佐知子の歌日記・第五集
佐知子の短歌集6〜私達夫婦の日常〜
湯たんぽのごとく
パーマかけララララララと一回り パソコンの君が横目でチラリ

吾もまたインフルエンザで床に臥す 君の看病湯たんぽのごとく

窓ガラス風が吹くたび震えてる 自然で良しと君は云うなり

おだやかな光と空気のごちそうにディナー気分の二人の朝餉

山の名を互いに忘れ二分後に ニヤリと君は「斜里岳・・・」と言う

えさやりを忘れて君は出勤す 十時の金魚はゆうゆう泳ぐ

陽のあたる川沿いの道を君と行く 梅が咲いてるああ如月尽

結婚の四十回目の記念日を淡々と食む肉じゃが煮魚

「あら帰ってきたの」でなく「待ってたわ」そういうふうに口紅を描く

休業日知らずに君はペット屋へ 金魚だって休みがほしいさ

金魚見る君のまなざし吾に向けよ 新しい服着てるのになあ

広辞苑一版と五版を比べつつ 時の流れを思う君なり

酒好む君との距離をちぢめたく たまに付き合うボルドーの赤

映画にと誘ってみたが「そのうちテレビでやるよ」と君の冷笑

雨止まず 登山中止の午前九時 濃いコーヒーを君と味わう

樹々のこと説明は聞いていないけど 君の笑顔で生きもの生きる
 
白金台の自然教育園にて

「眠れないの?」に「うん」と云って寝返りす 午前三時の君のやさしさ

冷え込みに肩をまるめて歩く君 きびしいことを多く背負う

腰痛の君の歩きはアシモ君 二月前の我のまねして…

古着着て忘年会へ急ぐ君 酔えばわからぬズボンのたるみ

病にて臥せるわが手にすり林檎 くれる夫の手甘く匂へり

暑がりの我に向け置く扇風機 夫は好まぬ機械のそよぎ

ビール飲みタバスコ色のピザつまむ 口内炎の夫の食欲

これ以上ないほど甘い到来の 西瓜に酔ってビール止む君

朝ドラの「マッサン」見てからウィスキーを三年ぶりに飲む夫である

しまわれたストーブ出して火をつける 寒がりの夫自主性はある

珈琲を上手にいれる夫がおり 夜の八時にくつろいでいる

大水に登山あきらめ君帰る 無理はするなの我の呪文に

梅が咲き桜のつぼみがふくらむと 花粉症の夫書斎にくらす

元旦に遺影の母をちらと見て 夫はいつもの浦霞を呑む

通勤の電車は停まり夫帰る 東京に降る五センチの雪

君はまた村上春樹を読んでいる 青菜をゆでる我に気づかず

母なくし半年を経た今なのだと溢れるかなしみを夫は吐く

寒がりで出不精の夫 朝寒に灯油屋へ行く積極的に

 
近くの公園を夫婦で散歩
軒ごとに下見のごとく飛びかいて巣作りはじまるつがいのツバメ
「ふるさとの浜辺公園」人工の大森の浜に海苔の香のして
ごほうびに夫にはビールとカキフライ われはパフェ食う一万二千歩

 
国立科学博物館附属自然教育園へ夫婦で散歩
今年から「山の日」のある八月に夫と行く自然教育園
半日を夫と廻りて自然園 蝉のぬけがら三つを拾う

すべ知らず六十六年越すわれら 盆のしつらい葬儀屋にきく

家庭科の評価は「3」のわたくしがボタンを付ける「5」の夫のシャツ

ペンチ手に機器の基盤を分解する夫の眼徐々に少年となる

腹痛のわれの横にてユーチューブの「きみまろ」に笑う夫たるものが

霧雨を夫と二人で墓参り 父の命日よく雨が降る

さみどりのもみじをそっときりそろえ一輪挿しに夫は飾りぬ

タヌキだと言うがライオンと本音を言ってしまった夫のクラフト

元の顔思い出せぬと夫は言う アレルギーにまだらのわれを

プランターの真っ赤ないちご一粒を もいで寝起きの夫にさしだす

腫れ引かぬわがアレルギーに夫は今朝インターネットの検索始む

六四で今のところは夫に勝つ 人の名速く思い出すゲーム

西部劇の酒場のシーンに「うまそう」と夫は昼からウィスキーを呑む

貝殻をつぶし固めた大森のなつかしき路地を夫と歩めり

手・足・背にあまたのすり傷こしらえて夫が帰宅す女峰山より

ためらいを見せつつ夫は二杯目のビールを注文す 昼のレストラン

弁当を作れど夫は出勤せず見落としたカレンダーの×印

テレビにて世界中の猫と会い15分つづく夫のほほえみ

 夫婦で新宿御苑を散歩
葉の裏に蝉のぬけがら二つ付き 夫と手に取る新宿御苑
観光の外国人がいる御苑 スズカケ並木に蝉鳴きしきる
アスファルトの硬さに痛い足裏は やさしくなじむ土の道を恋う
「ライオン」のビールは旨いと大ジョッキ二杯飲み干すわが夫である

夫が作るベーコンエッグの塩胡椒 ちょっときついがだまって食べる

水を張りボウルにできた氷割る ウィスキーに似合う山のかたちに

二年前の賞味期限のネパールビール うまいと飲む夫舌が酔ってる

形よいワイングラスを手にとるが値札に驚きそっともどす夫

昼食は週に一度の「藪蕎麦」へ君と行く ほら鰯雲だよ

冷える昼ストーブを出す火をつける寒がりの夫作業すばやし

無料にて眼鏡を洗う店先のキカイの名前何というの
→ 店員に声をかけられドギマギす 超音波のメガネ洗浄機(Tamu)

「おぉ!」と言い 夫はカメラを取りに行く 十三夜の月に目は感嘆符

万歩計13000の一日
(ひとひ)なり 「オレは15歩」と夫が笑う

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青白い小望月にみちびかれ氏神様へ肩ならべ行く

夜の九時ミルクティーいれる夫がおり短歌のノートひらく我がおり

九度九分のインフルエンザの熱の夫 頬骨目立ち色白となる

 
「谷根千(谷中・根津・千駄木)」から神保町を散歩
丸型の風呂屋にありし籐のかご 谷中ぎんざの雑貨屋にあり
見いつけたオオイヌノフグリ・ホトケノザ 池のほとりを君と歩けば
白梅とめじろを写す夫を見て五人が寄り来る湯島天神
捜すのは本屋ではなくビアホール 神保町の「ランチョン」見っけ

猛暑日を汗にまみれて帰り着けば 扇風機のみの夫が生きてた

ねんごろに墓石洗う夫の手は母の背ながすごとくうるわし

右足がつってブレーキ踏めないと長い七分夫との首都高

夕食のメニューに迷う駅ビルで夫の好物ピータンに出会う

プレゼントの高級ワインを手にとるが飲まずにねむる風邪の夫なり

プランターのほどよく赤いいちごもぎ風邪がなおらぬ夫に手渡す

十五夜の月をめでつつ深酒の夫とならびて歩く極月

平成25年から30年にかけての、夫との日常を詠んだ短歌を編集しました。

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