□ 第一回 「それぞれの理想郷」〜ヴァイオラの徒然日記 □

459年 12/21
ぢゅんぢゅん、ぢゅんぢゅん。朝の喧騒を縫って、窓の外ではチョンチョンが鳴いていた。
さすがは北の辺境区。田舎では雀の代わりにモンスターが朝の訪れを告げるらしい。なんと清々しい朝。
「ねぇちゃん、おはよー!」
むやみに明るいゴードンが窓を開け放ち、下で雪かきしているマルガリータに挨拶をしていた。差し込む朝陽の中、頭を廻らしベッドの住人を数えてみる。……三人足りない。坊ちゃんとセイ君とラッキーは警備隊で夜明かししたらしい。
まあ、そのうち戻ってくるでしょう。わたしは身支度を整えて食堂に向かった。

宿が違うはずのツェーレン(さすが好き者親父)と、案内役をお願いした虎人ヘルモーク氏を囲んでの朝食を終えた頃、警備隊員に付き添われて三人が帰ってきた。さすがに疲れているようだ。結局、ヘルモーク氏をお目付け役として異例の執行猶予を賜ったらしい。獣人ながら、ヘルモーク氏には無視できない影響力があると見える。
ふむ。一人この町に留まったことといい、なかなか謎に包まれたおじさまだこと。昨晩のカラクリだの曲がりくねった物言いは、実力者の余裕というやつ? ま、ただの変虎へんじんかもしれないけれど。

その日はカートの轍を辿り続けて日が暮れた。未だ目的の物は発見できず、やむなくこの冬空の下、疎らに積もった雪の中で野宿する事に。一緒に夜直になった坊ちゃんは、付添人ヘルモーク氏の徹底した付き添いぶりに大分不満だったようだ。珍しく自分から話しかけてきて、どういう契約をしたのかと問うてきた。
どうしてこの子はこうなんでしょうねぇ。そんな切り口上に尋ねられたら、素直に話をする気が失せるじゃないの。対人関係は鏡だってこと、おうちで教わらなかった?
 
 
12/22
目的の物を昼過ぎに発見。ワゴンの後扉は開け放たれ、野営の跡には荷物がうち捨てられている。繋ぎっぱなしの馬二頭の他に動くものはない。馬たちの様子を窺うと、どうやら怪我はないものの放置されて空腹を訴えていた。更に近寄って見ると、ひどく何かに怯えて暴れたらしく、その時にできたと思しき擦過傷がいたるところに見つかった。わたしは院長に銅像磨きを命じられる寸前に感じたような、重苦しい予感に襲われた。
そう、あの寒い祈祷所での銅像磨きは本当に辛かった……。

そして、問題のカート内部は呆れるほど空っぽだった。付いていて然るべき備品のひとつさえ無い。わたしはさらに強まる予感のまま、地面の痕跡を探った。ああ、こういう時にこそ腕の良い盗賊や狩人が必要なのに、と思いつつ。とはいえ門前の小僧の例え通りか、カート内から発生した幾多の足跡を発見。
わたしは奇妙な確信を持ってセイ君に尋ねた。曰く、「ハイブは馬を食べるだろうか」と。答えは予想通り「否」だった。わたしは彼に足跡を指し示した。どこまでも予想通りに彼は返答を返す。
「ハイブとハイブマザーだな」
あー、やれやれ。フィルシムの上層部も不甲斐ないこと。討ち洩らしがあったというわけね。場所が外れているのが唯一の救いだけれど。

先行5人組はほぼ確実にハイブの餌と考えられる。自動的に、あの胡散臭い兄弟の悪人指数が飛躍的に上昇。来て早々こんな事件に出くわすとは、坊ちゃんの神託もなかなかに侮れない。でもエオリスは神託下す相手を間違っていると思う。どうせならもっと上の権力持った爺共にすれば、解決も早いんじゃないのかな。

皆で遺留品の確認をしていると、森の奥から変わり果てた5人組が登場。すっかりハイブ面になっている。哀れな。こうなってしまえば殺してやるのが慈悲というもの。わたし達はいっせいに武器を構えた。が、自分らよりあきらかに強く、しかも同数の敵を相手にばらばらで戦闘に突入。戦術の欠片もなし。
しかも戦士のはずのジーさんは何を血迷ってか、虫の息のくせに自らを囮にして死亡。まさか実戦は始めてのコンバットバージン?
あのね、自分が倒れたら後ろの連中も後に続くって、ちゃんとわかってる? 君の肩に皆の命がかかっているの。だから倒れちゃいけない、それが戦士というものでしょう?

いきなり犠牲者が出たことでラッキーは泣き喚き、セイ君は打ち首に熱中し、ゴードンは黙して語らず、坊ちゃんは項垂れた。本当に見ているだけだったヘルモーク氏は少し良心の呵責があったのか、はたまた恩を売ろうと思ったのか、条件付きでジーさんの魂を呼び戻してやろうと言った。
「このハイブコアを潰してほしい。それが条件だ」
何を考えているか、この親父。その目でこの惨憺たる有様を見、尚かつそう言う? しかも「復活」の秘儀までおまけにつけて。
それだけの価値がわたし達にあるってことかしらね。でなければゆくゆくはそうなれるだけの可能性を見いだしたのか。……面白い。

坊ちゃんはうだうだ考えていたようだが、ラッキーの泣き落としに根負けしたらしい。結局勢いよく頷いて同意した。ヘルモーク氏はジーさんの遺体と共にどこぞへ消えた。リムリスの神殿か聖地にでも行ったのだろうか。するとヘルモーク氏はやはり……?
 
 
12/23
朝から坊ちゃんは独白している。どうやら再び神託が下ったらしい。内容は「ハイブと戦え!」だとか。相変わらずエオリスはいい加減だ。坊ちゃんの解釈が歪んでいる可能性もあるけれど。
途中ムカデの群に遭遇。さくさく倒すがセイ君は噛まれて熱病に冒される。戦術の組み立てを考えないといけない事をさらに痛感。誰か戦闘指揮官コマンダー張れるだけの戦術持ってないかな。このままだと成長を待つまでもなく、あっさり死ねそうな気がするんだけど。
村の前ではヘルモーク氏とジーさんが待っていた。こうもあっさり蘇っちゃうとありがたみがないような。でもよかったね。人間生きていてこそ何事も為せる。死んでしまえばお終いよ。皆等しく蛆虫の寝床と誰かが言っていたしね。

ハイブ5人組の遺品を配り歩いているうちに、村の神官スピットから例の兄弟の片割れが霊廟で何やらしていたという情報を得た。さすがに定型を踏みまくっているぞイビル神官。やばい儀式かアンデット作りでもしたのに違いない。明日は墓の捜索をしようと皆の意見は一致した。
ここにきて坊ちゃんはやや気弱になったのか、はたまた友愛と信頼の光に目覚めたのか、絶対に言わなかった神託の内容を話し始めた。彼の心象風景を表現するスキルはかなり低い。皆で話し合った結果、たいして役に立たないお告げだという事がわかった。

ヘルモーク氏がふらりと入ってきた。ディライト兄弟を追っかけるなら、ぶっちぎりなアシを提供してもいいと言う。皆は肯いていたけど、それって捕殺ということか?
まあいいんじゃない。人は何を信じようと勝手だけれど、その信仰を強制したり、犠牲を強いたりすれば反発喰らって当然だし。因果応報の理はついて回るものね。彼らも覚悟はできているでしょう。仮にも兄貴は聖職なのだから。
 
 
12/24
朝、村はずれに待っていたのは大虎の一群だった。すごすぎる。ますますヘルモーク氏の謎は深まる。フィルシム神官たる我らは何の躊躇もなくお世話になった。意外なのは、頭が堅い正統ガラナーク派に首まで漬かった坊ちゃんが、悪魔崇拝の獣人族ヘルモーク氏や虎さんにあまり拘りを見せないこと。反発ならわたしに対しての方がきついぐらいなんだけど。これもまた謎。
 
 
12/25
昼頃に3、4日前出発していたツェーレン達の隊商に追いつく。恐ろしい速さだ。獲物は更に一日分先行しているという事だから、このペースなら今夕には追いつくはず。
で、夕方。焚き火の明かりを発見。ヘルモーク氏は、あとは自分たちでやれと言って虎さん達と後ろへ下がった。尻叩くだけ叩いて見てるだけなのは、やっぱり導き手だから? 単なるお節介にしては中途半端に親切だしね。

何も考えず近づいて話を始めたせいで、かなり不利な間合いを強いられた。ああ、やっぱり指揮官不在パーティは痛い。いきなり湧いて出たセロ村産骸骨4体にちょっと手こずったものの、信念勝負じゃ負けませんよわたしは。ラッキーとの合体呪文で制御呪文を打ち破り、まずは3体追い払った。
が、神のご意志だ理想の世界だとほざくユートピアン神官は予想よりも強かった。いきなり緊縛ホールド呪文を投射し、坊ちゃんとわたし以外は術に嵌った。……失敗した。そんなに高位の神官だとは思わなかったから、目くらまし用と恐慌防止リムーブフィア呪文の用意しかしてこなかった。
まずい、と思った瞬間、目の前に影の薄い弟戦士が迫っていた。慌ててヴェスパーを引き寄せたが、木に挟まってポッキリ折れた。
ちょっと待ってよ、不良品掴ませたわねあの親父……!

……。

気が付くと皆元気に戦っている。でも苦戦中。見ると黒ローブ姿の男が隅っこに立っている。真ユートピア教徒らしい。でも彼もヘルモーク氏同様、見〜て〜る〜だ〜け〜。いい加減にしてよ。自分のとこの不始末は自分で責任取って頂戴。そう言ったらしぶしぶ回復要員として加わる。
こちらの陣営は攻撃力に乏しく、なかなか決定打を与えられない。セイ君もジーさんも外す外す。なんとか足止めしようとボーラを使うが失敗。仕方なく奥の手、閃光弾ライト投射キャスト。これまた外れる。あー、もう! 許すまじ板金鎧&歪んだ信念!
あきらめず、再びボーラでイビル神官をエンタングル。そして弟戦士に雪辱戦を挑む。だから、信念勝負じゃ負けないって言ってるでしょう、恐怖よ来たれコーズフィア。ほら勝った。

ぼろぼろになりながらも兄貴を仕留めてほっと一息。逃走した弟は離れた場所で何故か自爆していた。博識なゴードンによれば、ブラスティングボタンが仕込まれていたそうな。またも定型を踏んでいるのね。たいへん悪の組織らしいじゃないの。テロと制裁はお約束。

謎のローブ男はシア=ハと名乗り、元祖ユートピア教の者だそうだ。噂通り、教祖のピエールはどっかで眠りこけており、今の指導者は勝手にユートピア教を名乗って好き勝手なことをしているらしい。実際の信者は3人しかいないとのこと。ガラナークさんちでは莫大な懸賞金がその首に懸けられているそうな。
坊ちゃんはその話に癇を立てた。馬鹿だねこの子は。戦って勝てると思ってるの?第一、悪魔崇拝のヘルモーク氏と上手くやっていけるんだから、邪教徒のシア=ハ氏とも仲良くできるはずでしょう。差別は駄目よ差別は。
「あなたの理想郷は何ですか?」
そんな問いを投げかけた後、彼は去っていった。

その晩は野営する事に。明日すれ違うだろうフィルシム行きの隊商に預ける手紙を書く。取り敢えずロッツ君に宛ててこの事件の顛末を。この情報の価値がどれほどかはわからないけれど、どんな屑であろうと情報っていうのは力だから。それを手みやげにギルドのパイプを太くしておく方がいいでしょう。ロッツ君には併せてトールへの中継もお願いする。
ま、ちゃんとした手紙はセロ村に戻ってから書けばいいでしょう。
 
 
12/26
ようやく追いついた隊商に昨晩の手紙を言付け、ついでにヴェスパーの購入依頼をかける。やれやれ、小樽を下げる棒が無くなっちゃった。仕方がないので全部飲んじゃいましょうか。
 
 
12/27
宿に戻って一風呂浴びる。久しぶりにさっぱりして、ゆっくり休息をとった。平和だ。
 
 
12/28
村長に呼ばれる。対ハイブ用遊撃隊のお誘いだった。10gp/月で宿、飯付き。ハイブ一体毎に報奨金。他必要経費は申請時に検討。
んー、最初の一ヶ月でどれだけ腕を上げられるかにかかっているわね。でもこの面子でハイブ退治はきついでしょうと思ったら、増員も認めるとのこと。ふーん。それは考えどころかも。一晩の猶予を乞うて宿に戻る。
わたし的には受けても良いと思う。どうせクダヒに戻っても退屈で窮屈な毎日だし、冷や飯食いもそろそろ厭きた。ミリー達に会えないのは寂しいけれど、その分次に会えたときは何倍も嬉しいから、いい。
まあ、やるなら徹底的にやる事にしましょうか。鉄は熱いうちに打てというものね。

いきなりジーさんが言った。「生還おめでとうパーティをしよう!」勿論否やはない。
当然坊ちゃんの財布から宴会費用は払われる。たまたま非番の自警団員も参加し、遠慮無く高い酒を頼んでいた。宴会というより豪華会食という雰囲気のためか、そこで仕事の話を振る不埒な奴がいた。酒の席で仕事の話はしないのが暗黙のルールなのにねぇ。これだから子供は困る。まあ、それだけ不安だということか。

坊ちゃんはうじうじと悩んでいるようだった。どうやって皆に依頼を受けて貰おうか、どうお願いしようか、そんな感じ。ああ、メイ。この連中と一緒にいると、あなたがやってたみたいに鞭を鳴らしたくてしょうがない。なんだかあなたの気持ちが今になってわかる。人を導くのって、すごーく大変なことなのね。
はあ、とひとつ溜息をつき、わたしは手元にあった空瓶を取り上げた。ゴンッ。坊ちゃんの頭はいい音がした。
「子供は素直にお願いしますと言えばいいのよ」
坊ちゃんは言われた内容と殴られた痛みに混乱し、目をぱちくりさせている。しばらくたっても反応が無いので、どうやら意味がわからなかったようだ。やれやれ、これ以上噛み砕いて教えてあげる義理は無いわよ。自分で考えなさいね。

話しているうちに、なんだかおかしな方に考えが及んだらしい。しきりに責任がとれないけれど一緒に契約してくれないかと言って、我々に協力を仰いできた。だから、素直にお願いしますと言えばいいって言ってるでしょうがっっ! まったく人の話を聞かない子ね、このお坊ちゃんは。
更に言うと、契約するしないは一から十まで私の意志のみに左右されるの。あなたが責任を負う必要はないし、負われたら困ります。選ぶのはわたし。おわかり? そういう偽善的で視野の狭い傲慢な考えはポイしましょうね。

結局わたしの言いたい事は伝わらなかったようだ。他の子達は理解しているようなのに、どうもああいった機微にはてんで疎いらしい。先は長かった。
 
 
12/29
一人も欠けることなく全員で契約を結ぶ。来年からはセロ村常駐部隊という事に。セイ君の強制労働を皆で手分けして手伝う。もうすぐ年越し祭り。ちょうどいいからトール宛ての手紙を届けて貰うとしましょうか。

 

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「赤い風見鶏亭」気付

        トール殿

 

 

 

親愛なるトール

 

お元気? 今日も薄汚い街角を徘徊しながら、皆で楽しく罪深き行ないを重ねているのでしょうね。あなたがそんなセコい生活から抜け出て、もっと大きな獲物を狙えるだけの縄張りを仕切れるように、心からお祈りしています。

 

実はいま少し困っています。それで、あなたに頼みたいことがあってこの手紙を書きました。いつもいつもお願いばかりで心苦しいのだけれど、きっと心優しいあなたなら、困っている心友――私達、心の友ですものね?――の頼みを無下にすることは無いと信じています。

……どうやら、今回の出張は一ヶ月程度では済みそうにありません。最初はただの厄介払いかと思って軽く見ていたのですが、蓋を開けてみたらとんでもない事になりました。こんな事に巻き込まれて逃げ出さない私は存外お人好しらしいです。……こら、今笑ったでしょう。私はとっても真面目な話をしているんですよ。

で、話を戻します。端的に言うと、ユートピア教とか名乗る連中の手でセロ村近郊にハイブコアが持ち込まれました。そして私はそれを駆除するために雇われる事になったのです。セロ村の村長も何を考えているんでしょうね。なにしろ仲間はたった5人、しかも駆け出しの青臭い連中ばっかり。

ほ〜ら、あなたも逃げたくなる気持ち、わかるでしょう?けれどあんまり世慣れない連中しかいないので、少し面倒を見てあげる事にしました。だってね、このままだとあの子達、あっさり死んじゃいそうで寝覚めが悪くていけません。

そういう訳で、今現在ユートピア教と名乗っている――今のユートピア教って、騙りみたいなものなんですってね。本物は3人しかいないし、教義も路線が違うとの事です――連中の事についての情報を集めて欲しいんです。とにかくここは冒険者ギルドもない僻地で、情報を手に入れる手段に乏しいのです。もちろん情報料はこちらから出します。ガラナーク神殿の司祭――この坊やが今回の件では代表者なのだけれど、はっきりいって不安――と村長から必要経費として取り立てる予定なので、請求書を回してくれれば大丈夫だと思います。

それと、こういう状況でも構わずに協力してくれるシーフを紹介してくれませんか? このパーティ、シーフが一人もいないんです。おかげでシーフギルドに話を通すのが大変で、ますます情報不足になっています。できれば巾着切よりも探索や追跡の得意なタイプで、あなたが信用できる人をお願いします。

報酬は村長との直接契約になるけれど、宿・食事つきで10GP/月。ハイブ退治は一体毎に報奨金が出ます。それからこの近辺は遺跡の宝庫なので、おそらくハイブの巣も遺跡を利用していると予想されるので、遺跡探索もすることになりそうです。

 

無理を言ってばかりでごめんなさい。こんな事を頼めるのはあなたしかいないから……などと殊勝なことを言ってみたりして。でも、頼りにしているのは本当ですよ。

きっとよい返事をもらえる事と信じています。もちろん、あなたは私の期待を裏切るような、そんなヒトデナシじゃあないですものね。私は大船に乗ったつもりで、お便りをお待ちしております。

メイとミリーとキーロゥによろしく言っておいてくださいね。皆に神の祝福と私からの愛を遠く北の地から捧げます。

それでは、また。

 

 

子守りに勤しむあなたの心友 ヴァイオラ 
セロ村 「森の女神亭」にて 

 

 

 

追伸: そうそう、紹介してくれたロッツ君ね。彼、結構使える人でした。今度会ったらお礼を言っておいてください。

 

二伸: ミリーに、お土産が遅くなりそうなので、ごめんなさいと伝えてください。そのうち隊商に言付けて送るつもりです。

 

 

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書き終えて気づいた。わたし自身、まだ本当には彼らを受け入れる事も、受け入れられる事もしていないのだ。この懐かしいクダヒの皆を思う時と、ここにいる彼らを思う時では、黒と白のようにかけ離れている。勿論それは、信頼を築き上げた期間も密度も差があるから当然の事。けれど。あの頃の皆とだって、最初から仲良くできたわけじゃない。
キーロゥは凄い恐かったし、トールはいじめっこで、メイとはすぐケンカになり、ミリーは……あの子がいつも仲直りさせてくれたんだっけ。

「人は人の中に自らの影を見る。水面に映った微かな像でも、それは自分自身に他ならない」
そうでした。それがおじさんの教えだったのに、危うく忘れるところでした。
子供子供と突き放したら駄目なんですね。子供が馬鹿なのは当たり前。まだ何も知らなくても、これから覚えていけばいい。そうやって歩み寄れば、向こうもそれに応えてくれる。そうですよね、カジャおじさん?

わたしは手紙に封をした。熱い封蝋にいつも身につけているダガーの柄頭を押しつける。くっきりと鮮やかに捺された刻印を眺めるうちに、ふっとある男の問いが頭を過ぎった。それへ、わたしはさらなる確信を持って再び答えを返す。
「変わっていけるなら、現実ここが理想郷じゃない?」

 

 

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文責:柳田久緒