平成25年~27年・湯たんぽのごとく パーマかけララララララと一回りパソコンの君が横目でチラリ 吾もまたインフルエンザで床に臥す君の看病湯たんぽのごとく 窓ガラス風が吹くたび震えてる自然で良しと君は云うなり 冷え込みに肩をまるめて歩く君きびしいことを多く背負う 陽のあたる川沿いの道を君と行く梅が咲いてるああ如月尽 梅が咲き桜のつぼみがふくらむと花粉症の夫(つま)書斎にくらす おだやかな光と空気のごちそうにディナー気分の二人の朝餉 えさやりを忘れて君は出勤す十時の金魚はゆうゆう泳ぐ 結婚の四十回目の記念日を淡々と食む肉じゃが煮魚 「あら帰ってきたの」でなく「待ってたわ」そういうふうに口紅を描く 休業日知らずに君はペット屋へ金魚だって休みがほしいさ 金魚見る君のまなざし吾に向けよ新しい服着てるのになあ 広辞苑一版と五版を比べつつ時の流れを思う君なり 酒好む君との距離をちぢめたくたまに付き合うボルドーの赤 映画にと誘ってみたが「そのうちテレビでやるよ」と君の冷笑 家庭科の評価は3のわたくしがボタンを付ける5の夫のシャツ 樹々のこと説明は聞いていないけど君の笑顔で生きもの生きる 白金台の自然教育園にて メガネかけ虫メガネ手に葉っぱ見る君はそう森林インストラクター 腰痛の君の歩きはアシモ君 二月前の我のまねして… 暑がりの我に向け置く扇風機 夫は好まぬ機械のそよぎ ビール飲みタバスコ色のピザつまむ口内炎の夫の食欲 これ以上ないほど甘い到来の西瓜に酔ってビール止む君 大水に登山あきらめ君帰る無理はするなの我の呪文に 朝ドラの「マッサン」見てからウィスキーを三年ぶりに飲む夫である 珈琲を上手にいれる夫がおり夜の八時にくつろいでいる しまわれたストーブ出して火をつける寒がりの夫自主性はある 古着着て忘年会へ急ぐ君 酔えばわからぬズボンのたるみ 病にて臥せるわが手にすり林檎くれる夫の手甘く匂へり 平成28年~30年・ほら鰯雲だよ 青白い小望月にみちびかれ氏神様へ肩ならべ行く 元旦に遺影の母をちらと見て夫はいつもの浦霞を呑む 夜の九時ミルクティーいれる夫がおり短歌のノートひらく我がおり 通勤の電車は停まり夫帰る東京に降る五センチの雪 君はまた村上春樹を読んでいる青菜をゆでる我に気づかず 母なくし半年を経た今なのだと溢れるかなしみを夫は吐く 「ふるさとの浜辺公園」人工の大森の浜に海苔の香のして 故郷を夫と散歩 寒がりで出不精の夫 朝寒に灯油屋へ行く積極的に 白梅とめじろを写す夫を見て五人が寄り来る湯島天神 ペンチ手に機器の基盤を分解す 夫の眼徐々に少年となる プランターのほどよく赤いいちごもぎ風邪がなおらぬ夫に手渡す 霧雨に夫と二人で墓参り父の命日よく雨が降る 腹痛のわれの横にてユーチューブの「きみまろ」に笑う夫たるものが 元の顔 思い出せぬと夫は言うアレルギーにまだらのわれを 腫れ引かぬわがアレルギーに夫は今朝インターネットの検索始む さみどりのもみじをそっときりそろえ一輪挿しに夫は飾りぬ 六四で今のところは夫に勝つ 人の名速く思い出すゲーム 西部劇の酒場のシーンに「うまそう」と夫は昼からウィスキーを呑む 貝殻をつぶし固めた大森のなつかしき路地を夫と歩めり すべ知らず六十六年越すわれら盆のしつらい葬儀屋にきく 半日を夫と廻りて自然園 蝉のぬけがら三つを拾う 白金台の自然教育園にて ためらいを見せつつ夫は二杯目のビールを注文す昼のレストラン 弁当を作れど夫は出勤せず 見落としたカレンダーの×印 猛暑日を汗にまみれて帰り着けば扇風機のみの夫が生きてた ねんごろに墓石洗う夫の手は母の背を流すごとくうるわし テレビにて世界中の猫と会い十五分つづく夫のほほえみ 夫が作るベーコンエッグの塩胡椒ちょっときついがだまって食べる 水を張りボウルにできた氷割るウィスキーに似合う山のかたちに 二年前の賞味期限のネパールビールうまいと飲む夫舌が酔ってる 形よいワイングラスを手にとるが値札に驚きそっともどす夫 昼食は週に一度の「藪蕎麦」へ君と行く ほら鰯雲だよ 「おぉ!」と言い夫はカメラを取りに行く十三夜の月に目は感嘆符 万歩計13000の一日(ひとひ)なり「オレは十五歩」と夫が笑う 夕食のメニューに迷う駅ビルで夫の好物ピータンに出会う 無料にて眼鏡を洗う店先のキカイの名前何というの → 店員に声をかけられドギマギす超音波のメガネ洗浄機(Tamu) 十五夜の月をめでつつ深酒の夫とならびて歩く極月 「眠れないの?」に「うん」と云って寝返りす午前三時の君のやさしさ |