No.110 劔岳(剣岳)2998m 平成12年(2000年)8月6日〜7日 |
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【歩行時間: 第1日=30分 第2日=6時間10分 第3日=5時間20分 第4日=3時間15分】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ *** 前項・立山三山 からの続きです *** 8月6日(第3日目): 未明、まだ星空の中、早立ちのパーティーが剣岳へ向かうのを見送った。剣御前小屋や剣沢小屋泊りの早立ちのパーティーも、私達夫婦が泊まっている剣山荘の前を次々と通過していく。懐中電灯の光が幻想的な行列となって、一服剣のピークへ向かっているのがよく見える。この人たちのほとんどは今日中に剣岳を往復して室堂へ下山するのだろう。暫らくすると、うっすらと夜が明けてきた。山荘裏手の広場から眺めた五竜岳と鹿島槍の空に広がる朝焼けが、とてもきれいだ。私達は今日も剣沢泊りなので、コンロでコーヒーを沸かしたり、山荘の朝食を済ませたりして、ゆっくりと出発だ。それでも時計を見たら、まだ午前5時10分だった。 サブザックを持参したのが大正解。(40リットルザックは山荘に預けてきた。) 荷物が軽いのはなによりだ。コバイケイソウやクルマユリなどの咲く比較的穏やかな斜面を登りつめると、もう一服剣のピークだ。眼前の前剣(まえつるぎ)が大きく立ちはだかっている。武蔵(たけぞう)谷のコルを越し、険しくなってきた岩礫を登りきると前剣のピークに辿り着いた。午前6時35分、まずは中休止。 平蔵のコルからいよいよ別山尾根コースの最難関といわれる鎖場、カニのタテバイ(登り専用)だ。しかし、ここは大渋滞。小学校の予防注射に並ぶ子供の心境で、待つこと約40分。三点確保に留意しながら慎重に登った。心配していた佐知子も、案外あっけなく私の後についてきた。剣岳の山頂に着いたのは午前9時5分、まだ快晴だった。 岩だらけの山頂には祠があり、文字通り360度の大展望だ。立山連峰やその奥の北アルプス南部の山々、東側には後立山連峰の山々がよく見える。感無量の大休止。 下り専用路の難所はカニのヨコバイ(渋滞約25分)。鎖に体重をかけざるを得ないとっつきが少し怖かったが、あとは足場もしっかりとしていて、難無く通過できた。 前剣のピークへ戻った辺りからは高山植物の花などを見る余裕も出てきて、私達の間にも会話が戻ってきた。サーモスの熱いコーヒーと残り物のパンやチーズなどで昼食を済ませ、剣岳に名残りを惜しむかのように、ゆっくりとゆっくりと、再び下り始めた。 「剣岳がこんなに大きな単独峰だったなんて、知らなかった」 「ここから眺めると、鹿島槍ヶ岳は双耳峰には見えないのね」 「昨日も今日もあちこちにチングルマの群落があったけれど、薄紅色のタテヤマチングルマって、何処にあるんだろう」 「イワツメクサは本当に可憐ね。この小さい花がタテヤマリンドウかしら。トウヤクリンドウをしみじみと見たのは初めてね」 …私達夫婦の会話はいつも大体こんな風だ。そう…、聞き手がいなくて話し手だけで会話が成立しているのだ。(^_^;) 一服剣で一服していた時、すぐ傍のお花畑からライチョウの一家が登山道に出てきて、砂浴び(?)を始めた。その可愛らしい仕草に思わず見とれてしまった。ふと気が付くと、何時の間にか辺りには霧が立ち込め、怪しげな空模様になっていた。ライチョウはタカなどの天敵から身を守るため普段は姿を隠しているけれど、天気が悪くなると(ガスってくると)ハイマツから這い出してくるのだ。 剣山荘に戻った途端、大粒の雨が降り出した。荷物の整理をして、暫らく休んだ後、雨具に身をかため意を決して歩き出した。剣沢の雪渓を三つほど渡り、今夜の宿、剣沢小屋に着いたのは午後3時頃だった。 午後5時頃から雨は上がり、日も射してきて、小屋の前から剣沢を隔てて大三角形の剣岳が黒々と、くっきりと見えてきた。この剣沢小屋は剣岳を眺める絶好の展望台でもあった。 夕食に出てきたのは分厚いトンカツだった。昨日の剣山荘もトンカツで、一瞬たじろいだのだが、やわらかくてとても美味しかった。一畳に一人の部屋割りで、ゆっくりと横になれた。4時半まではシャワーも使える。こんな山奥の山小屋としては、これ以上は望めない、と思えるほど行き届いた山小屋だった。 8月7日(第4日目): 午前5時45分、小屋を出る。残雪と草原(お花畑)の広々とした剣沢をゆっくりと登る。今日は峠越えの“軽ハイキング”だ。チングルマやハクサンイチゲの大群落を観察したり、振り返って岩と雪の殿堂・剣岳を眺めたりして四日間の山旅のフィナーレを惜しんだ。 別山乗越からは雷鳥沢を下らず、足場の良い新室堂乗越経由で、雷鳥平から地獄谷を経由して室堂へ下った。途中、みくりが池温泉で山の汗を流してから帰路についた。この下りの景色もお花畑も、素晴らしいものだった。 今回の山旅、天候に恵まれたこともあるけれど、最後の最後まで無駄とスキのない、最上質の「花と山岳展望」のトレイルだった。そして、おまけに岩登りのスリルも味わえたし、源泉掛け流しの温泉に浸かることもできた。 みくりが池温泉: 室堂ターミナルから北へ歩いて約15分、地獄谷にほど近いみくりが池の湖畔に位置する。ロケーションは悪いはずがない。泉質については、風呂場の脱衣所には単純硫黄泉、パンフレットには酸性硫化水素泉と書かれてあった。硫黄臭のする白濁した温泉。石造り。いい風呂だった。今回は入浴のみ(入浴料一人600円)だったが、何時かまた室堂を訪れる機会があったら泊りで来てみたい、と思った。 日本最高所にある温泉施設、とのことだが、標高については2400mから2450mまでの間で諸説あり、何故か判然としない。地形図で等高線を辿ってみると、標高約2400mが正解のようだ。尚、源泉は地獄谷(標高2300m)からの引湯、とのこと。 * この数年後、同温泉のホームページに“標高2410m”と明記されました。[後日追記] 「みくりが池温泉」のHP
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