

| 春・花粉を運ぶすきま風 ここ三年まかずにおりし節分の豆の味を十代の孫は言う 桁違いではあるけれど升に盛る節分の豆七粒を食う 公園の白梅すでに八分咲き 見上げるわれを追い越す若人 呑川(のみがわ)に親子の鴨が泳いでる浄水器などつけてやりたし 合格にケーキや苺を揃えおり笑顔の孫まつ弥生の夕べ たくさんのカメラや人に囲まれて東京の桜咲き始めたり 名を呼ばれ声変わりたる十二歳まっすぐに言う卒業のことば さくら散り寒の戻りの外出にしまい忘れた手袋をする 菓子袋カサカサ開けるを聞きつけて五匹の猫が寄るベンチ脇 樟脳の匂い消すべく窓を開け十年ぶりに雛様飾る 部屋内に花粉を運ぶすきま風 夫の目徐々に三日月となる 菜の花は土手をおおいて渡良瀬の県境などはかまわずに咲く 日曜日は春の日和のあたたかさ 縁側もなく猫もいないが 歌浮べどメモを忘れて朝になる思い出せない 夢であったか・・・ ハンドルが右に左に流されて自転車軽し春風強し 釣りものの鰺をたたきに大きめの徳利さがす夕餉の夫よ そよ風に吊す黒傘白くなる小手毬の花散り広がりて 擬宝珠(ギボウシ)のうす紫の花満ちて この世の隅に生き抜いており 孫たちの合格祝う 鰻重は胸とお腹をいっぱいにする 配達は来週までと灯油屋の声も春めく彼岸三日目 満開の桜を見上げ雨空に「たら・れば・もしも」の呪文をかける あたたかな日差しをもらい主のごと姫蔓蕎麦は路地に華やぐ 春の陽が部屋に射し入りて わたくしは脱皮するごと背伸びしてみる 長ズボンまくし上げたる少年ら 池の蛙をつかみ見せ合う この街を一万二千歩疲れるね 人かき分けてタウンシューズで エアコンが無用となりたる四月尽 野の花のごと風にまかせん
公園の藤波に飛ぶクマンバチ 春と夏とを行ったり来たり 地境の伸びたもみじの枝をきる 鋏の音がひびく夕暮れ 世にあるは難しからん公園の電話ボックス やっぱり消えた 釣り物の白鱚いただき白砂と寄せる波音想いておりぬ 南高梅三十四キロ漬け終えて甘い香に酔う腰をなでつつ 雲多く明日干そうと樽みれば梅の香ほのかに日差し待ちおり トム・ハック・アンと名付けて金魚飼う 心棒なりし物語より 我の背の倍も伸びたる雑草は風にまかせて空き地に揺らぐ エアコンが壊れてしまった八月のここは東京アルプスじゃない 草むらよりぬるりと出でて半身は青くきらめく蜥蜴の尻尾 歌詠めず菊に水やりしておれば ひょいひょいぴょいとバッタ現る 白い身に頭は赤いベレー帽 小さき金魚我が家に来たり 呑川(のみがわ)を静かに照らす居待月 やわらかな黄を夫と眺める 今日もまた気温体温三十六度 冬眠のごとエアコン部屋へ あじさいの青の一輪瓶にさす茶色の壁をキャンバスにして 小庭には咲く花のなく南天や蔦葉を切りて仏壇に供う 迎え火がわかるだろか亡き人よ無言で呼びかけ祈りておりぬ 緑道のおちこちに鳴く蝉の声 歩みつつ聴く逝く夏の歌 人はいさ柿の葉萌黄に染まりゆきもみじの緑ひごと深まり
ひと気なき公園の中いちめんに 狗尾草(エノコログサ)が風と戯る 街灯あり家からもれる光ありそれでも煌めく上弦の月 雨多く鍋の木葢がカビてくる今年の十月神様が泣く お彼岸に墓の掃除をしておれば住職様より栗をいただく ネコジャラシ五本を活けた食卓に朝の光が近づいて来る ニュース見て東の空に確かめるほんに中秋の名月である 感性の鈍きを刺激するためか金木犀は強く香りぬ おいしいと無口な孫の小さき声 カボチャスープをおかわりしつつ ラーメンと焼きソバの袋を取り違え 焼きソバ風のラーメンを食う グラウンドゴルフ 生まれたる曽孫うれしと友打てば一直線のホールインワン 金色の銀杏並木を歩きたり 「・・・ちひさき鳥のかたち・・・」捜しつつ 「朔日」のひびき晴れやか新品の鉛筆三本使い始める 赤や黄のもみじをいっそう際立たせ 空よあなたは今日もブルーか 朝六時徹夜の夫が笑ってるワールドカップ スペインに勝った 汗染みの残るTシャツどうしやう夏は終わりぬ十月七日 ボージョレの味わからねど我が作る烏賊の塩辛うまいと皆言う まだ高い苺と林檎を手渡せば風邪の孫の目にっこりまるい おとといはTシャツの息子寒いと言う腕をさすりいる十月九日 小雨降る静かな秋のアスファルト 踏み跡残さず潤みておりぬ 手伝いの証をまとう夫である 祭半纏ビールの匂い 室温の二十七度に涼しいと感じてしまう九月四日よ
揚げたての牡蠣フライ六個食べしのち この胸やけを楽しんでおり スマホには迷惑メールに挟まれて 孫から届くハッピーバースデー かすれてるパットブーンの歌声を カセットテープで聞く十二月 レコードやカセットテープがわからない十四歳に実物を見す 一年に一度のテープ聴く夕べ パットブーンのクリスマスソング 息子からのワインにこりと飲みほして娘からのセーター着る夫 聖誕祭 静かに食す晩御飯 インフルエンザの息子と夫と きのうからお節作りを始めるが手際は悪いし腰は痛いし 五枚目の障子張り終え腰痛み残り一枚夫が手伝う 夫作る今日の夕食即席麺ねぎとわかめが大きくたっぷり 一日中キッチンまわりを掃除して夕べは湿布す年の暮れかな たまちゃんの伝い歩きは三周目 十八の目にほほえみ誘い 「津波くる!」必死で叫ぶアナウンサー われも震える能登はどうなる 箱根路へ向かう若者来るまでを見知らぬ人と駅伝談議 おだやかな日差しあふれる床の間に赤子をかこみ新年寿ぐ さくら草小さき鉢ごと盗まれてこの冬空を如何に見上げん 暖冬にもみじの新芽出できたり米粒ほどの緑やわらか 燗か冷やか にんまり悩む宵の夫いただきものの旨酒ゆえに 北風にあおられ落ちた白きシャツ 物干し場にてバンザイポーズす 本門寺へ小雪降るなか初参り何とはなしに賽銭はずむ 富士山と月見草は似合うけど菜の花も良し小寒の空に 呑川(のみがわ)を埋めて泳ぐボラの群れ 小鴨の気配に弧を描きたり ネコジャラシ散歩帰りに摘んできて一輪挿しに飾る夫よ あの白は梅かもしれぬ 公園に入れば甘く匂う白加賀 みぞれ降る夜に娘と孫は来て ほっほほっほとおでんをつつく さくら草ちらりほらりと咲き始め プランターから私を覗く 人の世をのぞくがごとく背伸びして さくら草咲く朝の陽のなか 娘・孫と二代が着たる振袖を贈ってくれし父母を偲びぬ ゆうべ降った五センチの雪すでに消え ぴっちゃぴっちゃとゴミ出しに行く 大相撲じっくりテレビを観るために朝から仕込む激辛カレー 大鍋に残るおでんは三品のみ 六人の腹膨れておりぬ 風邪ひきの第一号は息子なり栄養・休養満点なのに |