「私達の山旅日記」ホームへ

No.142 平ヶ岳(ひらがたけ・2141m)
平成14年(2002年)7月20日〜21日 第1日目 晴れ第2日目 曇り マイカー利用
平ヶ岳 略図
下台倉山への登山道
ヤセ尾根が続く

平ヶ岳はまだまだ遠い
平ヶ岳が見えてくる

この花に随分と励まされた
ゴゼンタチバナ

平ヶ岳山頂からキャンプ場へ向かう
ワタスゲの草原


タフなコースにバテバテ…

《マイカー利用》 第1日=関越自動車道・小出 I.C…平ヶ岳入口駐車場(鷹ノ巣)〜下台倉山1604m〜台倉山1695m〜台倉清水〜白沢清水〜池ノ岳2080m・キャンプ場  第2日=キャンプ場〜(平ヶ岳往復・玉子石往復)〜キャンプ場・池ノ岳〜台倉山〜平ヶ岳入口…葎沢温泉(入浴)… 【歩行時間: 第1日=6時間40分 第2日=6時間40分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


第1日目(7/20・晴) しまった!水を忘れた…

 関越自動車道の小出インターから国道352号線(尾瀬沼山樹海ライン)を走ること約2時間、鷹ノ巣の平ヶ岳登山口にある無料駐車場へ着いたのは夜中の2時を過ぎていた。この夜、大型トレーラーが通るとのことで、シルバーラインが閉鎖されていて迂回せざるを得ず、その分余計に時間がかかったようだ。途中、車のヘッドライトに浮かぶ(多分)キツネを2回ほど見た。すれ違う車輌もなく、随分と遠く深い処へ来てしまったものだと思った。天の川が天空を流れ、無数の星たちが降り注いでいる。妻の佐知子は助手席でずっと寝っぱなしだ。
 車中でウトウトしていたら夜が明けた。週末ということで、駐車場は25台ほどの車でほぼ満杯だった。午前5時55分、テントやシュラフなどで膨れ上がったザックを担いで、西へ向かって歩き始める。ここは標高840m。ウグイスやヒガラなどの小鳥たちが盛んに囀っている。
 林道を少し進み、右手の山道へ入り下台倉沢を渡る。幹の太い立派なブナの林、粘土質の急登が続く。やがて高木が少なくなりヤセ尾根にさしかかる。左手に燧ヶ岳が見えてきた。絶景だが、天気が良すぎる。汗がボタボタ、とても暑い。
 しまった! 水筒に水が入っていない。佐知子も水筒に水を入れていない。二人で500mlのポカリスウェットが1本ずつ。私のサーモスには、何故か何時も入っているコーヒーが入っていない。おまけに帽子を車の中に忘れてきた。ヤバイ、と思った。下台倉山1604mを通過し、南へ向かい始めた頃から、案の定、脱水症状が出始めた。
 真夏のカンカン照り。水不足と寝不足と重いザツクのため、あっという間にバテバテ状態になってきた。右手前方に見え隠れしているなだらかな双耳峰は一体何だ? 地図で調べると目指す平ヶ岳に相違ない。なにっ、まだあんなに歩くのか。遠いなァ。とすると、その更に右手に見えているのは越後三山か。ちょっとかっこいいね。などと思考もそろそろ支離滅裂になりだした。涼しい木陰を選んで何回も中休止。じっと座っていたら何時の間にか眠っていて、目を覚ますと、佐知子も眠っていた。
 三等三角点のある台倉山山頂1695mは南東方面が開けていて、燧ヶ岳から会津駒ヶ岳へ続く尾瀬の山並が一望できた。しかし長居はできない。ポカリスウェットもとっくに空っぽで、喉がカラカラで頭がボーっとする。私達と同じ頃に登山口を発ったラッシュタクティクス(思いっきり身軽になってスピードを上げて日帰り登山を狙う)の俊足組が、既に平ヶ岳を往復して私達とすれ違う。 「どうしてあんなに速いんだ?」 と私。 「私達が遅すぎるの!」 と佐知子。とにかく暑い。これ以上無駄な会話はしたくない。
 台倉山から15分ほど下った樹林の鞍部に台倉清水はあった。登山道を右に逸れて少し下ったオホコ沢源頭の湧き水をガブ飲み。浮遊物が少し混じっていたが、そんなこと気にしない。冷たくて美味しかった。しかしもう既にお昼の12時。たっぷりと運んだ水を沸かしてカップラーメン。大休止の後、潤った身体で心も軽く、しかしザックは重く、再び稜線を西へ登り始める。
 台倉清水から50分も歩くと白沢清水。登山道脇に冷たくてきれいな水がこんこんと湧いている。台倉清水よりも旨い、と感じた。もう少し我慢してこちらでガブ飲みすればよかったかな、と、今度は贅沢な後悔。ぬかるんだ道に注意しながら最後の登りにさしかかる。所々のゴゼンタチバナの小群落が私達の目を楽しませてくれる。少し幹の色が濃いようで…、若しかしたらオオシラビソかもしれないが、矢張りシラビソだろうか、などの黒木が目立ち始める。
 一天にわかに掻き曇り、小雨がパラついてきた。遠くでカミナリが鳴っている。ちょっと怖い。
 ヘロヘロ状態で池ノ岳へ着いたのは午後4時近くになっていた。幸い降ったり止んだりの雨は止み、再び晴れ間が出てきて、尾瀬の山々や会津駒ヶ岳などがよく見えた。少し進み、白いシャクナゲ(ハクサンシャクナゲ)が咲いている潅木帯を過ぎると、姫ノ池などの池塘が点在する湿原に出る。平ヶ岳が眼前だけれど、もはやその(平ヶ岳往復のこと)気力も体力も残っていない。玉子石往復と併せ、すべては明日のお楽しみ。取り急ぎ幕営地を捜す。

* キャンプ場: 池ノ岳から玉子石へ向かって西へ10分も歩いた処、雪渓直下、草原の木道沿いにキャンプ地が点在する。管理舎など何もない。トイレもない。環境破壊に配慮して、私達はここでの「大」と「小」を我慢してしまった。雪渓から流れ出る冷たい水は使い放題。ロケーションは勿論最高。
 私達が着いた時、11〜2張りのテントでキャンプ場はほぼ満杯。やむを得ず雪渓脇の斜面にテントを張った。近くの草原にはコバイケイソウやハクサンコザクラが咲いている。
 レトルトのカレーライスで満腹になった夕まづめ、ブランデーをチビチビ飲りながら、テント脇の木道に腰掛けて、空に星が瞬き始めるまで、眼前に横たわる平ヶ岳の山頂部を眺めていた。
 「星も出始めて、すごい景色だよ」 と声を掛け、テントを覗いてみたら、佐知子はもう寝ていた。
 夜中、斜面のため寝ているとずり落ちて、それを修正するのに結構疲れた。佐知子は…、テントの隅っこにへばりついて、朝までぐっすりだったようだ。


平が岳山頂の山頂標識と三角点
平ヶ岳山頂

池塘群の眺めが素晴らしかった
奇岩の玉子石

黄色のテントが私達のキャンプ地です
雪渓を渡る

第2日目(7/21・曇) 広大な山頂湿原を満喫

 午前4時起床。未だ薄暗い朝靄の中、テントをそのままにして、早速、平ヶ岳の山頂へ向かう。何処かでピーピーと口笛のような(ちょっと不気味な)トラツグミのさえずりが聞こえる。キャンプ場から木道を約30分、樹高の低いシラビソや潅木やササなどに囲まれた小広場に、平ヶ岳の二等三角点はあった。ハクサンシャクナゲが少し咲いていた。(*
 山頂部の広い湿原をゆっくりと散策。生憎のガスで御来光は拝めず、展望も利かなかったけれど、あちこちの湿原や草原には コバイケイソウ、イワイチョウ、ハクサンコザクラ、コイワカガミ、タテヤマリンドウ、キンコウカ など、色々な花が咲いている。ワタスゲの綿毛や羽毛状のチングルマも朝露に濡れて点々と草原を飾っている。平ヶ岳には高山植物の固有の種はないとのことだが、花の数も質も必要かつ十分だ。まさに「天上の楽園」と呼ぶに相応しい景色だ。
 キャンプ場に戻り、パンとスープの朝食後、今度は雪渓を横切り、平ヶ岳のシンボル「玉子石」を往復(休憩を含め約1時間)する。今日の空は雲が厚いようだ。途中の湿原や低い針葉樹林帯などでも花々を楽しむことはできたが、見える筈の奥利根源流の山々や越後三山などは終始霧の中だった。玉子石(脆い花崗岩の造形)は写真で見ての通りだが、思ったより小さいと感じた。玉子石の先、眼下に広がる池塘群の眺めが素晴らしかった。
 再びキャンプ場に戻り、テントを片付けて、下山を開始したのは午前6時。昨日辿った鷹ノ巣尾根を、休み休みゆっくりと引き返す。白沢清水でたっぷりと水を飲み、水筒も満杯にした。睡眠も充分だったし、ザックも幾分軽くなったけれど、矢張りこのコースは長かった。平ヶ岳登山口(鷹ノ巣)の駐車場に戻ったのは午後2時30分になっていた。
 鷹ノ巣から車で1時間強、小出インター手前の葎沢(むぐらさわ)温泉へ立ち寄り、山の汗を流してから帰路についた。

 日本最大の利根川源流域の最高峰、只見川水系との分水嶺でもある平ヶ岳。夏の週末にも関わらず人影の少ないこの奥深い名山をとても気に入った。しかし、危険な箇所はないけれど、重いザックを担いでのタフなコースに、如何せん疲れた。
 東京へ向かって関越自動車道の赤城インター付近を走っているとき、物凄い雷の夕立に出遭った。 「関東地方の梅雨明けも間近だね」 と話しかけたら、助手席の佐知子は矢張り眠っていた。

* 下山後に分かったことですが、平ヶ岳の最高点2141mは三角点2139.6mのある平ヶ岳山頂からさらに南西方向へ進んだ処にあるとのことです。知らずの内にその地点まで進んだかも知れませんが、高山植物に見とれていた私達には、そのとき、山頂と最高点が離れているという認識はありませんでした。毎度のことですが、事前の情報収集を怠った結果です。(^_^;) [後日追記]

*** コラム ***
平ヶ岳への裏道・中ノ俣コースについて

姫ノ池より平ヶ岳を望む 平ヶ岳へは、じつは、もっと簡単に登れるコース(上り2〜3時間)がある。昭和61年に皇太子様(当時の浩宮殿下)も登られたコース、中ノ俣林道経由のコースである。道路事情や環境保護や安全性などの理由から、現在、この中ノ俣林道は閉鎖されているが、実際のところ、私達はこのショートカットコースを利用した大勢の登山者たちに出会った。話しを聞くと、人数が揃うと、麓の宿泊施設などの利権者がゲートを開けて、約1時間の悪路を、林道終点の登山口までマイクロバスなどで送迎してくれる、とのことだ。一台2万円(一人約3,000円から)の料金だという。
 私達が歩いた鷹ノ巣尾根は平ヶ岳唯一の正規の登山道で、変化に富み展望にも恵まれたとても良いコースだったが、長丁場であり、山小屋がないので、体力のない一般の登山者にはどうしても敬遠されがちになってしまう。それに、同じ道を往復するのも少しつや消しだ。せっかくの名峰も、今のままでは、山好きの地元のリピーター中心の、もしくは百名山志向の登山者が一生に一度訪れるだけの山になってしまうと思う。仮に中ノ俣コースが正規なルートとして認められたとすると、中ノ俣林道終点から登って鷹ノ巣尾根を下るという、日帰りゴールデンコースが誕生することになると思うが如何なものか。
 地元の地権者や利権者たちが絡んだ、この中ノ俣林道コースのあれこれについて、何かキナ臭い感じがするのは私一人だろうか…。

葎沢温泉「こしじ」 葎沢(むぐらさわ)温泉「こしじ」: 関越自動車道小出 I.Cから約10分、湯之谷温泉郷の入口、国道352号線から右へ少し入った閑静な高台に位置する。国民年金保養センターという肩書きの付いた国の宿泊保養施設。入浴のみは大人一人500円(*)。私達は夕方入館したので、食堂は利用できないと言われた。そんなことパンフレットなどのどこにも書かれておらず、少し憤慨もしたけれど、入浴できるだけで大満足で、さっぱりとした身体になって山旅の疲れが癒えていった。浴室は充分な広さの石タイル貼。 単純泉。露天風呂はなかった。いかにも公営らしい無気力なサービスだった。
* この後、入浴料は600円に値上がりしたようです。(後日追記)
* 2013年1月7日をもって閉館、とのことです。う〜ん。さもありなん。(後日追記)



岩銀杏:ミツガシワ科
湿原のイワイチョウ
白山石楠花:ツツジ科の常緑低木
山頂部のハクサンシャクナゲ
翌朝撮影したものです
キャンプ場より平ヶ岳
池ノ岳より会津駒方面を望む
池ノ岳山頂にて
このページのトップへ↑
No.141「平標山から仙ノ倉山」へNo.143「薬師岳から黒部五郎岳(前編)」へ



ホームへ
ホームへ
ゆっくりと歩きましょう!