その12  8.13

 今回は少し「小うるさいことを」と感じるような'話です。しかし、この辺をクリアしないことには、自立した社会人とはいえませんからガマンガマン――。

 もう40年近く前のことです。子供たちの学力問題は、その頃すでに深刻な様相を見せており、例えば「7・5・3教育」などといわれ、学校教育になんとかついていけるのは小学校で全体の7割(3割が落ちこぼれるということ)、中学校では半分、高校になるとわずかに3割といわれました。ゆとりがなく高いところ(内容的に)をバーッテと通り過ぎるみたいなので、「新幹線教育」ともいわれました。
 こうしたなかで、「ゆとり教育」が叫ばれ今日に至ったのですけれど、当時、強く指摘された子供たちをめぐるもう一つの重要な問題は「基本的生活習慣」の乱れや欠如でした。これは、洗顔、朝食、歯磨ぎ、排便などを済ませなかったり、夜更かしして登校するため、授業中に腹痛やめまいを起こしたり、居眠りしたりする子供たちが急激に増え、これが学力問題に拍車をかけているといわれました。
 「基本的生活習慣」の問題は、先に挙げたほか、ゴミが落ちていても拾わない、学校や公園などにある公共物を平気で壊す、あいさつが出来ないなど、言葉を換えれば、いわゆる躾の欠如、人間としての基礎・基本の欠落といえる問題です。例えば、教室で先生が「ゴミが落ちているよ」と注意すると、「気が付いたんなら、先生が自分で拾えばいいだろう」と言う中学生が見られるようになっていました。
 当時すでに、学校で子供の喫煙を注意されると「だから学校では吸うなと言っただろう。吸うなら家で吸え」と言ってわが子を叱る親も現れていましたから、教育担当の記者だった私は「7・5・3教育の是正は大事だ。しかし、家庭・学校・杜会をひっくるめて基本的生活習慣の問題を何とかしないと、学力問題どころかより大変なことになる」と感じて記事を書いたり、話したりしました。
 そしてその後、事態がどう推移してきたかを見ると、私の捉え方は間違っていませんでした。
 なぜ私が「基本的生活習慣」にこだわったか。それは、ボクシングのボディブローや相撲の四股踏み、ラグビーのタックルみたいに「後からてきめんに効いてくる」からで、私の強調したい点です。以前も書きましたが、「基礎・基本」とは「土台」ですから、ここがしっかりしていないと人間として、また仕事の上での積み上げがおぼつかないのです。これは間違いのない私の強い実感であり、確かな経験則です。皆さんにも、ここをしっかりと押さえておいてほしいのです。

 さて、それでは私たちの現状、現実に目を向けてみましょう。そう、「小うるさい話」の始まりです。くとくどは書きませんから、行間を読んでください。そして、相手の立場や身になって考え、時にそれを踏まえて対応できるようになってほしいと思うのです。
 @常にとは言いません、時々は自分の身の回りに目をやってください。何か落ちていませんか。何か変化は起きていませんか。人を思いやる気づきを期待します。
人間のいるところ必ずゴミなどが発生します。外したホッチキスの針はありませんか。クリップや輪ゴムは、紙の切れ端は、そして髪の毛などは。床にコーヒーなどをこぼしたシミは、静電気が集めた小さなほこりの塊は――。
 Aこれはトイレや台所なども一緒です。
町や農村の復興に力を尽くしたことで知られる、あの二宮金次郎(二宮尊徳)は、農家・農民の指導をするとき、まずその家の便所をチェックしたといわれます。当時は屎尿が一番大事な肥料の素だったので、それがある便所の管理(雨水や泥が流れ込んだり、逆に流失して大事な肥料の素を失ったり地下水を汚したりしないように)を重視したのです。自分勝手に使って汚すなどももってのほかと彼は考えていたのです。ですから、もし今日の公衆トイレのひどさを見たら、彼はもう言葉を失うかもしれませんね。
 ひるがえって私たちのところはどうでしょう。私の知っている男子のそれについて言えば、後の人のことを考えて使っているとは言い難い点も多々あるようです。汚れたらきれいにする、トイレットペーパーがなくなりそうになったら補充する、タオルが少し汚れたかなと感じたら人任せにせず自分が取り替える、(男子トイレの場合)便座は原則上げておく――などです。誰かがトイレを使っていると分かっているときは、急ぎの用事でなければ、トイレのすぐ前にある台所仕事は控えるなどは、それぞれの場所が独立していない狭い事務所ではエチケットの基本かと思います。

 こうしたことを書くのは、楽しいものではありませんし、読むのも嫌でしょう。でも、一度こんな視点を持ってみてはいかがでしょう。きっと見えてくるものがあると思いますよ。二宮金次郎にとどまらず、同じことを考えて、トイレ磨きに精を出した集団がありましたが、その精神から生まれたのが今日のダスキンですから、たかがトイレのことでと侮っては間違いを犯すかもしれませんね。

 

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