発行にあって
岩手県・岩泉まつたけ研究所所長 吉村 文彦

 岩手県岩泉町に、岩泉まつたけ研究所が設立されたのは1990年4月である。金塊を購入したり温泉を掘ったりと様々な使い方が当時のマスコミを賑わしたふるさと創生資金をベースに研究所は設立された。特に北上山地の太平洋岸には美しいアカマツ林が多い。ために岩手県の沿岸地域は知られざるまつたけの産地だったのであるが、日本の高度経済成長による近代化で里山林の活用が激減しアカマツ林も放置され、マツタケの生産量がここでも減少していたのである。
 現在、研究所は設立以来15年目になるが、その成果は極めて大きいと内外のマツタケの研究者や栽培林家に評価されるに到っている。岩泉町のマツタケ生産量は研究所設立以前と較べると4倍の生産量に増加し、面白いことにその価格は3倍になっている。もちろん、価格面の上昇効果はマスメディアによるところ大である。毎年秋になると、新聞、テレビやラジオ、週刊誌を賑わせていることは、皆さんごぞんじの通りである。
森林保護や保全が声高に叫ばれていて、その中身もいろいろあるが、それ以上の問題は森林を誰が守るのか、その資金はどうするのかということに誰もが応えないのが現状である。森林保護をただの4字熟語の「お題目」にしてはいけない。
 幸いにも、アカマツ林は守りやすいのである。本来のアカマツ林の姿に戻せばマツタケが生えてくるからである。 1955年ごろ、林が健全であった時代には、マツタケがたくさん採れたということが雄弁に物語っている。20haのアカマツ林でマツタケの林地栽培をする、私の知合いは、下世話になるが、売り上げ云千万円を下らない収入を得ている。
 地域のマツタケ産業振興のためにもアカマツ林を保全するためにもマツタケを林地栽培するあるいは質のよいマツタケを採るあるいはマツタケを増産する林の手入れ法を提案したい。マツタケ栽培の本というと、研究者が見た教科書になっていて、マツタケ生産者が手入れを実施するには、困難な作業を伴う面が多々ある。それでは本を見ると、やってみようという意欲がそがれる。特にマツタケの適地判定にそれが顕著である。その改善にも努めたつもりである。
 マツタケ山づくりの正解は1955年以前の里山林の復活維持以外にない。その方法もわかりやすく解説している。
まつたけ研究所15年の、最も輝かしい成果は、無から有を作る。すなわちマツタケの生えていない山で、菌根の人為形成(培養菌糸の感染)に成功したことである。それを利用すればシロの人為形成も夢ではないと思える。それを皆さんに伝えたい。 

もどる 2刷りによせて→