□ 第十二回「集いし四組・前編」〜ヴァイオラの徒然日記 □

460年4/29
順調だ。
 
4/30
例の狼族の関所が破壊されていた。先行しているバーナード達の仕業だろう。柵のいくつかは引き抜かれ、近所に山ほどいるだろう凶暴な生き物たちが通り抜けた跡もある。普段の野営場所とは違うが、遮蔽物があると楽なのでここで野営。

食事時、ガーウのゴーストが現れた。胸元にはルナブローチ。泣き言をいうその身体には、バーナード達が全力で倒した証があちこちについていた。あんな下っ端に全員でかかるなんて、ひどい事をする。と、月の光を浴びたガーウは変身して襲いかかってきた。ターンは効かないし、傷つけてもすぐに再生する。言葉も通じないし、身につけたルナブローチを闇で相殺することもできない。打つ手なしか? と思ったところで、「実験体なんて嫌だよぉ」と泣きながら消えてしまった。
なんだか散々嫌な予感を掻き立てる言葉を残していったが、彼の迷いを払ってやれなかったのが残念だ。
 
4/31
野営地を変えたためツェーレンと酒盛りできず、通りすがりに酒だけ撒いておく。帰りはちゃんと来るからね。

ドルトン達と会った。やはりあの関所はバーナード達の仕業だったようだ。弱い者いじめの理由も判明。金を払う事を拒否したら、突然獣人化して襲ってきたのだという。それも、一人だけ。あ〜あ、やっぱり嫌な予感はあたるんだな。ドルトンはスコルとレイがガーウの死体を埋めるのは見たが、その場所を覚えていなかった。使えぬ奴め。一応情報料に1GPと2spを払ってやった。
しかし狼族もとんでもない事をする。おそらく、彼らは獣人としての力をフルに引き出すための実験をしているのだ。ガーウの戦闘は、そのためのデータ集め。ほとんど使い捨て状態だ。非道いことを。連中、ますます人間の悪いところを真似しはじめたようだ。

夕方に熊が襲ってきた。どうせ返り討ちになるんだから、大人しく帰れと親切に忠告してあげた。しかし言うことを聞かなかったので、予告通りの末路を辿ってもらった。

(S)狼族の関所破壊及び実験の可能性を示唆する報告・その1
 
5/1
5月になった。もう21歳だ。そろそろ将来の方向性を考えなければ。

(S)狼族実験の可能性を示唆する報告・その2
 
5/2
返事が戻らない。大司祭は忙しいようだ。
 
5/3
了解した、と一言のみ。本当に忙しいらしい。
 
5/4
大司祭からまた何か来た。フィルシムに異端審問官がいるので騒ぎを起こすなと書いてあった。そういえば、トーラファンのところへ間借りに行った時、そんな話も出てたっけ。皆に釘を刺すには、ちょっと場所が悪いな。向こうに着いてから話す事にする。
 
5/5
フィルシム着。またしても門の前には10’ソードを持った人が。ほんとに、どうやって我々の到着を嗅ぎつけているんだろう。不気味だ。セイ君は素直にマスタリーの指導をお願いしていた。
宿に入る前に訓練所で明日からの登録をした。帰りがけのバーナード達を見かけ、ジーさんが殺っちまおうと息巻いた。まだ情報も搾り取れていないから、後でねと言っておいた。ラッキーを送りがてら、ボーヤと一緒にトーラファンのところに向かう。一応実験の話はしておいた方がいいからね。ギルドに行ったロッツ君には、ナルーシャの旦那の家について調べてくれるよう頼んだ。

トーラファンにガーウの話をすると、やはりそれは狼族の実験だろうと言われた。なにやらますます獣人戦争の気配が強まった。最近明るい話題に乏しい。どうせ暗い話ならと思い、ダーネル所長の事を訊いてみた。さすがトーラファン、いらん事まで知っていた。

――「奴」はずっと昔からいろんな名前で存在している。その時々に表層の人格を持ち、その人格の名前がいくつか伝わっている。順に、「ハール」、「アレスト」、「シェアレス」、そして「ダーネル」。この後は空白期間が続くが、それは裏の人格が目覚めず、平凡な人生を送ったからだ。
――「アクアリュート」は「奴」の妻であり、「奴」が常に探し求めている二つのうちの一つ。もう一つはルビーの魔剣。これは「奴」の記憶を覚醒させる触媒である。この剣が現れたのなら、「奴」はこの時代にも存在する。おそらくはセリフィアの身内、または近しい人間が「奴」である。

………。
………。
………。
あー、空が暗いなぁ。
わたしは久しぶりに逃避したくなった。
しかしこうなった以上、「奴」の問題を避けて通る事はできないだろう。厄介事は一度踏んだら延々祟る。わたしはここ半年の間にそれを思い知った。そうとなれば防衛策を講じておく方がいいだろう。かつてミリーが言ったように、「備えあればうれしいな」――うん、真理をついている――だ。
トーラファンに厄介な相手だし、なんかツテでも紹介してくれと言ったら「まだ足りないのか」と呟かれた。何が?

世間に揉まれているだけあってボーヤは聡い。帰り道、抱え込まずに自分たちにも重荷を分けろと言う。自発的に責任を負いたいというのなら、わたしにも否やはない。手始めにパーティ資金を全部渡した。荷物が軽くなって嬉しい。
宿には噂の異端審問官どもがたむろっていた。雑魚ばかりなので無視。
奥のテーブルにトールたちがいた。メンバーが一人増えていて、彼女はホワイトドラゴンだという。へー、すごいね。初めて見た。うちにも人外はいっぱいいるけど変身は(まだ)しないもんね。そーいえば竜騎士と竜の取り決めってどういうものなんだろう。乗せてくださいという契約でも結ぶのだろうか。

荷物を置きに部屋へ上がったら、扉の向こうから不穏な会話、もとい不可解な会話が。どうもセイ君とジーさんがボーヤを肩口から斬る斬らないで揉めているらしい。思わず本人と顔を見合わせる。次の瞬間、二人して扉に張り付いていた。なんだか妙に息のあったタイミングだ。
しばらく聞き耳を立ててはみたが、さっぱりわからん。相変わらずこの二人は感性が普通人とずれている。しかも互いに言っている事が微妙に空回り。同じ会話を延々繰り返す。
何となくわかったのは、ジーさんがセイ君の周りの人間に嫉妬して、その連中を排除したいと思っている事。セイ君は必死にそうさせないための提案をしているという事。しかし会話は平行線どころか捻れの関係。
ようやくまとまる気配を見せたので、気配を殺したまま階段口へ戻った。それから普通の足音で、今登ってきたような顔をして扉を開ける。が、中ではお取り込み中だったようだ。
「失礼しました」
わたしたちは礼儀正しく扉を閉めた。

遅くなったがトール達と夕食をとった。今回は向こうも一ヶ月ばかりここにいるというので、じゃあ久しぶりだしどうだろうと打診した。明日の晩にアポ。
 
5/6
警備隊のルブトンはクダヒに出張。向こうで対ユートピア教の応援として駆り出されるらしい。ご苦労様というところだが、一つ、非常に気になる事を言っていた。
クダヒの貴族が連中の手の者になっている――それって、ナルーシャの旦那の家じゃないの?大司祭から話がいってるとしても、こんな別都市にまで聞こえてくるのなら、クダヒではほぼ公の事実だろう。わたしが行っても罠に落ちるだけだし、証拠がないから告発するわけにも行かない。だから結婚式には出席するつもりはなかったんだけど……。
もしもこれが複層構造の罠だとしたら?わたしが来れば良し。もし駄目でも人質は確保される。更に告発されてアナソシス家と同じ道を辿ったとしても、当然ながら累は縁戚になったうちにも及ぶ。そうしたら、わたしは家族を助けに戻らざるを得ない。
――駄目だ。情報が足りない。あの子達もまだまだ不安定だし、置いて行くには早すぎる。消極的な選択だけれど、ここはもうしばらく様子を見る事にしよう。

トールの手持ちスキルに新しいヴァリエーションが増えていた。相変わらずあちこちで摘み食いしているのね。
 
5/7
ジーさんは何を思ったのか、わざわざボーヤに案内させて、自分が一年後に生きているかを占いに行った。哀れ占い師は力に負けてお亡くなりに。どうやら本物だったらしい。
人外カップルだけに、どうも普通のおつきあいができないと見える。ジーさんにはいくつかの悩みがあるというので人生相談開始。

ひとつ――つがいの事。
成人するのは騎士や郷士になれるだけの実力を備えたら、つまり一廉ひとかどの者になったと認められた時。ここでつがいにならないと「泡になる」。つがいの儀式は求愛のダンスを踊るだけじゃだめらしい。互いに全ての記憶を交換して二人で一つ、まさに「比翼の鳥」になるわけで、当然隠しておきたいことも知られてしまう。それはちょっと大変だ。
セイ君はダルフェリルの記憶があるから、当然つがいの事も知っているはず。それでもジーさんに好きだといったんだから、その根性は見上げたものだ。だから彼なら少なくとも厭うことは無いはず。そう言ったら、知られて困るのはジーさんの方だったらしい。……難しいお年頃なのね。
まだ時間があるし、受け入れようとがんばるセイ君に釣り合うような、自分の全てを見せても悔いのない大人になれと助言した。

ふたつ――凶悪なまでの独占欲。
セイ君の見る人間全てに嫉妬しまくりで、セイ君が親しくしている友人、雑談する相手、その全てが抹殺対象とは恐るべき独占欲。例のボーヤを肩口から斬る問答は、これのことだったらしい。しかし一番嫉妬して然るべきサラさんやラッキーについては問題ないのが不思議だ。というのはジーさんも好きな人達だからか。
この強烈な独占欲が元で、例のお義母さんを告発することになってしまったから、自分でも何とかしたいと思っているようだ。どうしても許せないという許容範囲の狭さを克服して、度量の大きな鷹族になれと諭す。

みっつ――好きな人に好きっていったら迷惑じゃないの?
かわいらしい悩みに見えて、実は根が深い。お義母さんの事もそうだが、ジーさんは大臣のメルデルなんたらが好きだったようだ。しかし、相手は別の人しか見ていない上、「薄汚い獣人」とまで暴言を吐かれたわけだ。それで、嫌いな相手から好きだと言われるのは迷惑じゃないかと思い詰めるあたり、なんというか極端から極端へ走るよね。
自分の心は自分のものなんだから、想うのは自由でしょう。それが相手に迷惑なのは、その想いを押しつけたり、見返りを要求するからじゃないかな。そっと影から手助けする分には問題ないと思うけど。
嫌悪や恐怖はほとんどの場合、無知と無理解から生じる。だからジーさん自身がいろいろなものを受け入れて、外に目を向けて周りに親しめば、相手も自ずと親しみを持つようになるはずだと説いておく。

……。
……。
……はあー、疲れた。

ジーさんがデスウィッシュで「お母さん」だの「お義母さん」を生き返らす事がないよう、セイ君にはがんばって大人になって欲しいものだ。
セイ君の相手をしていたボーヤが意外に使えることを発見。ちょっと安心したかな。

疲れた心を癒しにトールの部屋で一晩過ごす。
 
5/8
昨日の疲れが残っているので早く休んだ。
 
5/9
訓練所の入り口で、セイ君が年増のオカマに口説かれていた。相変わらず男に好かれる。男寄せフェロモンでも出しているんじゃなかろうか。ジーさんの知り合いらしいが、あれがガラナークの上位騎士かと思うと、何ともはや怖ろしい。
だいたい、あの年であの実力の持ち主なのだ。オカマの騎士なんぞやっていないで、とっととウィッシュでも探しに行って本物の女になればいいだろうに。低レベルの妥協は許しがたいものがある。

ジールとアズは元気にやっているようだ。よかった。
 
5/10
夕食時、ガラナークの騎士が二人寄ってきた。カインに用がある時点でやばそうだが、レスターの本名を持ち出された日には、鬼門もいいところだ。最近いらん事を喋る人間ばかりに会うが、この二人もその例に漏れず。
ジェラルディンが、実は里子に出されたレスターの姉だと爆弾発言。……あー、つまりボーヤとも、って事か? やば。まさに「禁断を犯す」を地でいってるじゃないの。おまけにラッキーの血筋疑惑がますます濃厚になったよね。下手すると、うちの子達は皆血縁ってこともありうるわけだ。トーラファンの言いぐさじゃないけれど、何かが彼らを集めたとしか思えない。

先日、ラッキーが異端審問官共に絡まれていたところを助けてくれたという、通りすがりの助っ人兄貴と顔を合わせる。そこのシーフはウィーリーの兄弟だった。相変わらず世間は狭い。石を投げれば誰かの知り合いに当たる。
 
5/11
最近夕食時に何かが起こる。ブランクと名乗るガタイの良い魔術師がセイ君に会いに来た。……その戦士と見まごうばかりの体格の良さに、何とも言えぬ不安を感じる。ダーネル所長もあんな感じだったから。いや、考えすぎだろう。多分……ね。
明日の夜、一人で正門に来いという呼び出し状をおいて彼は去った。どうも胡散臭いが、何も分からず襲われるより、行って襲われる方がまだましな気がする。少なくとも襲われる準備が出来るじゃない。そういうわけで、明日の晩は皆でデートの付き添いが決定。
 
5/12
夜のデートにパーティぐるみの無粋な付き添い。何かあったら困るので、念のためトーラファンに水晶玉で様子を見ておいてくれるように頼む。実際、これは有効な防御策だった事が判明した。
ブランクはいきなりセイ君の親父さんに呪詛を撒き散らしたかと思うと、高位アンデットの群れを呼び出した。こりゃ死ぬかも、と思ったら、なんかいろいろ助太刀が入って助かった。ショーテスの婆とガラナークのオカマは、殊の外彼を気に入っているようだ。これも全てセイ君の偏った魅力の為せる技。
トーラファンのゴーレムがブランクを叩いてくれたお礼を言いに訪ねたら、またしても余計な事を言われた。つまり、ブランクとセイ君の親父さん、さらにその裏人格が合体すると「持たざる者」になる、と。せっかく言わないでおいたのに、余計なことを。
その話題に引かれてきたのか、いつぞやの魔剣――ラルキアとかいう弟――が突然現れた。今回はすぐに消えなかった。しばらくセイ君の側で「奴」から守る事にしたらしい。美しい兄弟愛だね。
しかし、ますます血縁ばかりが集まるようになったな。
子供達はトーラファンにマジックアイテムを無心していたが、あまり感心しない。すでにかなりの呪文を使わせている上に、様々な便宜も図って貰っているのだ。これ以上は厚かましい願いというものだ。それに、物品に頼るのは良くない。借り物の強さに狎れて自分の頭で考えなくなるからね。
 
5/13
どこから聞きつけたのか、ガウアーからナルーシャの件でお祝いを述べられる。いや、あんまり目出度くないんだけど。まあ、本人同士はうまくいくかもしれないが(あくまで希望的観測)、なんでこんな良縁が調ったのかを考えるとね……。
ガウアーとは今度の休みにナルーシャの結婚祝いを探しに行く約束をした。

異端審問官共は他人の土地で好き勝手している。パシエンスがトーラファンに保護されて手が出せない事に業を煮やしたか、ラッキーに二度目のちょっかいをかけてきた。彼らは聖地に住まうといいながら、どうも聖職者への敬意に欠ける。これだから狂信者は手に負えない。
とにかく厳重に抗議をするべく、宿に戻る。最初は理を説くつもりだったが……途中でキレた。ほんとに、やってらんない。こういうはき違えたバカを見ると虫酸が走る。さすが使えない大司教のお膝元。上が駄目なら下もダメダメだわ。
あんまりむかつくので煽るだけ煽ったら、手下共まで殺気だってきた。さすがにこれはマズイので、大司教の親書で威圧。エライ人の名前はこういう時に使うためにあるのだ。が、見た目司祭でも騎士でもないフィルシム人が、雲の上のお方である大司教直属(と言えないこともない)である事を認めるには、奴らのプライドが許さなかったようだ。下っ端だけに、それが直筆かどうかの判断もつかないから、余計に始末が悪い。
あわや戦闘かというところで、オカマが颯爽と現れて――絶対にあれは外で立ち聞きしていたに違いない――異端審問官共を追っ払った。そういうところは妙に「兄貴」っぽい言動なんだけどね。でもオカマ。

レスターんの二人組からボーヤ宛に呼び出し状。ほんと毎日何かしら起こるわね。明日もまた夜歩きか。
 
5/14
ラッキーをトーラファンのところに残し、皆で貧民街を夜の散歩。わざわざボーヤのねぐらを指定するあたり、かなり形振り構っていられないらしい。ここにラッキーを連れてきたら、いきなり拉致られる気がする。
迷惑な呼び出しではあるが、今まで単なる推測でしかなかった事の裏がとれたのは大きい。
つまり――


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という事。

……なんというか、もう、言葉も出ない。
以前、ジーさんが夢で見たというあの母親の性格を鑑みるに、ボーヤは消しておきたいところだろう。実際、例の二人組の態度からしてそうだったし。
かなり散々な事実に直面した割にボーヤは前向きだった。なかなか将来を期待できそうな感じ。セイ君やラッキーよりその辺が大人で助かる。皆で一斉に落ち込まれると、さすがにわたしも面倒見切れない。

この街へ来る度に、一人歩きできない理由が増えていく。困ったことだ。
 
5/15
今日は休日。ガウアーとデート。子供らはパシエンスの畑を手伝いに行った。ついでにラッキーに昨夜の話をしておくように頼む。
中堅どころの店でナルーシャの結婚祝いを購入。侯爵様相手じゃ何を贈っても見劣りするだろうから、あの子が普段使いできるものがいい。そうガウアーに言ったら、高くないけれど粋な小物類を置く店に連れて行ってくれた。やはりこういうのは知っている人に聞かないと。ものは名前に因んで、水仙の意匠を象った壁掛けの鏡。大きくはないが細工の出来はかなり良い。お値段100GP。わたし個人が贈る物としてはこれくらいが妥当でしょう。
カードを添えて送ってくれるよう頼み、その後一緒に夕食をとった。雰囲気の良い落ち着いた店で、食事も酒も美味しかった。ガウアーは最後まで紳士的にエスコートをしてくれた。が、初対面のアレを見ているだけに、あまりうっとりできないなあ。実際、好みとしてはもっとくだけていても構わないのだけれどね。

帰りにトーラファンのところへ寄る。前回来たとき、「時間があったら来てくれ」と言われていたのだ。そこには院長と家主の両方が顔を揃えて待っていた。ガラやんがウルサイという共通認識の元、狸親父共が結託して根回しするらしい。わたしは皆まで聞かず、大司教――こういう時にしか役に立たない――の親書を取り出した。

セイ君は最近立て続けに食らったダメージに耐えられなかったようだ。あろう事か、ジーさんを抱き枕にして、堂々とひとつ布団で添い寝。こらこら、いろいろと段階をすっぽかしているぞ、少年。
ただの添い寝なら「かわいいね」で済むが、中途半端に慰めを求めているところが見苦しい。気持ちのすり替え&押しつけは、相手のことを全く無視した行為でしょうが。ジーさんに失礼だと思わないのかね。まったく、これだから経験値の低い坊主は困る。
どうせ例の記憶を参考にしているのだろうが、向こうは積み上げた物の密度も時間も段違いなんだからさ。同じ事したって上滑りになるのは当たり前じゃない。まったく。
……ああ、いけない。これは単なる八つ当たりだ。全部振り切ったつもりでも、なかなかそう簡単にはいかないらしい。
けどねぇ、リズィの最期を思うと、やはり目の前の情景にはむかつく。
 
5/16
ジーさんは満月によりダウン。そのジーさんにセイ君はプレゼントを買いたいという。まあ、いいんじゃないの。悩める少年にアドヴァイスするというお題目を掲げ、わたしは見物について行った。いやー、経験値のない子供って本当にしょうもないのね。何を買うか決めるのにぐるぐると悩む悩む。ジーさんが何を好きかチェックもせずにプレゼントなぞしようとは。片腹痛いわ。
別になんだっていいじゃない。セイ君があげたいと思った物をあげれば。ジーさんそれで喜ぶと思うよ。それに、妙に高価なものあげるよりかは、セイ君にしかあげられないものの方が断然ポイント高いと思うがね――セイ君がその手でもいだ果物とか、安心させてあげられる一言とか。
なんにせよ、花束にはちゃんとリボンつけなさい。そういうプラスワンが贈り物の価値を高めるんだから。

性懲りもなくセイ君はジーさんに添い寝。ちょっとは思うところがあったのか、「俺は生まれ変わる」と称して酒を一気飲み。それで昏倒するんじゃあんまり意味がない気もするが。まあ、こんなことしていられるのも今の内だから。せいぜいがんばんなさい。
酒飲みながらカインやラッキーとセイ君批評するのはなかなか楽しい。

今回見た夢の内容を訊いたが、ジーさんは言葉を濁して答えなかった。どうも「見てはいけないモノ」を好奇心に負けて覗き見てしまったようだ。いたく反省している様子だが、各々の記憶を見るのだって同じじゃないのかな。それとも、見ないという選択肢を選ばなかった事に恥じ入っているのかな。でも、鷹族ってそういうものなんじゃないの? だって「神の目」なんでしょ。いろいろ見えちゃう事は全員知っているのだし、その上で一緒にいるんだからさ。
そう考えると、うちの連中は度量が広いね。
 

 

 

 

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文責:柳田久緒