□ 第十三回「集いし四組・後編」〜ヴァイオラの徒然日記 □

460年5/17
ロッツ君の案内でフォアジェさん宅を下見。寂れ具合がなかなか。留守宅とはいえ、使用人の活気がないのは落ちぶれている証拠。警戒はそれほど厳しくなさそうだから、うまくやれば繋ぎがとれるかも。ロッツ君に使用人の調査を頼んだ。
 
5/18〜20
珍しく平穏な日々が続いた。
 
5/21
ロッツ君から留守番一家の情報が入る。ミブルック夫婦と娘の三人。外に出ている時に、偶然を装って接触を図ってみようか。
 
5/22
明日はマスタリーをさぼって交流会。外で飲むには良い季節だ。
 
5/23
助っ人兄貴のパーティを呼んで、薬草畑で収穫がてら花見。セイ君はこのところジーさんと図書館通いをしていて不参加のため、花を愛でつつ心置きなく杯を重ねる。
最近ラッキーもカインも表情が明るい。良いことだ。
 
5/24
傲岸不遜エリオット到来。ジーさんに会いに来たらしい。礼儀作法と礼儀は別物であるという見本を見せつけられた。ダルヴァッシュが意外に馬鹿系だという事が判明。さすがはあの占い親父の子。最近の事件とも相俟って、ガラナークへの反感は募るばかりだが、酒と食事に罪はない。ありがたく貰っておく。
皆が部屋に引き上げた後で、残りの酒瓶をアルバンと空ける。ちょうど良い機会なので、いくつか情報をリークしておく。地道に手持ちのネタを流していれば、そのうち何か食い付いてくるだろう。
エリオットがジーさんにちょっかいを出している間、外へ追っ払われていたアナスターシャが戻ってきた。大変だなぁと思って挨拶したら、びっくりした顔をした。なんだ。ちゃんとそういう顔もするんだね。
 
5/25
夕方、院長から呼び出し状が来た。明日訪ねることにする。
 
5/26
ガキんちょが三人現れてラッキーを呼びに来た。サラさんの旦那が大変らしい。急いでトーラファンのところに行くと、ついさっき蘇生したばかりのラグナー氏がベッドに寝ていた。おお、さすがは院長。
生き返ったばかりなせいなのか、それが素なのか。心配していた身重の奥さんを前にして、開口一番、女性の名前を口にするのはねぇ。ちょっと何ですよ、旦那さん。しかも言い訳のように喋りまくるし。サラさんは何も言わなかったが、肩口が強張っているのが後ろからだとよく見えた。可哀相なので院長にご注進しておく。
どうもセイ君の言動は、この旦那から教えて貰ったものらしい。そんなもの真似してどうする。

別室で院長とトーラファンがこの前のお礼だといって、コネの代わりにいくつかのマジックアイテムをくれた。貰っておいてなんだが、在庫整理をしているとしか思えない物も含まれている。まあいい。これだけ買ったら結構するし、今の財政状態でそれは無理だから。
二人からのお志は以下の通り。

・スクロール×2(対魔術防護プロテクション・フロム・マジック呪文捕獲スペルキャッチング
・オイントメント×2(火傷回復スージング治癒ヒーリング
虫除け薬バグリペラントポーション×3

この品揃えに何となく不安を感じる。もうすぐ、これらを使わざるを得ない状況に立たされそうな気がしてならない。
 
5/27
ラッキーとジーさんを連れて仕立屋へ行く。たまにはちょっとした余所行きの服でも着せてやらねば。それで今度の休みの日に、皆で遊びに行くのはどうだろう。そうすれば、若人らに正しいデートの姿を教える事にもなるだろう――たぶん。
流行り物に詳しいガウアーに、良さそうな劇場こやを見繕ってもらう事にする。
 
5/28,29
平和が一番だ。
 
5/30
休みの日。皆を連れて大衆劇場へ。演目は悲劇のはずなのに、見当違いなところで笑ったり、怒ったりする者あり。やれやれ、ボックスで良かった。その後、近くのカーニヴァルで遊ぶ。やはりここは回転木馬に乗らないと。そう思ったが、どうも反応が普通と違うんだなー。狙った部分とは別のところで盛り上がっているのね。
いいよ、それでも。君らが楽しんでくれたのなら。

いつもとは違う小綺麗な店で夕食をとり、宿に戻ったところで興醒めした。扉の前にライニスの二人組。さすがにここで事を構えるのは考え物なのだけれど、周りからは「殺っちまおう」コール続出。いくらなんでもそりゃ無理よ。街の外なら考えないでもないけどね。しかもそれは最後の手段。なんでもかんでも先制攻撃すればいいってもんじゃないでしょう。
で、相手の言い分を聞いてみたのだが、一応騎士らしく果たし状を持って来たらしい。あきらかに格下の戦士相手にタイマン勝負を申し出るとは、まったく笑わせてくれる。ガラナーク人って、こんなのばっかりだな。面倒くさいので大司教の名の下にお帰り願った。最近猊下の名前が大安売りだ。時間稼ぎにしかならないけど、今のわたし達にとっては時間が一番の味方だから。
 
6/1
新月期につき、皆の表情は暗い。
 
6/2
夕食時、突然地面が揺れだした。一瞬、地震かとも思ったが、そういう揺れとも違う。何より、震源が五つある。街の中心に一つ、街を囲むように4つ。宿の中では状況が見えないので、二階の窓から外を窺う。思った通りの場所からいくつか煙が上がっていた。しかし肝心のものはさっぱりだった。
わたしは誰もいない事を確認し、スクロールを広げた。何が起こっているのか、上の連中なら知っているに違いない。書き込みを終えるやいなや、すぐさま返答があった。
『街の中心にアースクウェイクビートル、四方の門にパープルワームが出現』
そりゃまずい。荷物を持って避難した方がいいかもしれないが、一応何か手伝おうか? と訊いてみた。またもや素早い反応が返ってくる。
『中心部は騎士団が対応。四つの門は警備隊のみ。手が足りない。報酬は出すので退治に向かわれたし』
クダヒに増援を送った隙を突かれたか。まともに戦える人材が払底しているようだ。下にはそれなりに場数を踏んだ連中がいることだし、話をしてみようか。
虫が5匹襲ってきているよ、と話したら、トールんとこのテラルがギャーと叫んで真っ青になった。ふーん、地震虫ってそんなにやばいものなんだ。知らなかったな。とにかく皆でかかれば潰せるだろうという事で、うちとエリオット達が南門、トール達が東門を担当することになった。エリオットはジーさんにイイとこ見せたくてうずうずしているようだ。
現場につくと、右往左往する一般兵士共の向こうに、ぴょこぴょこ頭を覗かせた巨大イモ虫が砂埃をあげていた。うわー、でかい。そして醜い。長引かせると危険なので、いきなり全力でかかる。ラルキア弟の加速呪文のおかげもあって、割合あっさり始末がついた。わたしは物陰に引っ込んで、南門制圧の報告をしたためた。
『了解。東門善戦中。西門手薄につき急行願う』
よしよし。トール達はがんばっているようだ。わたしはこのまま西門が危なそうなので援護に向おうと提案した。兵士達の感謝の声に見送られながら、わたし達は西門へ向かった。まだ呪文の効果は続いているから速い速い。その勢いのまま、西門でのたうっていた虫をあっさり倒す。確認したところ、どうやら他の場所も片が付いたらしい。やれやれ、なんとか無事で良かったね。
今回は大司祭との愛の交換日記が大活躍だったなぁ。いや、ほんと。すぐに動けて給料いらない手足が、たった5000GPで手に入ったんだから実に良い買い物したよ、彼は。
それにしても、あれだけリアルタイムでぱかぱか情報垂れ流したのに、何故誰も不審に思わないのか。
 
6/3
昨日の片づけが続いているようだ。ご苦労様。
報奨金は1パーティにつき1500GPだった。それより、王宮にツテができた事の方が大きい。よしよし。下っ端騎士といえども、窓口があるとないとじゃ大違いだものね。
 
6/4
ハイブの姿を見たという噂が流れている。不安になったがゆえの流言飛語なのか、それとも騒動に紛れて新たなコアが運び込まれたのか。今のところはどちらとも言えない。なんにせよ、あれだけのモノを召喚したのだ。向こうも相当切羽詰まっているのだろう。
問題は、誰があれをやったのか、なんだけど……。
一応上にもその辺りの情報をもらっておく方がいいだろう。

(S)ハイブ情報と上層部の意向伺い

助っ人兄貴にユートピア教の話をリーク。騎士階級なんだし、ここらで流しておけばそのうちどっかに出回るだろう。まあ、情報交換する時のための布石って事で。
 
6/5
ロッツ君からギルド情報。やはりハイブコアがあるらしい。しかも4つ。門のところにある虫共の出てきた穴が、ハイブコアへ通じているんじゃないかというのだ。前回の討伐で討ち洩らしたコアとは思えない。それならもっと被害が出ているはずだから。しかしいきなり4つもコアを設置するなんて、ちょっと無理があるよね。どうやったんだろ。
大司祭から連絡。王宮から明日辺り、コア討伐依頼の打診がある模様。一人10000GPの予定。
どうするかねぇ。ここでセロ村の予行練習するのも手だけど。今回はちとヤバそうな感じではあるんだな。なにしろ絶対的に戦力が足りない。
 
6/6
今日でマスタリーは終了。予告通り、王宮から使者が来た。話を聞いておくだけ聞いておこうと、馬車に乗って城へ。で、集まったのは虫退治をした連中のみ。バーナード達はマスタリーが終わっていないという名目で断りを入れたらしい。

……いや、まだ確定できないな。

末っ子王子が現れて言うには、4つのコアは中で繋がった一つのコアだったらしい。要するに入り口が4つなのね。で、中から虫が出てこれないように、4方向から攻めるというのが大まかな計画らしい。
――馬鹿じゃなかろうか。
冒険者に頼らざるを得ないほど戦力不足なのに、更に手勢を分けて各個撃破されにいくなんざ、大ボケもいいところ。どうせ連中からすれば、騎士団が戻るまでの時間稼ぎ程度に思っているのだろう。どう見ても捨て駒だし。
だから、受けなくても良いんだけど。でも。これは一つのチャンスでもある。
セロ村のコアを潰すには、どうしても経験が足りない。そうそうコアなんか転がっていないのだもの、場数の踏みようがない。だから、連中がダンジョンの中でどう動くか、その行動パターンや思考方法を見るには絶好の機会なのだ。

そんなわけで、話を受けてやる事にする。他の皆も一緒にやる事になった。そうと決まればやる事はひとつ。如何にパーティを増強するか。どうせやるなら、国から貰えるだけのもんは貰っとかなきゃね。が、どうもその辺りの交渉をする奴が誰もいない。そんなんじゃ死ぬよ。なので、末席にもかかわらずガンガン要求をかける。
まずは成功報酬10000GPを前金5000、後金10000に。これである程度物資を揃えられる。それと、余っている(というか出せるだけ出せ)マジックアイテム類の貸与。武器防具も必要だが、できれば火系魔法の類や虫除け薬、治癒系魔法、そして何より重要なパーティ間の連絡手段。
これらを所望したところ――フィルシム王国はしみったれているのか貧乏なのか――大してめぼしいものは出てこなかった。
これならスルフト村の方がよっぽど気前良かったな。

アイテムを4パーティで分配し、トーラファンのところに駆け込む。後進を育てる為なのか、狸親父は太っ腹。後払いの金込みでアイテムを売ってくれた。在庫に制限があるものの、現在買える最良の装備を調え、明日はいよいよ突入。
 
6/7
早朝、穴の入り口に立つ。鏡を嵌め込まれた穴は少し窮屈な縦長。ここに入ったら後戻りはできそうにない。周りの兵士達は幾分青ざめた表情で、いろいろと説明してくれたが、それがいかにも死地に向かう者を見送る雰囲気なのがねぇ。
まあ、為るようになるでしょう――望む方向に向かってね。少なくとも、わたしはそうするつもり。

 

 

 

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文責:柳田久緒