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北アルプス・西銀座ダイヤモンドコース
No.143-1 薬師岳から黒部五郎岳(前編)
平成14年(2002年)8月7日〜10日 晴れたり雨が降ったりガスったり
北アルプス中部 略図
折立の休憩所
折立から歩き始める

左後方に有峰湖
登路にて

太郎平小屋前の広場より薬師岳を望む
夕映えの薬師岳


まず、ピーカンの薬師岳へ

第1日=JR富山駅-《バス》-折立〜太郎平小屋 第2日=太郎平小屋〜薬師岳2926m〜太郎平小屋 第3日=太郎平小屋〜太郎山2373m〜北ノ俣岳2661m〜黒部五郎岳2840m〜黒部五郎小舎 第4日=黒部五郎小舎〜三俣蓮華岳2841m〜双六小屋〜鏡平小屋〜新穂高温泉(泊)-《バス》-JR松本駅…
 【歩行時間: 第1日=3時間50分 第2日=5時間 第3日=6時間40分 第4日=8時間30分
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(薬師岳)


●登山前夜(8/6): 上野駅23時03分発
 寝台特急「北陸号」のB寝台に乗車。久々のブルートレインに心もワクワク。同室の金沢まで行くというアンノン族の(ちょっと古いかなァ)若いお嬢さんたちと少し会話もしたが、その日のうちに、もうぐっすりだった。横になれるということは、矢張りとてもいいものだ。

●第1日目(8/7・晴れ): 富山駅-《バス》-折立〜太郎平小屋
 車窓のブラインドを開けると朝焼けで、立山連峰は霞の中だった。午前5時36分、富山駅で下車。駅前には折立(おりたて)行きの直行バス(富山地鉄バス)が待っていた。このバスは一応予約制で、乗車の際に名前を告げなくてはならない。荷物料金が加算されるが、私達夫婦のザツクは10kg以下だったので運賃の@3,260円のみだった。定刻の6時10分、登山姿の乗客25名を乗せて出発。富山湾に注いでいる常願寺川の支流、和田川に沿った林道有峰線をバスは快調に走る。
* この直行バスを使わない場合は、電鉄富山駅から富山地方鉄道の立山行で有峰口駅下車、同駅前からバスで約1時間15分、折立まで乗ることになる。

 大きなダム湖(有峰湖)の北側を通り過ぎて間もなく、午前8時5分、ブナなどの樹林に囲まれた折立のバス停に到着。ここは標高1340m。休憩所とトイレと駐車場だけの、思ったより閑静な処だった。気温約20℃。風がさわやかだ。時間をかけて身支度を整える。休憩所右奥の登山口から歩き始めて数十メートルの木立の中に、愛知大学山岳部遭難の慰霊碑(十三重之塔)があり、そっと手を合わせる。林床の主はネマガリダケのようだ。ウグイスが遠くで囀っている。
 休み休みゆっくりと登って約2時間弱、標高1871mの三角点を通り過ぎる辺りから急に視界が開け、前方に横長の薬師岳が姿を現しはじめる。そして、その左手奥には立山や剣岳の三角形もはっきりと見えている。思わずニンマリとして、中休止の後、緩やかな尾根道を更に南東へ向かう。辺り一面に草原が広がっているが、なんか、とてつもなく広いゴルフ場の山岳コースを歩いているような気分だ。キンコウカやミヤマリンドウなどが随所に咲いている。草原の斜面にはニッコウキスゲの群落。チングルマの花は羽毛状になって風にたなびいている。やがてハイマツが目立ってくる。後方(西)の眼下には有峰湖が見えている。左後方の鍬崎山(くわさきやま・2090m)のとんがりが、何故か気を惹く。薬師岳が益々近くなってきた。

 太郎兵衛平に建つ太郎平小屋に着いたのは午後1時40分だった。ロケーションは申し分ない。眼前の薬師岳の右奥の、黒部渓谷を隔てて、水晶岳の鈍角三角形の岩峰がまず目につく。その右の雲ノ平の上部(奥)に突出ているのが鷲羽岳で、更に右に連なるのが三俣蓮華岳や黒部五郎岳だ。それらは、まさに北アルプスのどまんなかに聳える秀峰たちで、名山の陳列場のようなこの景観に感動せずにはいられない。佐知子と私は語り合うこともなく、それぞれ別々に、小屋前の広場をあっちへ行ったりこっちへ来たり、随分と長いこと景色に見惚れていた。
 小屋の生ビールが、これまた絶品だった。山小屋で生ビールなんて、こんな仕合わせ、あってもいいものだろうか。などと言いながら2杯も飲んでしまった。日も陰ってきた頃、ほろ酔い気分で、隣のなだらかな太郎山2373mを往復(約20分)してみた。木道沿いの草原には花はそれほど咲いていなかったけれど、眼の前の北ノ俣岳(上ノ岳)が大きく、振り返れば明日の予定コースの太郎平小屋から薬師岳へ続くたおやかな稜線が一望できた。

●第2日目(8/8・晴れ): 太郎平小屋〜薬師岳〜太郎平小屋
林縁の日陰に小群落
キヌガサソウ

薬師岳山荘上部からの薬師岳
眼前の薬師岳

薬師岳東南稜に立つ愛知大学遭難碑:バックは槍ヶ岳
山頂手前のケルン

私はニッカポッカです・・・じつは
薬師岳山頂
 朝からピーカンだ。北西の眼下には富山の街並みや富山湾もよく見えている。急ぐ必要のない今日の行程(薬師岳往復)なのだが、午後から天気の崩れることの多いこの山域のこととて、知らずのうちに気が急く。5時からの小屋の朝食をそそくさと済ませ、眼前の薬師岳へ向かう。
 小ぶりなコバイケイソウの目立つ草原とハイマツの間の木道を進む。太郎平小屋から20分ほどの鞍部(薬師峠)のキャンプ地を抜け、樹高の低いダケカンバやナナカマドやシラビソの林へ入る。どこからか沢の音も聞こえている。林縁の日陰にキヌガサソウの小群落を発見。このキヌガサソウの大きな花(外花被片)は、初め白色で後にピンクに染まり、とのことだが、私達が見たのは最後の淡緑色になったもので、それはそれでとても趣のあるものだった。
 暫らく登って樹林の間から振り返ると、草原の中の太郎平小屋の赤い屋根の後方には加賀の白山が浮かんで見えている。 「まるでアルプスの少女ハイジーの世界ね」 と佐知子。 「サウンド・オブ・ミュージックのトップシーンを見ているようだ」 と私。二人の会話も弾んでくる。
 樹林帯を抜け右手を振り返ると、鷲羽岳と三俣蓮華岳の間に槍ヶ岳が見えてきた。更に高度を上げ、草原と池塘の薬師平で小休止。花も色々咲いていたので、名前が分かっているものだけでもメモってみた。クシャクシャになったメモ帳には、《 薬師平付近までに咲いていた花: ニッコウキスゲ、オタカラコウ、モミジカラマツ、チングルマ、コイワカガミ、ハクサンイチゲ、イワイチョウ、シナノキンバイ、ハクサンフウロ、ハクサンボウフウ、ウラジロタデ、ウサギギク、コゴメグサ、ミヤママンネングサ、ハクサンチドリ(?)、ミヤマキンポウゲ(?)、など。みんなきれい。》 と書いてある。
 歩行時間にして2時間弱で、感じの良い女性従業員のいる小さな山小屋・標高約2700mの薬師岳山荘に着く。花期は終わっていたけれど、周辺にはキバナシャクナゲだろうか、の低木が目立った。ここから山頂までは1時間足らずだ。
 石英を多く含んでいるようで、白い砂礫が目に眩しい。ひとしきり登り切ると、昭和38年1月に愛知大パーティーが下山時に迷い込んで遭難(13人全員が死亡)したという東南稜の分岐に出る。石積みのケルンがあり、近くに小さな石ブロック造りの避難小屋(使用不可)が建っている。岩の間にはイワギキョウが可憐に咲いていた。…中央カールを観察しながら最後の登りにかかる。
 ゴロ石と祠の薬師岳山頂へ着いたのは9時30分頃だった。北へ続く稜線上、北薬師岳2900mの奥に剣岳、立山、白馬岳などが姿を現し、ついに360度の大展望。この眺めは「凄い!」 の一言に尽きる。名だたる数々の名山が無造作に配列されて見える様は、まさに超ゴージャスな眺めだ。北アルプスやその周辺の山々は勿論、浅間山や富士山まで見えていた。感無量で立ち尽すこと約1時間。至福の山座同定だった。山頂に名残りを惜しみながら去る時、ふと気がついて、祠に向かって手を合わせた。祠の中には金ピカの薬師如来立像や石仏などが奉ってあった。
 復路の途中、薬師岳山荘で力うどんなどを食べたりして、ゆっくりと下ったが、太郎平小屋へ戻ったのは、まだ太陽が真上の午後1時半頃だった。明日は黒部五郎岳へ向かう強行軍だ。夕げまでの長い時間…実際長いとは感じなかったが…生ビールを飲んだり小屋の付近を散歩したりしながら英気を養った。
 太郎平小屋に連泊ということで、小屋から記念の名入り手拭いを戴いた。この日も宿泊客はそれほど多くなく、大の字になって寝ることができた。料理も工夫されていて、味はまぁまぁ。ストレスの少ない山小屋で、快適だった。
 夕方から雲が多くなってきたようだ。強い日差しで焼けたためか、鼻の頭や首筋がヒリヒリと痛かった。

*** コラム ***
太郎平小屋の看板

太郎平小屋の入口 太郎平小屋の入り口にも、御多分にもれず筆書きの看板が吊るされている。小屋名の下部に小さく「田部重治」と記されてあった。富山生まれの英文学の教授だが、日本の登山史上の先駆者の一人であり、登山に関する著作も多い大先達だ。有名な著書「山と渓谷」のなかの「薬師岳と有峰」は明治42年夏の薬師岳登山の紀行だが、その中の記述に “…ここを太郎兵衛平と称する所以は、長門の太郎兵衛なる者、ここで金を掘ったからといわれている。…” という一文がある。石英斑岩や石英安山岩などが多いと云われるこの地だが、本当に金が出たのだろうか。と、興味津々の私だった。
 それにしても、田部重治(たなべじゅうじ)氏は昭和47年に88歳で他界しており、それから30年が過ぎているというのに、この看板の文字の真新しさは一体どうしたことだろうか。聞くところによると昭和45年に掲げられたものらしいが…。若しかして、晩年の田部重治氏が筆をとったものを、何回も上書きをしているのかしら…。

次項 薬師岳から黒部五郎岳(後編) へ続く



太郎山の登りから眺めた薬師岳と太郎平小屋
太郎山から薬師岳を望む
バックの鋭鋒は槍ヶ岳
薬師岳の山頂にて
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