「赤い風見鶏亭」気付
トール殿
親愛なるトール
お元気? 今日も薄汚い街角を徘徊しながら、皆で楽しく罪深き行ないを重ねているのでしょうね。あなたがそんなセコい生活から抜け出て、もっと大きな獲物を狙えるだけの縄張りを仕切れるように、心からお祈りしています。
実はいま少し困っています。それで、あなたに頼みたいことがあってこの手紙を書きました。いつもいつもお願いばかりで心苦しいのだけれど、きっと心優しいあなたなら、困っている心友――私達、心の友ですものね?――の頼みを無下にすることは無いと信じています。
……どうやら、今回の出張は一ヶ月程度では済みそうにありません。最初はただの厄介払いかと思って軽く見ていたのですが、蓋を開けてみたらとんでもない事になりました。こんな事に巻き込まれて逃げ出さない私は存外お人好しらしいです。……こら、今笑ったでしょう。私はとっても真面目な話をしているんですよ。
で、話を戻します。端的に言うと、ユートピア教とか名乗る連中の手でセロ村近郊にハイブコアが持ち込まれました。そして私はそれを駆除するために雇われる事になったのです。セロ村の村長も何を考えているんでしょうね。なにしろ仲間はたった5人、しかも駆け出しの青臭い連中ばっかり。
ほ〜ら、あなたも逃げたくなる気持ち、わかるでしょう?けれどあんまり世慣れない連中しかいないので、少し面倒を見てあげる事にしました。だってね、このままだとあの子達、あっさり死んじゃいそうで寝覚めが悪くていけません。
そういう訳で、今現在ユートピア教と名乗っている――今のユートピア教って、騙りみたいなものなんですってね。本物は3人しかいないし、教義も路線が違うとの事です――連中の事についての情報を集めて欲しいんです。とにかくここは冒険者ギルドもない僻地で、情報を手に入れる手段に乏しいのです。もちろん情報料はこちらから出します。ガラナーク神殿の司祭――この坊やが今回の件では代表者なのだけれど、はっきりいって不安――と村長から必要経費として取り立てる予定なので、請求書を回してくれれば大丈夫だと思います。
それと、こういう状況でも構わずに協力してくれるシーフを紹介してくれませんか? このパーティ、シーフが一人もいないんです。おかげでシーフギルドに話を通すのが大変で、ますます情報不足になっています。できれば巾着切よりも探索や追跡の得意なタイプで、あなたが信用できる人をお願いします。
報酬は村長との直接契約になるけれど、宿・食事つきで10GP/月。ハイブ退治は一体毎に報奨金が出ます。それからこの近辺は遺跡の宝庫なので、おそらくハイブの巣も遺跡を利用していると予想されるので、遺跡探索もすることになりそうです。
無理を言ってばかりでごめんなさい。こんな事を頼めるのはあなたしかいないから……などと殊勝なことを言ってみたりして。でも、頼りにしているのは本当ですよ。
きっとよい返事をもらえる事と信じています。もちろん、あなたは私の期待を裏切るような、そんなヒトデナシじゃあないですものね。私は大船に乗ったつもりで、お便りをお待ちしております。
メイとミリーとキーロゥによろしく言っておいてくださいね。皆に神の祝福と私からの愛を遠く北の地から捧げます。
それでは、また。
子守りに勤しむあなたの心友 ヴァイオラ
セロ村 「森の女神亭」にて
追伸: そうそう、紹介してくれたロッツ君ね。彼、結構使える人でした。今度会ったらお礼を言っておいてください。
二伸: ミリーに、お土産が遅くなりそうなので、ごめんなさいと伝えてください。そのうち隊商に言付けて送るつもりです。
▲ 承前へ
文責:柳田久緒