酔っ払い五人衆の忘年軽ハイク
《甲府からレンタカー利用》
第1日目(夜叉神峠)=JR中央本線甲府駅-《車45分》-夜叉神峠登山口―夜叉神峠(夜叉神荘)―夜叉神峠登山口-《車10分》-桃の木温泉 【歩行時間: 1時間40分】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(夜叉神峠)へ
第2日目(甘利山)=桃の木温泉-《車40分》-甘利山駐車場―甘利山1731m―甘利山駐車場-《車45分》-甲府駅 【歩行時間:40分】 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページ(甘利山)へ
第1日目・夜叉神峠(やしゃじんとうげ)
甲府駅前からレンタカーで夜叉神峠登山口(夜叉神ノ森)へ向かう。南アルプス前衛の山々がくっきりと前面に広がる。右手には雪を被った甲斐駒ヶ岳が見えている。さらにその右手には八ヶ岳のギザギザもよく見えている。本日は快晴、心が躍る。あずさ回数券やトレンタ君の存在も知らない幹事役のJさんとSさんが、リーダーのHさんからお小言を食らっている。一番若いAさんはあずさ51号の車中でも、Sさんの運転するこのカローラの車中でもずっと寝っぱなしだ。気心の知れあった仲間(むさくるしい男達)との1泊2日の忘年山行である。
夜叉神峠登山口
夜叉神小屋前にて
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南アルプス林道沿いの夜叉神峠登山口(標高1380m)の駐車場から歩き始めたのは午前10時50分だった。Hさんの指示で私が先頭に立ち、冬枯れの雑木林(ミズナラやヤマハンノキなどの天然林)とカラマツ林(人工林)の交ざる登山道をゆっくりと登る。心配していた凍結も積雪もそれほどではなく、アイゼンはまったく必要ない。楽勝ペースだ。ところがJさんは20キロ近くはあろうかと思える重たいザックを担いで、一番後方から辛そうに登ってくる。後で分かったことだが、Jさんのザックの中には大宴会用の飲み物や食料や燃料がゴッソリと詰まっていたのだ。
正味1時間ほどで夜叉神峠に着く。展望が開け、雪を被った農鳥岳と間ノ岳が大唐松山の右後方に大きく見えている。高谷山方面への登山道を左に見送り、右手の夜叉神峠小屋へ最後のひと登り。小屋は閉鎖(年末年始は営業とのこと)されていたけれど、展望抜群の小屋前の広場には数組のパーティーがお昼の休憩をしていた。右端の北岳も加わって、そろい踏みの白峰三山を眺めながら、早速私たちの「大宴会」が始まった。
肉や野菜をたっぷりと使ったトーバンジャン入りのピリ辛ごった煮だ。缶ビールもたっぷり。おまけにAさんが担いできた一升瓶。コンロでお燗したら甘露甘露で、あっという間に、もうほとんどへべれけの状態。広場には何時しか誰もいなくなって私たちだけになってしまった。日も翳ってきて寒くなってきたけど気にしない。真冬の標高1770mの白昼の宴は続く。
風も出てきて流石に猛烈に寒くなってきて、白峰三山にも雲がかかり始めた。Hさんが 「あれは雪雲だぞ!」 と言っている。私を含めた残りの4人はそれをポカンと聞いていた。雪国育ちのHさんには、雪の降る雲かそうでない雲なのかがちょっと見ただけですぐに分かるらしい。それじゃそろそろ辞そうかと、ふと辺りを見回すと、私たちの他には誰もいないと思っていた小屋前広場の片隅で、単独行の娘さんがザックから取り出した小さなオニギリを食べている。声をかけてみると、薬師岳手前の南御室小屋までを日帰りで往復してきたのだという。娘さんの神がかり的な脚力に私たちは絶句してしまった。酔っ払いの変なオジサンたち、と思われるのもいやだったので、娘さんとの会話はそれっきりにして、私たちはそそくさと広場を去った。
夜叉神峠から高谷山1842mを往復(歩程約50分)する予定だったので、Hさんにお伺いを立てたら、うつろな目で 「行かないでいいんじゃないの」 の返事。リーダーのこの指示に異を唱える者はもちろん誰もいず、高谷山方面へ30メートルほども進んだ北岳も見える展望のよい処で景色のおさらいをして、「高谷山へは登ったことにしておこう」 と、のんびりと、千鳥足で、もと来た道を下山した。途中、ものすごい勢いでさっきの娘さんに追い越された。
何時の間にか本当に小雪が降りだしていた。
桃の木温泉「山和荘」: 南アルプスの東の入り口、御勅使川沿いに位置する閑静な一軒宿。近年42度の源泉を掘り当てたとのことで、掛け流しの温めの湯が肌になめらかだ。小雪の舞う露天風呂は最高の気分だった。内湯はほどよい広さのタイル貼り。家族風呂もある。アルカリ性単純泉。無色透明でほんのりと硫黄の匂い。宿泊料金はリーズナブル。川を挟んでもっと割安な本館「桃栄荘」もある。
部屋食の夕餉、再び宴会だ。Sさんが苦労して調達してきた「テルテル山岳会」のオリジナルTシャツを皆で批評しあったりして、楽しく親交を深めた。で、足よりも胃のほうが疲れた。
桃の木温泉のHP
夜叉神小屋前の広場から白峰三山を望む
第2日目・甘利山(あまりやま・1731m)
甘利山頂へ向かう
凍結した椹池
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桃の木温泉を朝ゆっくりと発ち、レンタカーのカーナビに誘導されて約40分、甘利山駐車場へ着く。昨日にも増してピーカンの絶景だ。東面の、少し靄った甲府盆地奥の山々の景色が素晴らしい。左端、真北の方向には雪帽子の八ヶ岳がその奥に蓼科山と浅間山を従えて堂々としている。その右側には奥秩父の主稜たちと大菩薩連嶺が青々と連なっている。そして更に右側、南東面には御坂の山々を従えた富士山がすっきりドカーンと見えている。宿酔いの私は、もうこれだけで充分、と思った。
しかし、とりあえず、ということで、展望を楽しみながら、整備されたなだらかな雪道をゼイゼイいいながら登る。駐車場から20分ほどで、甘利山山頂の開けた丘に立つ。西面の景色も開け、間近の千頭星山(せんとうぼしやま・2139m)へ続く山並みが印象的だ。木製のテーブル付きベンチに腰掛けて、コンロで沸かした熱いコーヒーを啜りながら会話が弾む。
甘利山は、今では車道も完全舗装されて、6月下旬頃のレンゲツツジの花期などにはマイカーの観光客であふれかえるという。若い頃盛んに山歩きをしていたJさんは、昔、麓から歩いて甘利山から千頭星山へ登ったことがあるらしく、今昔の感を禁じえないようだった。確かに山登りの山としてはつまらないものになってしまったかもしれないけれど、誰もいない今日の甘利山は私たちだけのもの。勿体ないようなこの大展望を独り占め(五人占め?)にして、Jさんの気持ちもいくらかは和らいだかもしれない。
Sさんの運転するレンタカーのカローラで、甘利山駐車場から甲府へ向かって林道を下る途中、いかにも伝説の舞台となりそうな椹(さわら)池に立ち寄ってみた。池面には氷が張っていたので、はしゃぎながら、恐る恐る、その上を歩いた。バカ勇気のあるAさんはずいぶんと池の中央まで進んでいった。ところが間もなく、Aさんの足下からメリッと氷の割れる音が、池の淵にいた私の耳にもはっきりと聞こえた。間一髪、慌てて全員退却して、大笑いだった。
甲府駅前でレンタカーを降り、地元名物のホウトウが旨いという近くの和風食堂で「打ち上げ」をやってから、「あずさ」に乗り東京へ向かう。二日間の山風と「酒」にさらされてリフレッシュした私たちは、三々五々、師走の街へ帰っていった。
甘利山の山頂にて
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