WJ感想
215話「Last Waltz」 久々に妄想ミニSS・さらばMr2ボン・クレー様編 「・・・あいつ、本当にあれで良かったのか?」ゾロは低く呟いた。他のクルーたちが、海軍に突撃してゆくスワンダ号を、涙ながらに見送る様を眺めつつ。 さきほどのボン・クレーの大見得も、この剣士はひとり、どこか覚めた眼で見つめていたのだ。BW社残党たちの、「麦わら一味と協力して脱出する」という意図を、真っ先に見抜いた彼だからこそ。 「あぁ? てめえ、何が言いてぇ?」 真っ先にそれを聞き咎めたのは、例のごとくサンジだ。ぐっと涙をぬぐって振り向き、にらみつけながら、ずかずかと歩み寄って来る。熱くなるな、と彼を眼で制して、ゾロは答えた。 「だってよ、数日前までの『敵』を助けるために、あんな真似を・・・しかも、奴を信じて付いてきた子分共まで巻き添えにしてだぜ。まあ感謝はしてるし、バロックワークスの連中は自業自得だとしてもだ。俺にゃどうも解せねえ」 「戦略的には、全く理が通らねえ・・・そう言いてぇんだな?」 ようやく了解した様子のサンジに、ゾロはうなずいた。 「俺たちの知ってるバロックワークスってのは、あんな組織じゃねえだろ。確かに個人としては、いい奴もいたかもしれねえが」 「まあな。俺たちがぶつかったのは、特に凶悪な連中だったってのかもしれねえし。世間様からは外れちまったって点では、海賊もあの社員共もそう変わらねえしな。・・・ボンちゃん、言ってたぜ。あいつの部下には特に、『真っ当な世間』に痛めつけられてきたはぐれ者が揃ってたって。それこそ、新しい国でも作らなきゃ、居場所がねえような」 サンジは、もう点のようにしか見えないスワンダ号を見やりながら、言葉を続ける。 「さっき、教えてくれたんだよ。たとえオカマでも、後ろ指さされずに堂々と生きていける国・・・あいつの夢だったんだと。でも本当に欲しかったのは、国なんかじゃなかった。自分が自分らしくあることを、認めてくれる仲間さ。そうして、見つけた。はぐれ者同士の子分たち・・・そして、麦わらのルフィ」 その言葉に、ゾロはようやく思い当たった。 「そうか。ルフィは、自然にあいつの存在を受け入れていたよな・・・」 ゾロには、それが出来なかったが。ボン・クレーに対しては、海上で出会った時からすでに、微妙に距離を置いていた。古いモラルの中で育った彼の、心理的な限界として。ルフィが受け入れた相手だから、と思っても、とても笑ってふざけ合う気にはなれずにいた。 「そういうこった。ルフィと麦わら海賊団は、バロックワークスの敵ではあっても、あいつらにとっては『友達』だったのさ」 「よく分かるもんだな、お前・・・」 呟いたゾロに、サンジは船縁に手をつきながら、低く答えた。 「ああ、分かるよ。あいつは、俺に似てた・・・心と釣り合わねえ、理想とは似ても似つかねえ身体に生まれちまって、あれこれ辛い思いをしてきて」 サンジの味わってきた、自分ではどうしようもない痛み。華奢な容姿ゆえに見くびられること、必死で鍛えても「男らしい」たくましさは得られない体質、時には男でありながら、男の欲望を向けられさえすること。耐えて、戦って、歯を食いしばりながら必死で居場所を探してきた。ボン・クレーが多分そうだったように。 「あの『マネマネの実』の能力、望んで得たとしたら・・・よっぽど、自分が嫌だった頃があったんだろうな」 「自分自身が、嫌だった・・・? 俺にはそうは見えなかったが・・・」 ゾロの記憶には、「男に生まれたかった」と泣いていたくいなの姿がある。それとは逆に、可愛い女の子に生まれたかったのかもしれないボン・クレー。頭ではそう納得できても、同じ痛みをそこに見出すことは、ゾロには出来ない。 「ははっ、あいつの言ってた通りだな。『ゾロちゃんには多分、あちしのことは理解できないと思うの。1ちゃんなんかのことなら、刃物使い同士ってことで、分かりやすいと思うけど』ってさぁ」 巧みに口真似してみせるサンジ。悪戯っぽくゾロを見つめ、そして不意に問いかけてくる。 「ところでさぁ、あいつ、Mr.1のこと何て言ってたと思う?」 「・・・知るかよ」 Mr.1の姿、肉体を文字通り刃として、全てを切り刻むその様に、ゾロは少々近親憎悪めいた感情を持ってもいた。斬鉄剣の開眼へ導いてくれたことだけは、感謝するが。そもそも、自分が斬った相手の思い出話など、愉快なものではない。 「こんなこと、言ってたんだぜ・・・『無愛想で、寄らば斬るって感じで、あちしとは口を開けば喧嘩になってた。あんなセクシー美女が側にいるのに、興味ねえって顔しちゃって、あの朴念仁。でも・・・強いし、責任感はあるし、何より、すごくカッコ良かった』・・・へへっ、誰かさんを連想させねえか?」 「誰をだよ」 しかめっ面で、ゾロは答える。何か居心地が悪い。 「そんなこと、ごちゃごちゃ言っても意味ねえだろ。俺はMr.1じゃねえし、お前はボン・クレーじゃねえ」 と、そこへナミの声がかかった。海軍が追いついてくる前に、クルー全員で、船体の穴を塞ぎ直せと。それをいいことに、ゾロは話を切り上げ、さっさと船内へ姿を消す。 その背中を見送りつつ、サンジは口元に微笑を浮かべ、煙草の火を着けた。 「そう、俺はボンちゃんじゃねえし、てめえはMr.1じゃねえ。だから・・・俺たちこれから、奴らとは違う関係も、作っていけるんじゃねえのか?」 結局ゾロサン話になってしまった(^^; いや、いいんだけどね。 |
216話「ビビの冒険」 読了後の感想は「お見事!!」の一語に尽きます。麦わら海賊団とビビ、それぞれの心意気と熱い絆。無言のうちに通い合う心。ラストで掲げられた「仲間の印」にはとにかく感動。もう思わず、ビビ視点で彼らの背中を見送りつつ涙こらえてしまいました。 そして、このアラバスタ編フィナーレのために、巧みに伏線を敷いていた尾田先生の手腕にも「お見事」と言うしか。 イガラムの、ウイスキーピーク編での女装まで活用するとは(笑)。 「ストーリーの伏線」には、意図的に作っておくものと、適当に書いたはずなのに後になって生きてくるものとがあるようですが、優れた面白いストーリー(作者の中で、確固たる生命をもっている世界観とストーリー、と言うべきか)ほど「点景として出した話が生きてくる」という現象が起こりやすい気がしますね。特に大長編だと。うーん、大河ロマンの醍醐味。 |