タイトル■特集:∀〜新しい夜明ケ〜
書き手 ■谷田俊太郎

1999年春から2000年にかけての約1年間、
「∀ガンダム」というアニメーション作品が
ひっそりと放送された。それは「まったくガ
ンダムらしくない、まったく新しいガンダム」
だった。我々はかつてない感動を味わった。

そして今年2002年、待望の映画化!2月9日
から劇場版∀ガンダム「地球光」「月光蝶」と
いう2本の映画が同時公開される。

だが一般的にはあまり知られていないこの作品。
正直、観客動員が非常に心配…。ということも
あり、我々は勝手に立ち上がったのだった!
「一人でもいい!この機会に多くの人に見てほ
しい!」そんな願いを込めて。

ちなみに「∀」は「ターンエー」と読みます。

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■ 緊急速報:富野監督に会えた!

<04> ∀は伝わる!


「∀ガンダム」の富野由悠季監督にお会いできました!
さっそくその感動をみなさんにお伝えしたいと思います。

雑誌の仕事としての取材なので、
あまり詳しいことは書けないのですが、
せめて感想だけでも書かせてもらおうかと。

ではさっそく。


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早起きし、オーガガを更新し終えると
僕は一路、監督の待つ「サンライズ」」へ出発。

「サンライズ」はガンダムを作っている会社で、
西武新宿線の「上井草」という駅のすぐそばにあります。
うちからだと約1時間半かかりました。

駅を降りると、雲ひとつない、澄んだ冬の青空。
ああ、この街から「ビシニティ」も「ムーンレィス」も
生まれたんだなぁ…とか
ついつい感傷的な気分に浸りながら、
取材時間まで、街をぶらぶら歩いてみました。

静かな商店街の一角に「サンライズ」のオフィスはありました。

向いには青果店があり
「いらっしゃっしゃしゃい!いらっしゃっしゃしゃい!」
とおじさんが元気に声を張り上げています。

取材時間になり、中に案内してもらうと
スタジオの一番奧にある日当たりのいい場所が
富野監督のデスクでした。

監督は、何やら作業中。
1秒でも惜しむような緊迫感を漂わせて、
真剣な表情で何かを書いています。
どうやら新作に取り組んでいる様子。

∀の映画の準備がやっと終わったばかりなのだろうに
もう次の作品に取り組んでいるとは驚きです。

「どんな作品なんだ?」と思わず覗き見。
でもそれについてはまだ書けません。

ともかく、新作がまた見られることが
わかっただけでも、心は踊ります。

窓には水泳パンツが干してありました。

「それ、僕のですよ。
 針の代わりに泳いでるんです。
 この年になると、そういうことしないと
 もう体が動かないんですよ」

監督は笑顔でそう話しかけてきてくれました。
でも、60才とは思えないくらい若々しい。
オレンジ色のシャツを着て、オシャレだし。

きちんとお会いするのは初めてなんだけど、
小学5年生から、ずっと僕の心の中では
主人公の一人のような方なので、
なんだか初めて会った気がしません。

監督の仕事が一段落したところで
インタビューは始まりました。

監督がアニメの世界に入ることになった理由。
ガンダムが大ブームになり、そこで得たもの、
逆に長い時間、鬱屈感を味わうことになった経緯。
約10年間におよぶ低迷してしまった時期について。
「自殺も考えたが、怖くできなかった」という話。
病んでいる人々、社会への怒り。

「でも、だからこそ∀に辿りつけたんです」

「人間は簡単には死ねない。だからこそ、
 自分の死の瞬間を想定して生きていかなければいけない。
 そうすれば、自分が何をしなくちゃいけないかが見えてくる」

「病人が病人を増殖させるようなものは
 作っちゃいけない。今はそういうものが多すぎる」

「それらを作っている、病んだ中堅層のインテリは問題だ。
 絶対に認めることはできない。
 彼らが愚民と思っているほど普通の人々はバカではない」

「今はシステム主体になりすぎていて、
 個人を貶めるような世の中になっている。
 システムと個人の関係性をお互いいいかんじに
 維持できる、企業論と個人論を
 若い世代のみなさんには考えていってほしい」

「個とは、一人のことではない」

笑顔で、時に怒りの感情を浮かべながら、
熱く語ってくれる監督。

ちなみに「マールボロ」を吸っていました。
うすいコーヒーしか飲めないとも言ってました。

監督の視野はあまりに広く、深い。
僕レベルでは正しく理解することが
正直、難しい話もありました。

しかし、監督の伝えたいことは、
実は「∀」の物語の中にすべて含まれていた。
話を聞いているうちに、そう気がつきました。

しかもそれは、とてもわかりやすく
「物語」という形で表現されていた!

生きていくとは、どういうことなのか?
病んでない「普通」とはどんな状態なのか?
「人」と「道具」はどう共生していくべきなのか?
「人」と「組織」はどんな関係であるべきか?
なぜ戦争は起きるのか?
死んでいく瞬間が怖くない生き方とは?

こう書くと、なにやら難しい話に
思われるかもしれませんが
全然そんなことありません。

これらは僕達が生活していく上で、
考えなくちゃいけない普通のことばかり。

自分の生き方についても
改めて考えさせられました。

「俺は病んでないか?
 病人を増殖させるようなものを作ってないか?
 死んでいく瞬間が怖くない生き方なのか?」

「∀」は普通の人々の生活に必要な
本来の普通のこととは何か?を
改めて問い掛けてくれる物語なのです。

そして「∀」について、
「ガンダム」という名前が弊害になって、
多くの人達に伝わりにくくなっているのではないでしょうか?
という僕の不安に対して監督はこう言ってくれました。

「テレビシリーズのオンエアが終わった後に
 スタッフがこんなことを言ってたんです。
 “∀の欠点はガンダムという名前だったことですね”
 それがわかってもらえたことが、とても嬉しかったんです」

「でも心配しないでください。
 ∀は、10年後には絶対にみなさんに
 わかってもらえると思います。
 時間はかかるかもしれないけれど、
 ガンダムもそうでしたから。

 ガンダムは最初、誰も評価してくれなかった。
 まさか20年も続くものになるなんて考えた人はいません。
 でも、小学生や中学生の女の子だけがわかってくれてたんです。
 だから、∀も大丈夫!」

そうだ、忘れていた。
監督は常に10年は先のことを考えて、
ものを作っている人だったんだ!

「∀」はきっと伝わる!

なぜなら僕らの生活に必要な物語だから。

そしてこんな嬉しい言葉も聞かせてもらいました。

「『地獄の黙示録』を見て、
 よかったー!と思いました。
 ∀は全然負けてない!
 『2001年』だって越えてます」

「インテリは、ロボット物でなにを
 おバカなことを言ってるんだ、と
 言うでしょうけど、僕は本気です」

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取材が終わった後、同行したカメラマンや編集者は
こんなことを言っていました。
「神様みたいな人なんだねぇ」
「俺もガンダム見たくなったよ」

実は僕にとって、それが一番嬉しい出来事でした。


本日は快晴なり。         
                

                 2002年1月23日





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