□ 第九回 「無くした望み」〜ヴァイオラの徒然日記 □

460年4/11
ヘルモーク氏に頼んでおいたダンジョン物件に、そこそこ良さそうなものがあったらしい。少なくとも今までに荒らされた事がない(と思われる)ので、実入りはあるだろうとの事。ただし、ゴーストが入り口を守っている。
いろいろ検討した結果、行ってみて損はないだろうという事になった。ヘルモーク氏に案内を頼み、満月期を過ぎた17日に出発する契約を結ぶ。帰ってきたばかりだし、骨休めには丁度良い。
 
4/12
細かい買い物をした後、だらだらと平和を享受する。
ついでに、以前からやろうと思っていた調査を実行。村長宅の鼠はあまり役に立たなかったが、協力に感謝しチーズのかけらをばらまく。
 
4/13
春の日差しが心地良い。天気に誘われて、ラッキーとジーさんが薬草採りがてらゴロツキーズとピクニックへ行くらしい。以前話し合った件を実行しているようだ。今回はフルメンバーだし、もうすぐ連中の初仕事があるはずなので、ダメ押しにわたしも同行する。
運良く群生地を見つけたおかげで、役立たずが何人かいたものの、かなりの収穫だった。
「ちゃんと働けばこうして得るものがある。働くってスバラシイ〜」と、かなりフカしてみたら、見るからにサギ師な男が引っ掛かった。
まずは一人ゲット。
乱暴者風はそっぽ向いていたから、この手は効かなそう。そのうち力仕事をあてがって反応を見るとしよう。
ラッキー特製ピクニック弁当は美味しかった。
ちなみにBB反応はなかった。
 
4/14
ベアード・ギルシェと懇談。サギ師のアフターフォローを頼む。なぜか礼を言われた。
女神亭でもBB反応なし。
 
4/15
今日は裏の木の上で昼寝。なかなかいい枝振りだった。
調査対象者は全部シロだった。良かった良かった。
 
4/16
ジーさんが自分の夢見を制御しようとがんばってみるらしい。月の出と同時に礼拝堂でカウリーと同席すれば、奴の過去を視られるのじゃないかと言う。倫理的にはどうかという意見もあるが、危険対象を調査するのは生き残る上で重要な事。わたしは快くジーさんの付き添いを承諾し、ラッキーと共に礼拝堂に向かった。
結果的に制御は失敗だった。どうも取捨選択される基準があるらしい。今回は同席者とは全く関係ない夢だった。難しい。
さらに、ジーさん自身が大変危うい位置に立っている事もわかった。つがいのリミットっていつ頃なんだろう。
んー、例の泡の人相手がセイ君じゃなかった場合、どうなるのかな。同じだとしても、やっぱり種族の差は越えがたいものなのか。せっかくああして仲良くなれても、そんな事で引き離されるのはなんだか嫌だなぁ。だって、自分たちの意志以外の部分で「どうしようもない」なんて、癪に触る。わたしがその立場に立ったら、絶対に承服できないもの。
なんか良い方法ないかな……

ボーヤはこの頃、坊ちゃんの記憶を思い出しているらしい。あれはただの人間なはずなのに。やはり双子は普通人とは違うものなのか。
どうやら「神託」を視る日も近いようだ。
 
4/17
ヘルモーク氏と共に貧乏解消を目指して出発。食料を少し余分に持っていくので荷物が嵩張る。そろそろホールディングバックが欲しいなぁ。
 
4/18,19
何事もなく進む。ツェーレンいつもありがとう。
 
4/20
目的地に着く。半ば埋もれた入り口に近づくと、噂のゴーストが現れて頼み事をしてきた。自分の心残りが何なのか見つけて欲しいのだという。なんだかさっぱりだが、とにかく、この工房の奥にあるだろう主の部屋で遺体を発見するのが第一目的。まずは中を隈無く探索する事に。ヘルモーク氏が帰ろうとしたので、数日の間近くで待っていてもらうよう頼んだ。5gp/日だけれど、まあいいでしょう。
この研究所は地盤沈下で埋もれたのか――もしくは埋まっていたものが現れたのか――、床が斜めになっている。家具の類も全て片側に寄ってしまって、めぼしい物は無いようだった。それでもジーさんやボーヤは、せっせと何かしら回収していたが。
魔力がないからだと思うが、扉は岩のように重かった。きっと当時は何もしなくても簡単に開いたのに違いない。書庫でしばらく稀覯本を漁った後、奥の通路に隠し扉を発見。どう見ても罠だろうという長い通路の奥には火を吐く竜のレリーフ。どうしようもないので明日に備えて応接室で休む。
思ったんだけれど、ここってちびを連れてこない方が良かった気がする。
 
4/21
たぶん次の日。ラッキーと二人で耐火呪文を用意して隠し扉の奥へ。ちびのヘイストがあったから、怪我もなく竜の口へ飛び込む。スロープを滑り落ちると、足元がガラスになっている部屋に。奥の通路からドッペルゲンガーが現れた――ドッペルゲンガー? なんだかいつもと感じが違う。なにか変だ。
下を見ると、足元になぜだか全く同じ光景が繰り広げられている。鏡ではない。まるで上からわたし達を覗き込んでいるかのよう。よく考える間もなく戦闘に突入した。
皆もおかしいと感じているのか、どうも殺る気がないらしい。そこかしこでお茶を濁す光景が見られた。念のために探知系をかけたが、魔力は全体に広がり――という事は、ここは普通の空間ではない――、敵対意志があるのはわたしの分身だけという結果だった。うーん、やっぱり変。本当にドッペル君なら有無を言わさず攻撃してくるはずだ。ジーさんもその辺が気になっていたらしく、変だ変だと連呼している。
なんとなく止めようか〜という雰囲気になって手を止めた途端、なんだか暗くなってきて……
 

 

 

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文責:柳田久緒