タイトル■雪と先生 〜ある豪雪の村より〜
書き手 ■市川先生
市川先生は、信州の山奥にある小学校に勤務して
います。とんでもなく雪が降るこの村。そんな豪
雪地帯での生活とは一体どんなものなのでしょう?
このコラムでは、異次元空間のような雪国におけ
る先生達の活躍を中心に、雪と暮らす人々の様子
を伝えてもらいます。では、いざ豪雪の世界へ!
>これまでの「雪と先生」
さんにんめ ● 雪国の教材を「開拓する」教師たち(Vol.1)
その教師の名は「つるべ先生」
(↑つい最近までの
ヘアースタイルが「似てる」と
子どもたちの間では評判だった。
私はそうは思わなかったが…)
山おくの村中学校に
赴任して4年目の社会科教師である。つるべ先生は
10年ほど前にも
とある豪雪地の
小学校に勤務していたことあった。
その地域は、学校外の活動でも
スキーが盛んな地域であり、
殊にクロスカントリースキーについては
顧問を務めるなどして
校務の傍ら、地域の指導者とともに
子どもたちの技術指導にあたっていたという。もちろん、つるべ先生自身は
豪雪地の出身ではないので、
クロカンスキーについては
ずぶの素人からの指導のスタートだった。
その間数年間で、
技術書を読みあさり、
Myクロス板を購入し、
毎朝スノーモービルで
校庭を圧雪し、
時にはスタックして
避難訓練の時に避難できずに
探されたり、と
その学校の教育のなかに
クロスカントリースキーを
広めるということについて
大いに尽くした人である。山おくの村中学校には
クロスカントリースキーのセットが
生徒一人一人に十分配布できるだけ
村費で購入されていた。
つるべ先生は
4年前に山おくの村中学校に
赴任時することに決まったとき
非免許教科である
保健体育科の授業を受け持つことを
承諾した。若き日の豪雪地の学校での体験を生かせば
何とかなるだろう!という見通しがあった。
(注:教職員の配置は児童生徒数によって決まってくるシステムになっているそ
うです。だから山おくの村のような、児童生徒数の少ない学校には教職員がたく
さん配置されません。そんなわけで山間僻地の中学校では「臨時免許」なる1年
更新の免許状が交付されて、非免許教科の授業を受け持っていることがありま
す。小学校は、全教科を教えるのが当たり前なので山おくの村くらい児童生徒が
いればとくに大きな問題はかかえません。もっと人数が少ない学校だと「複式学
級(一人の先生が2つの学年を教えるシステム)」になります。)ところが!…である。
山おくの村と
当時つるべ先生がいた地域の学校とでは
大きな違いがあったのである。まず、
「板」が違った。
山おくの村中学校にあった板は
ほとんど全てが
ソールがステップ加工(←ソールの一部がギザギザになっている)
されている板だった。
この板は所謂ツアー(歩くスキー)用に
開発されたものである。
競技として
クロスカントリースキーをやると
ワックスに左右されることが非常に大きい。
ワックスによって
明らかにスピードが変わってしまうのだ。
ところがステップ加工の板は
ワックスについて気にすることがないかわりに、
この板を使用して競技会に出るということは
まず考えられない。
ステップ部の抵抗の大きさは
計り知れないのである。そして、
「圧雪できない!」
ことだった。
(注:圧雪…読んで字の如く、降り積もった雪を踏み固めることです。新設を豪
快に滑るスキーの映像をよく見かけると思いますが、一晩で50センチも積もれ
ばさすがにスキーでも埋まります。スキー場も圧雪してあるからエッジで曲がる
ことができるわけです。圧雪していない斜面を滑り降りるのはなかなか大変なの
です。私も下手糞なので勇気を出していくことができません。〔悲〕)
確かに山おくの村中学校に
スキーのセットは揃っている。
しかし、道具として揃っているのは「それだけ」。
真冬ともなれば
1メートル50をこえる雪原に
あとはとびだすだけ…。
つまり、
保健体育の学習に
クロスカントリースキーのツアーを
取り入れている学校…だったのだ。「中学校の保体の授業に、
ひたすらツアーだけなんて…」
つるべ先生は思った。
なのに、
なぜか?
「クロスカントリースキー記録会」が
学校行事としてある!
「記録会」…というくらいだから
明らかに競技力向上の成果をためす機会である。「雪原を歩く体験だけでは、
記録会のための力を十分つけることはできない…」
つるべ先生は
目の前の現実に苦悩した。「…まず、設備を整えなければ。」
つるべ先生の開拓の道のりは
まだはじめの一歩を踏み出したところであった…。
(to be continued...)
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