タイトル■雪と先生 〜ある豪雪の村より〜
書き手 ■市川先生

市川先生は、信州の山奥にある小学校に勤務して
います。とんでもなく雪が降るこの村。そんな豪
雪地帯での生活とは一体どんなものなのでしょう?
このコラムでは、異次元空間のような雪国におけ
る先生達の活躍を中心に、雪と暮らす人々の様子
を伝えてもらいます。では、いざ豪雪の世界へ!


>これまでの「雪と先生」


よにんめ ● 大雪!休日の教師たちの寸景

今年の正月、、、
ここ10数年にない豪雪が
北信州を襲いました。

信濃毎日新聞によると
この時期の積雪としては
昭和59年以来という
大雪だったそうです。
山おくの村も、雪だらけ村も
年明け早々から
除雪作業に大わらわの
多忙な正月となりました。

村役場は
「豪雪対策本部」という
それは見事な立て看板がたてられ、
役場職員が除雪車を運転して
昼夜を問わず?除雪に追われるという
緊急対策本部が設置されます。

近年にない大雪という緊急事態に、
学校の先生たちはどうしていたのでしょう。

「(勤務地に物置にお借りしている住宅の)
 雪下ろしをしなくてはならないだろう」

冬休み最後の日曜日。
この日は久しぶりに
山おくの村でも降雪のない
1日になりそうでした。

実家に帰っていたママダン先生も
(注:「ママダン」>俗に言うスノーダンプのことであるが、
 プラスチック樹脂でできていて軽量なものの一部商品名にあやかり、
 子どもたちの間で呼ばれている。)

とんでもない豪雪という緊急事態に
休日返上で、勤務地である
山おくの村に向かうことにしました。

いくら北信州で豪雪!ということであっても
ママダン先生の実家のある、
長野県の中部地方では
雪景色はほとんど見えません。
しかし、ママダン先生が車を走らせながら
北の山々を眺めると
それはそれはお見事な雪山の
絶景が広がっていました。

車を北に走らせると
だんだんだんだん
景色が変わっていきます。

そう、
 田んぼにちらりと雪、
   道路にちょろりと雪、
     それがやがて…
       路肩に背丈を超える雪の壁…と。

住んでいれば見慣れた風景なのですが
さすがに雪のない地域から
走ってくるとその風景の変化は圧巻です。

ママダン先生が山おくの村に着いたのは
午前9時頃。
いつもならどんな大雪の朝でも
道路の除雪は「完璧!」を誇る
山おくの村の道路ですが
この日まで数日降り続いた雪の影響はさすがに大きく
道路の除雪は十分ではありませんでした。

やっとの思いで車1台分の除雪が
終わったばかりのようです。
(注:それでも雪国の除雪は早い!特に小さい村の方が速い!!んです)
ママダン先生はいつもはさほど気にしない路面、路肩の残雪に
気を配りながらの運転を強いられました。
(注:といっても、首都圏の3cmよりずっと安全です)

この日は
数日ぶりに雪の降らない天気予報です。
そのせいか、ママダン先生の運転する車からは
何軒かの家で既に雪下ろし作業が始まって
いる様子が目に飛び込んできます。
「これは、ナイスタイミング、、、
 しかし、どのくらい積もってるんだろう?」

ママダン先生の不安が的中してしまいました。
彼が現在住んでいる
住宅の屋根には
なんと、
成人男性の胸あたり
ほどまでの雪が積もっていたのです。
(注:といっても、首都圏の20cmよりはビビらないと思います)
当然、すぐにでも雪下ろしをしないと
屋根が潰れてしまいます!!!

すかさずママダン先生は
軒先においてあった梯子を屋根にかけ
約1年ぶりの雪下ろしを決行しました。

屋根の雪下ろしというのは
実に時間のかかる重労働です。
かといって、急いでやれば
翌日全身が筋肉痛
冒されます。
当たり前ですが高所ですから
落下の危険を常にはらみます。
実にリスクが大きく、
時間がかかる作業です。

さらにママダン先生は、まだ雪国生活3年目。
雪下ろし作業の経験値も不足、、、。

人一倍時間をかけての雪下ろしとなることは
見え見えでした。
結局この日、ほぼ終日
ママダン先生は屋根の雪下ろしをするハメになるのです。

その間に沢山近所の方が
ママダン先生の家の前を通り過ぎていきました。
普段は夕方過ぎまで帰宅しないため
近所の方と道端話をすることも
ほとんどないため、
このときとばかり、近所のおばさんとの
トークが炸裂(?)します。

 (マ)「すごいですねぇ、この雪は」
 (お)「いやぁ、えらい(大変だ)ね。」
 (マ)「56豪雪(←昭和56年に襲った伝説のとんでもない豪雪)
     以来ってニュースで言ってましたけど。」
 (お)「ああ、でも、あん(あの)時は一気に降ったからねぇ。
     今日の雪は重いっしょ?」
 (マ)「そうですね。」
 (お)「落ちん(落ちない)ように、気をつけて。」
 (マ)「はい、ありがとうございます。」

まだ除雪が十分でない道を
犬を連れているにもかかわらず
滑りそうもない慣れた歩みで
散歩する近所のおばさんを見ると
さすが!と
頭が下がる思いがしたのでした。

そうそう、
診療所のお医者さんも
 (医)「落ちないようにねぇぇ!」
と、声をかけてくださいました。
山おくの村に昔からすむみなさんの目には
きっとママダン先生の雪下ろしが、
あまりにもぎこちなくて
心配な光景にうつるのでしょう。…

山おくの村の教職員住宅は
まとまって建っているので
どの家からも
ほとんどの先生の家が見渡せます。

ここの住宅を本拠にしている
さぶちゃん校長先生(参照:ふたりめ「伝説の除雪主任」)
正月中、雪が降るたびに
除雪に明け暮れていたのでしょう。
屋根の雪も一度ばかりでなく下ろされているようで
ママダン先生の家のそれよりもずっと低いです。

もちろん、下ろされた雪もきれいに片付けられ、
(注:屋根から雪を下ろしてハイおしまいなら楽なんですが、
 生活を送るためには軒先に落とした雪をきれいに退けなくては
 なりません。これがまたジョーダンぬきで大変!です)

もはや雪で日常生活が支障をきたされるような
状況ではありませんでした。

午後になると、
山おくの村の幾人かの先生がたが
屋根に登る姿が見られました。

特別な場合の宿泊のために
住宅を借りている冬彦先生
(おお、懐かしい「涙のキッス、もう一度ぉぉ♪」)は、
家族サービス返上で
除雪作業に来たのでしょう。
奥さんと小さな息子さんを
連れて来ていました。

小さな息子さんは
自分の背丈以上に積もった大雪に
感激したのか、
「屋根に登りたい」
と懇願していたようで、
冬彦先生は息子さんを抱き上げて
屋根に登らせてあげていました。

いつもは登れない屋根の上
いつもは見えない高いところからの景色に
堪能する息子さんを横目に
慣れた手つきで雪下ろしを進める冬彦先生
下ろした雪を片付ける奥さん
素晴らしい連係プレー(?)による素早い作業!
伊達に雪国出身ではありません!!

帰省先から帰ってきたのであろう
若奥様剣士先生(ま、細かい説明はいいでしょう。)夫婦は
自家用車を自宅前に付ける
こともできなかったようです。

路肩に車を置き、
除雪セットを持って
夫婦で屋根に登っていく姿が見えました。

あまり雨さえ降らない溜め池市(仮称)から
今年異動してきたばかり旦那さんは
なんと今年が
『はじめての雪下ろし』。(どぉぉれぇみぃぃふぁそぉらぁしぃ♪)
「大丈夫だろうか」とママダン先生が
時々目をくれていると
雪下ろし歴2年目の若奥様剣士先生の方が
屋根の上で豪快!!にこける姿が
とびこんできたりします…。

…こうして、豪雪地の休日は終わっていくのでした。

もうすぐ3学期という
残り僅かな休日の昼下がりですが、
雪が降る限り、
雪国に住む者として
住まいを守るために
雪とたたかう日々に
休日はありません。

「先生」という呼称に溺れ、
傲り高ぶる事なかれ。
学校の教師であっても
ここに住んでいる限り
雪国の一住民であることを
決して忘れることなく
雪とともに生きる先生たちです。

そんな信州の雪国の先生たちにも
もうすぐ春が
訪れようとしています。

(完)






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