エスニック

インドは行った方がいい!!


一章  旅の始まり

 夜11時10分だった。とうとう私たちは来てしまった。ここインドに・・・。
 夜も遅いし早く寝ようか・・・なんてのんびりな事は考えていられなかった。
 「今日泊まるところを決めなくちゃ・・・。新婚旅行なのに・・・。」
 はたしてこんな時間にホテルが取れるのだろうか。言い訳するわけではないが、書いてあったのだ某ガイドブックに。
 ”宿は予約なしで行くものだ!”・・・と。
「 もし泊まるところがなかったら、ガイドのせいだ!」
なんて勝手なことをぶつぶつ言いながら、私たちは空港のツーリストインフォメーションを探した。
 「イイヤドアルヨ。ワタシニマカセナサイ。」
 「ヤスイホテルアルヨ。コチラニキナサイ。」
 「ニッポンカラデスカ?ワタシガイレバダイジョウブ。」
ちょっと足を止めたらもう大変。右から左から360度 インド人、インド人、インド人・・・。
一体全体、一緒に飛行機でこの地に降りた人たちはどこへ行ってしまったのか。何故私たちだけが彼らに囲まれているのだ。
 ゲートから正面のカウンターまでわずか30m程。たかが30m。しかしここインドでは、その30mにすべてを賭けて”生活”している人がいるのだ。しかし、こちらも真剣だ。
 ふと、昨年中国に旅行したときのことが頭をよぎる。北京空港に不安な面もちで降り立った時もやはりこうだった。執拗なまでの客引きのタクシー運転手の中から、もっとも安い料金を言ってきたタクシーに乗ってホテルまで行ったものの、やはり不安は的中。交渉の値段は一人分の値段だという。さんざんもめて、やっとの思いで勝利を勝ち取ったのだった。(それでも、後から考えるとかなりボラれていた!!)
 あの旅行以来、私たちの持論はこうだ。”向こうから言い寄ってくる奴には注意しろ”

 ・・・ということで、デリー空港に降り立った瞬間、”戦いは始まった”とばかりに私たちは静かな緊張感に包まれていた。彼らに少しでも頼りなげな顔を見せてはいけない。
 私たちは客引きの言葉には目もくれず(正確には目を合わせないようにしていた)、ツーリストインフォメーションにたどり着いた。本来なら1泊400ルピー(約1500円)くらいの宿を取りたかったのだが、明朝、国内線でベナレスへ向かうということもあって、お姉さんが勧めてくれたのは、デリー中心部からはずれた、国内エアターミナル裏の、その名も”エアポートホテル”であった。1泊950ルピー(約3600円)と、ちょっと割高ではあるものの、初日しかも深夜という事もあってここに決めた。お姉さんがホテルに連絡をいれてくれ、ホテル代は向こうで払えばいいと言うことで、やっと安心してタクシーに乗り込んだ。
 
 タクシーから見るデリーの夜はとにかく暗かった。本当にここが首都なのか、と思うほどひっそりと静まり返っており街灯一つない。車はガタガタと15分ほど走行を続け、ようやくホテルに到着した。
 ロビーはかなり狭く、そこにはタバコをふかしてこっちを見ているなにやら怪しげなインド人たちがいた。みんなホテルの人らしい。一瞬たじろきながらも名前を言うと950ルピーの部屋はいっぱいで、1250ルピー(約4750円)の部屋なら空いているという。
「やられたー、罠にはまった!!」
とたんに顔色を変え文句を言う私たちに恐れをなしたのか(いや、そんなはずはないよなー)、宿主は「ホント、ホント。インフォメーションのお姉さんにも言ったよ。見てごらん。」と言いながら、部屋番号と宿泊客のリストを1つ1つ照らし合わせて見せてくれた。どうやら本当に950ルピーの部屋は全部うまっているらしかった。怖そうな顔をして実は律儀なインド人だなーなんて思いながら、私たちはここまで来てしまったんだしと諦めて1250ルピーの部屋を借りることにした。
 ホテルは、廊下こそ大理石もどきのちょっと洒落たつくりになってはいるものの、部屋は最悪だった。古いし、隣の部屋の声はつつぬけだし、なんと言っても窓が1つもない。いや、あるにはあるのだが雨戸のようなもので固く閉ざされていた。
 部屋の片隅には、古くて汚いテーブルと、木の椅子が二つあり、テーブルの上には水の入った汚いプラスチック製のポットと黄ばんだグラスが2つ置いてあった。インド人だったらこれを平気で飲むのだろうか?
 バスルームに行くと案の定便器の横に小さい桶が置いてあり、バスタブの中には洗濯用の汚い大きな桶が置いてあった。 ベナレスのガンガー
インドは暑いと思って来たのだが、ここはとても寒く、さっそく温まるべくシャワーを浴びた。
「ああ〜、やっと温まってきたー。」と思った瞬間、思いもよらぬことが起こった。
「うぎゃぁ〜!!なにこれ!?」
なんと、体を洗っている途中でお湯が水になってしまったのだ。夫に見てもらうと、お湯タンクのヒーターのスウィッチがオフになっていると言う。「なんじゃ、それ?」。 ホテルのお湯は蛇口をひねれば出てくるのがあたりまえだと思っていた私は、タンクのお湯が温まるまでの30分間、全身泡だらけでブルブル震えているしかなかった。
 
こんなふうにして始まった新婚旅行。元々私の希望で今回のインドへの新婚旅行を決めたわけではあるが、これじゃあ、先が思いやられるわ。早くも意気消沈気味の私であった。





二章  とっても不可解なデリー国内空港

 窓のない部屋での目覚めはあまりGOODではなかった。私たちは早々にホテルをチェックアウトし、ゴロゴロと重いスーツケースを引きずりながら国内線ターミナルへと歩いて行った。
 無事ベナレス行きのチェックインも済ませ、身軽になった私たちはさて初のインド料理にあずかろうかと空港内のレストランへ入った。が、入り口には係りの人が誰もいない。勝手に入って座っていいのだろうか。私たちは奥に進み係りの人らしき男に尋ねた。
「Off course. どこでも座っていいよ。えっ?メニュー? あるにはあるが、 向こうで聞いてみてくれ。」
 よく見るとここはビュッフェ形式のところらしい。そうか、と思いながら私たちは料理を取りに行った。なんかどれもこれもまずそうー。あるのは、パサパサしたおからのようなものと水っぽいカレー、固い食パン、ゆで卵、そして湿気たポテトチップスだけだった。実際まずかった。まあ、空港でおいしいものを求める方が無理なのだが・・・。
 食べている間私たちは非常に気になっていた。というのも誰もお金を払っていないのだ。みんな勝手に来て食べて、勝手に出ていくのだ。なんなんだろう?ウェイターは請求書をテーブルに置くでもなく、ただ黙々と空いた皿を片付けているだけ。変だ。もしかしてここは日本で言う『桜ラウンジ』なのでは?とも思ったがどう見てもファーストクラスやビジネスクラスには乗らないよなー、というような人々も食べているし。それに第一、チケットの確認もされなかったし。
 結局私の出した結論はこうだ。ここ、インドではまだ飛行機に乗る人は少なく、大切な顧客であるためサービスで提供しているんだ・・・と。
 人々は続々とレストランに入ってきてそのうち相席のテーブルも出てきたりしていた。ちょっぴり不安に思いながらも、誰もお金を請求してこないので私たちはレストランを出た。
 ・・・と出た瞬間、後ろからヒンドウー語でなにやら叫ぶ声!ぎくっ!!やっぱりただのはずはなかったか。おそるおそる振り向くと、その声は私たちを追い越して私たちの前を歩いていた男のもとへ。どうやらその声の人はレストランの人ではなく、友達を呼び止めただけだったらしい。
 それにしても未だに謎のレストランである。




NEXT PAGE

トップ アイコン
トップ


エスニック