埋まってしまいます。
生徒たちの下校のことも
考えたサブちゃん先生は、
時には昼間も除雪に明け暮れ
自分の仕事を
夜ひっそりと静まりかえってからやった
ということもあったのでしょう。

まさにサブちゃん先生が
学校を「守って」いたのです!

そんなサブちゃん先生ですから、
当時は教頭先生でしたが、
多くの先生方が慕い、頼りにしていたというわけです。
教頭職という、
学校を実質的に統括し
職員をまとめていかねばならない
激務であるにもかかわらず、
+αである除雪主任が出来たのは
かつては冬季国体の選手であった
という強靱な体力と、
並々ならぬ学校を、子どもたちを愛する
情熱があったからこそでしょう。

生まれも育ちも
豪雪地というサブちゃん先生、
もちろん学校の除雪だけを
しているわけではありません。
そのころも、現在も、
ご自分の家の前の除雪は
それはそれはお見事!です。
豪雪地でないところから
赴任している我々部下にとっては、
雪国で生きる教師の
これ以上ない素晴らしいお手本となり、
校長先生となった今でも
たくさんの部下が慕い、頼りにしております。







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