」」」 長い前書き<11> 」」」
インターネット界の先輩達に会った(後編)


前回の「前編」を書いてから
けっこう時間がたってしまいました。
えーと、どんなこと書いたっけ?

(読み直す)

…インプット!(真行寺アユム風に←ラブコン)

つづきです。

さて次に会ったインターネット界の先輩は
「archaic fictin」という
Tシャツや小物を販売しているウェブサイトを
作っている後藤さん。

この人は知り合いの友達でした。
カメラマンをしている女の子がある日、
白地に黒い文字で「SOFT ROCK」と
プリントされただけの
非常にシンプルなTシャツを着ていたんですが、
そのシンプルさ加減が
なんだかとてもカッコよかったんです。

一目惚れした僕が
「どこで買ったの?」と聞くと
友達が作っていると言います。
インターネットで売っているとも。

そのウェブサイトを覗いてみると
これまた非常にシンプルで
なんだかやっぱりカッコよかったんです。
ほとんど文字もないし
商売っ気も全然感じられない。
そんなお店(?)なんだけど、
ワーワー賑やかすぎて
やかましいページが多い昨今、
逆に惹きつけられるものがありました。

それから少し時間がたってから
またその人の話になった時、
彼はバイトを辞めて、
今はそのネット販売の収入だけで
暮らしていると言います。

「マジで?そんなこと可能なの!?」

そんな興味もわいたこともあって
取材することにしました。

取材した場所は
世田ヶ谷にあるカフェ「DELI DELI」。
「archaic fictin」のアンテナショップとして
そこでもTシャツを
販売しているということだったんです。

後藤さんの話は実に興味深いものでした。

その商品やウェブデザインを見て、
てっきりグラフィックデザイナーとか
ウェブデザイナーとか、
そういう類いの人だとばかり
思っていたんですが、
全然違いました。
まったくの素人だったんです。

もともとアパレルのお店で
働いていたこともあったそうですが
デザインなどを勉強したわけではなく、
まして機械音痴のため
インターネットなどとんでもない!
そんな人でした。

彼は当時勤めていた飲食店を辞めた後、
約半年間、何もできない
大スランプ状態に陥ったそうです。

「ずっと何か自分を表現できる創作活動を
 したいと思っていたんですけど、
 実際に、会社を辞めてしまうと
 何もできない、何も考えられない、
 これからどうしようか
 悶々とするだけの毎日でした」

この気持ち、非常に共感できました。

僕自身も会社を辞め、
「なにかもっと自由に創作活動をしたい」
なんて思ってはいたものの、
実際に辞めて、時間ができてしまうと、
「じゃ何をすればいいんだろう…?」
と悶々とするようになったからです。
仕事はしていたものの、
精神的には一種の「ひきこもり状態」
とでもいうか。

でも、僕もそうだったように
後藤さんもインターネットが
その突破口になったんです。

とにかくヒマなので
それまであまり見ることのなかった
インターネットを見るようになった
後藤さんはこう考えました。

「最初はみんなオシャレなページを
 作っていてスゴイなぁと思っていたんですが、
 いろいろ見ていると
 みんな似たりよったりで
 突出しているページは
 あまりないんじゃないかって。
 でも、だったら自分は
 どんな表現ができるんだろう?」

しかしアナログな人間で
機械音痴な自分には無理だろう。

そう思っていた後藤さんでしたが、
ためしに「1週間でできるホームページ」
とかって本を買ってきて
見よう見まねでやってみると
たった1日でそこそこ作れてしまいます。

「こんなに簡単なものだったんだ!」

その驚きは、
以前勤めていたアパレルショップで、
何の経験もなく
服飾の学校を出たわけでもない
自分でも
店長になれるほど
問題なく働けたことの驚き
にも匹敵したそうです。

「中途半端な知識よりも、
 自分が聴いてきた音楽や
 見てきた映画、
 これまで築いてきた人間関係、
 そういうもので培ってきた
 自分の感性や感覚があれば
 何かができるんだ」

そのアパレル時代の経験も思い出し、
後藤さんはホームページを
作ることにしました。

「文を書くのは苦手だから
 言葉を使わず写真だけで
 自分を表現してみよう」

また他のページを見ていて
違和感を感じた要素は排除しよう、
それが後藤さんのこだわりになりました。
・プライベートなことは出さない
・掲示板は作らない
・アクセスカウンターもつけない
・見る人も選ぼう

そう考えた後藤さんの
作ったホームページは
その宣伝方法もユニークでした。

「この指とまれ」という
サイトに登録し、
キーワード検索で
自分と趣味の合いそうな人を探します。
たとえば「キリンジ」と
自分の好きなバンド名を入力して検索し、
自分と共通する感性を
持っていそうな人を見つけたら
「よかったら見てくれませんか?」
とメールを送るという方法です。

「誰にでも見て欲しいわけじゃなくて
 ひとりでもいいから共感できるような人に
 見てほしかったんです。
 でも、きっとひとつの県に10人くらいは
 共感できるような人と思います。
 そしたら全国では500人くらいにはなるはず。
 もしてやインターネットなら
 世界中でそういう人を探すことができる」

その半年後には
表現活動の一環として
Tシャツを作り始め
販売も始めました。

「Tシャツは、最もポピュラーで、
 作りやすい。値段も雑貨的。
 なによりも真っ白いスペースの中で
 自分を表現できる。
 商品を通じて、
 共感できる人を探して
 コミュニケーションしていこう」

この後藤さんの発想は
まったく正しかったと思います。

なぜなら僕は
そのTシャツを好きになり
後藤さんに会いたくなったのですから。

もちろん僕だけじゃなく
共感できる人に何人も出会えるように
なったそうです。

「フリーの人間として
 何かを作り続けていくことを
 決心した以上は
 仕事はこれ一本でやってみよう」

手応えを感じることが
できた後藤さんは
仕事も辞め、今はこのウェブ販売だけで
生活することにしたのだそうです。

非常に感銘を受けました。
強い共感を覚えました。

そして、その時に
Tシャツを売ってもらっったんですが
後藤さんは何枚も試着させてくれるんです。

「本当に気にいってもらってから
 買ってほしいんですよ」

その徹底した
誠実な販売ポリシーにも
感動しました。
もちろん気にいった一枚を
買わせてもらったことは
言うまでもありません。

「実は僕もウェブマガジンを
 作ろうと思ってるんですよ。
 何か一緒にできることがあったら
 やりませんか?」

思わず僕はそう言いました。
後藤さんも
「いいですね。ぜひやりましょう!」
そう言ってくれ
いろいろ語り合うことができました。

いい人と知り合えた!
その夜はやたら興奮しました。

漠然とした「希望」
みたいなものが
少し鮮明になり
ふくらみをもった
ような気がしたのです。

その数日後、
4人目に会った人は
「雑貨屋ワーク悠」を営む
60才のミセス悠さん。

この特集を作るために
かなりの数のインターネット上にあるお店を
調べたんですが、
一番気になった人はこの人でした。

だって60才ですよ!

レディに対して
年齢のことをあまり言うもんじゃありませんが
若いくせに機械音痴なんて
言ってる僕からしたら
この事実、驚愕に値します。

失礼ながら
「おばあさん」だと思って
ご自宅に会いに行ったんですが
これが全然予想と違いました。

とてもキレイで若い方だったんです。

またサッパリした
気持ちのいい話し方をする人で
楽しくお話させていただきました。

悠さんは20年以上
コットンショップを経営していたんですが、
体調を崩して閉店してしまったそうです。

でも何かをやりたい!
という思いは残っていて、
ある日、テレビで
インターネットでお店をやっている人を見て
刺激を受けます。

「いいな〜、私もやってみようって。
 好奇心ね」

それまで作っていたパッチワークや
興味のあった砥部焼きを売ることにした悠さん。

もちろんパソコンを使ったことも
なかったけれど、速攻購入。

「説明書を読みのはめんどくさいから
 主人に勉強してもらって
 使い方を教わったの」

それで自分でホームページを
作ってしまったそうです。

今では「excite」による
「テーブルウエア」の人気サイト
トップ5の4位になったといいます。

いやースゴイなぁ。
オレもがんばらなくては…!

そんな気持ちが強くなりました。

それにしても
土地代も家賃もほぼタダで、
動機さえあれば、
何かを始めることができ、
いろいろな人と
コミュニーケーションの輪を
拡げていくことができる、
インターネット。
やっぱスゲエわ。

同じ特集に寄稿していただいた、
インターネット出身でおそらく
最も有名になった人である
作家の田口ランディさんは
こんな風に書いていました。

「私は、そこにインターネットがあったから
 書き始めた。
 使い勝手のよい道具だったのだ。
 
 (中略)

 私がいたから、
 インターネットに新しい可能性が
 付加された。

 主体は人間であり、
 人間の可能性こそ
 インターネットの可能性だ。
 あなたの可能性がネットの可能性だ。

 だってインターネットは 
 ただの道具だから。
 
 私は、傲慢だけど、
 実はこっそりそう思っている」

そうだ。
スゴイけれど
インターネットはタダの道具。

何ができるかは
それを扱う人間次第。

鉄人28号みたいなもんなのだ。
(古いたとえだけど)

さて、僕はその道具を使って
何ができるんだろうか。

            (つづく)


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