」」」 長い前書き<13> 」」」
動機と時間/辞退の決意


10月も終わる頃。

スカウト活動は順調に進んでいた
「とあるウェブマガジン」でした。

今、この「長い前書き」を
読み返してみると自分でも
すべてがうまくいっていたように
錯覚します。

が、どっこい!
物事はそんなに
うまくいかないもんでした。

書き手として
参加してくれることになった人は
どんどん増えていたんですが
実際にこのウェブマガジンの
編集部員となる人間は、
僕と、デザインとホームページのシステム作りを
担当してくれることになった
友人Sの二人だけでした。

タイトルをどうするか?
どんなレイアウトにするか?
どんなデザインにするか?
どんな全体コンセプトにしていくか?
どんなやり方で更新していくか?
エトセトラ、エトセトラ…

新たに媒体を作るためには
考えること
実現していかなくちゃいけないことは
山積みでした。

基本的には
僕が「こうしたい!」という
とりとめのないアイディアを出し、
Sがそれを現実的に形にしていく、
そういうやり方で進めていました。

ただSは会社に勤めていますから
会えるのは、
比較的早く仕事が終わった日の夜、
あるいは休日。
あとはメールでのやりとり。
そういう形です。

で、このウェブマガジンの企画を
始めようとした頃から、
Sは急激に仕事が忙しくなってきてしまいます。
それも、かなりの忙しさのようでした。

まったく会う時間はなくなってきて、
やりとりはメールと電話のみになり、
仕事が終わった深夜に
Sがデザイン案などを作り、
それを僕に送り、また僕がメールで返事を出す、
そういう状態になりました。

当初は、10月のアタマには創刊しよう!
と話しており、参加予定者のみなさんにも
そう告げていたんですが、
それはとっくに過ぎ、
しかもまだ構想がまとまらない、

僕は比較的時間があったし、
なにしろ焦っているので、
アイディアだけはじゃんじゃん送ります。
しかも、インターネットど素人ゆえ
今考えるとムチャな要求ばかりSに送りつけます。

SもSで、焦ってはいても
仕事も忙しく、僕からの要求に
対応しきれない。

そういう状態で時間だけが過ぎていきます。

いろんな人に声をかけてしまっていた手前、
僕の焦りも尋常じゃなくなってきます。
(それは今も続いていますが…)

しかし、具体的に
どんなウェブマガジンにして、
いつが創刊で、いつが締切りだよ、
そう言えないと、声をかけた人達にも
具体的な指示が出せない。
しかし、形ができてこないと
それをハッキリさせられない。

「いつまでに書けばいんですか?」
そんな声もあがってくるんですが、
「もうちょっと待って!」
としか言えない状態。

せっかく「やろう!」
と思っていてくれた人も
時間がたつと熱が
冷めていってしまいます。

どうすればいいいんだ?

仕事が忙しいSにそんなに
ムチャは言えないし、
自分自身も煮詰まってきます。

そこで考えたのは
本格的な創刊はまだ無理だから、
準備号を先に出そう!
ということでした。

苦し紛れの案ですが、
それが、つまりこのHPです。

創刊までの準備をそのままネタにして
それを通じて参加者のみなさんにも
状況報告をしていく。
そして、僕がどんなことを考えて
どんなウェブマガジンにしようとしているのか、
話しだけでは
伝え切れてない部分も伝えていく。

デザインもレイアウトも
極力簡単なものにすれば
すぐできるはずだ。

よし、じゃあそれをすぐ作ろう!

ところが、さらに
Sはさらに忙しくなってしまい、
僕からのメールに返信を出すのも
ままならない状況のようです。

「準備号を作ろうと思ってるんだ」
書き手として参加予定の
デザイナーTにそう言った時に、
「簡単なものなら、すぐ作るよ」
そう言ってもらえたんですが、
せっかくなら最初から関わってくれた
Sにやってほしい。
その返事は保留しました。

そしてSは、
忙しい状況の中、デザイン案を
送ってきてくれたりもしたのですが、
そのやりとりもまた遅々として進まず、
僕はかなり焦れてきます。

一人の時間が多い分、
返事をまっている数日間が
恐ろしく長い時間にように
思えるのです。

そしてこう思います。

「声をかけられた手前、Sもがんばってくれているが、
 準備号でさえこんな状態なのに、
 果たして本格創刊したら、やれるのだろうか…?
 しかも、Sの仕事はもっと忙しくなる可能性もある…」

デザインだけでなく更新作業も
Sの担当になっていたのですが、
これもかなりの負担になるはず。

僕は自分が機械音痴なことを恨みました。

恨むなら勉強しろよ!
…そうも思うんですが…

そこで、ある決断をしました。

「やりたい気持ちは十分わかっているつもりだけど
 それは時間的に可能なのかどうか判断してほしい。
 もし正直、負担であれば、そう言ってほしい」

そんなことを書いた長いメールを送ったんです。
これには、勇気がいりました。

もしも「正直、負担だ。やっぱり、できない」
そう言われたら、どうするのか?
自分で作れるのか?(いや、できない)
じゃやめるのか?(いや、やめたくない)

かなり葛藤したんですが
ここを曖昧しておくと
先々また同じようなジレンマを抱くはずだ。
そう思い、ハッキリさせようと。

そして、Sからメールが返ってきました。

「結論から言ってしまうと、参加は辞退させてください」

「ここで感情的になって“やります”と言ってしまうことで
 さらに迷惑をかけてしまうのではないかと正直思ってます」

「気持ちとしては、やりたいですよ、もちろん。
 ただやはり、時間がとれないというのも、現実」

半分は予想していたものの、
実際にそう言われると、固まりました。

Sは理由として、僕の要求にスキル的に
応えられるかどうか不安、とも書いていました。

今こうして自分で更新作業をするようになり、
ホームページがいかに制約の多いものなのかを
痛感するようになると
当時、Sに出していた要求はムチャなことばかりでした。
それもSを苦しめていたんでしょう。
申し訳ない気持ちでいっぱいです。

Sがこのような決断するのは勇気がいったでしょう。

「やる」ということよりも
「やめる」と言う方が簡単ではありません。

Sにそんな辛い決断をさせてしまって
本当に悪かったと思いました。

「楽しい放課後活動だ!」

なんて、言うのは簡単ですが、
現実的には仕事以外に
もうひとつの活動をすることは
簡単なことではありません。

つくづく痛感しました。

また「仕事」でない以上、
強制する権利もありません。

本当に頼れるのは
「動機」と「時間」だけです。

どちらが欠けても、それは難しくなります。

今回の件で、本当にそれを実感しました。

「準備号」のデザインに関しては
やってくれると言っていたTにお願いできるとして
肝心のウェブマガジン自体はどうするのか?

また、それ以上に、
唯一の相談相手を失って、
また「一人」に戻り、
僕は茫然となりました。

                 (つづく)

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