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No.170 八幡平(はちまんたい・1613m)
平成16年10月9日〜10日 台風22号

八幡平・裏岩手縦走路の略図
草紅葉と緑の木々のコントラスト
黒谷地湿原

ログ調の小奇麗な避難小屋
八幡平陵雲荘

雨霧で何も見えない展望台
八幡平山頂

霧と湯けむりの藤七温泉「彩雲荘」
藤七温泉「彩雲荘」


私達二人だけの八幡平…

第1日=JR盛岡駅-《バス1時間50分》-黒谷地バス停〜源太森〜八幡平山頂1613m〜藤七温泉 第2日=藤七温泉〜畚岳1578m〜諸桧岳1516m〜険岨森1448m〜大深岳1541m〜小畚山1467m〜三ツ石山1466m〜松川温泉(泊)-《バス1時間50分》-盛岡…
 【歩行時間: 第1日=2時間30分 第2日=8時間】
 → 国土地理院・地図閲覧サービスの該当ページへ


  期せずして悪天候の山歩きをしてしまったことは何回もある。 しかし、今回のように最初から悪天候を覚悟して歩いた山歩きは初めてだった。 なにげに…、非常に強い台風22号が接近している…。
  後日談だが、帰路の車内で読んだ地元(岩手県)の新聞によると、盛岡市では9日の「志波城まつり前夜祭」や、10日予定されたJR盛岡駅の「もりおかえきまつり」も中止となり、県内を通る東北新幹線も同日、台風の影響で上下線計7本が運休した、とのことだった。

  第1日目(10/9): 盛岡駅前から閑散としたバスに乗り、黒谷地バス停で降りたのは午前11時20分頃。 バスが走り去り、カッパ姿の私達夫婦二人だけが、雨の降りしきるアスピーテラインの路上にポツンと取り残された。 風も強く、少し寒い。 既に晩秋の気配だ。
  草紅葉の黒谷地湿原を通り抜け、茶臼岳からの道と合流して、左(西)へ進む。 疎に生える背の低いアオモリトドマツ(オオシラビソ)と、ネマガリダケ(チシマザサ)と、点在する地塘や草原が、限りなく続く。 所々、ひねたダケカンバやウラジロナナカマドが少し混じる。 これが八幡平の高原台地の景観なんだ。 「とてもいいところだね」 と、私は何回もつぶやいた。 行き交う人は誰もいない。
  源太森を過ぎ、八幡沼のほとりに建つログ調の小奇麗な避難小屋(八幡平陵雲荘)で大休止。 改築して間もない、まだ白木の匂いのするこの小屋は快適だった。 真新しい薪ストーブがゴージャスで、トイレもきれいだ。 長々と雨宿りをしてしまったお礼にと、妻の佐知子が、備え付けの箒で室内を掃除していた。 掃除などしなくても充分きれいだったのだが、それをせずにはいられないくらい、きれいな小屋だったのだ。
  天気が良ければ観光客で賑わう筈の八幡平山頂の展望台は、今日は誰もいない。 厚い霧が周囲を囲み、何も見えず、全く静かだ。 でも、私達は何ともいえぬ爽やかな気持ちで、随分と永いことそこに立ち尽くした。
  娘時代に、佐知子が一度訪れたことがあるという八幡平。(ここだけの話だが、もう40年近く昔のことだ。) 「どう? 昔と比べて」 と私が訊いたら、「確か5月だったと思うけど、景色のことは何も覚えていないわ。覚えているのは、いっしょに来たお友達と雪の坂道で、段ボールを使って尻スキーをしたこと、くらいかしら…」 と云っていた。 あぁ、八幡平が可哀想だ。
  頂上バス停のあるアスファルトの道へ出て、南へなだらかに下っていくと硫黄臭がしてきた。 湯煙の立つ藤七温泉へ着いたのは午後2時45分。 ずぶ濡れの状態だった。
  台風22号は、この日の午後4時頃、伊豆半島に上陸し、加速度をつけて北上しているらしい…。

藤七温泉「彩雲荘」: 八幡平の頂上から南へ少し下った浅い谷間、標高1400mの、東北の温泉としては最高所に位置する一軒宿。 天気が良ければ、岩手山と八幡平の景勝が目前に広がる絶好のロケーション。 泉質は酸性・単純硫黄泉、白濁、91℃。 もちろん源泉掛け流し。 男女別の内湯も外湯も全て木造。 極めつけは、外へ出て少し歩いたガレ場にある野湯(混浴露天風呂)だ。 泥炭も楽しめて、野趣あふれるとはまさにこのことだ。 あちこちから丸見えなので、ご婦人方にとってはチト勇気が必要かも。
  熱すぎる源泉なので薄める水加減が難しいとのことだが、この日の湯温はちょうど良かった。 その湯量といい、ちょっとした心配りといい、この宿はスゴいと思った。 そして、もっとスゴいと思ったのは、そんなにもスゴい温泉なのにそれを押し売りすることもなく、変に飾ることもないということだ。 部屋には、当然のことながら、電話もテレビも無い。 北側の窓を開けると、木々の緑と草紅葉の広々とした景色で、眼下には例の湯煙たなびく野湯が覗ける。
  私達は半年以上前からの予約活動で、ようやくこの人気の宿に泊まることができたのだが、台風のこの日、キャンセルが多かった、と、宿の人は笑いながら云っていた。
  営業期間は4月下旬頃から10月頃まで。 一年の半分は雪に閉ざされるという。 夕食は岩魚の塩焼きやアケビの天ぷらやキノコ料理やミズ(ウワバミソウ)の和え物など、美味しかった。 特別注文した岩魚の骨酒などは、もう最高。 すっかりいい気分になってしまった。 私達の部屋はトイレ付きだったので少し高めの2食付一人13.000円(税別)。 納得のいく料金だ。
  身構えることのない静かな優しさと素朴な人情…、それは東北の風土がもつ、かけがえのない「良さ」なのだろう、と、ここでもそう思った。 …心底、安らげる宿だった。
木道は案外少ない
石沼を通過

稜線部の紅葉は今が見ごろ
ミネカエデがきれい

三ツ石山頂上手前にて
三ツ石山へ向かう

急降下の尾根道
下山道にて

間もなく紅葉本番
松川温泉「松楓荘」

  第2日目(10/10): 台風22号は東(三陸沖)に逸れているらしい。 とりあえずはホッとしたが、日本海側からその台風に引きずられるようにして、もうひとつの低気圧が近づいている。 まだ油断はできない。
  宿の朝食を済ませ、意を決して、カッパに身を包んで歩き出したのは午前7時半頃。 風なお強く、相変わらず本降りの雨が降り続いている。 気合いを入れないと挫けそうになる。
  裏岩手縦走コースへ入り、畚岳(もっこだけ)、諸桧岳(もろびだけ・「もろび」はシラビソの方言、険岨森(けんそもり)と、なだらかにアップダウンしながら、岩手・秋田の県境を南進する。 今日の行程は20Kmになんなんとするロングコースだ。 高原状の尾根歩きなのだから鉄砲水などの心配はまずないだろう、と思っていたのが大間違い。 えぐれている登山道は小川となって、まるで渡渉を繰り返す沢登りコースの様相だ。 展望の良いコースなのだが、焼山や森吉山、さらに岩手山や秋田駒ヶ岳、そして八幡平の山々までも、山岳風景は全て雨霧の中。 花の季節はとっくに終わっていて、エゾオヤマリンドウが僅かに咲き残っているだけだ。
  しかし、この道は、何時までも歩いていたい素晴らしい道だったのだ。 シャクナゲの交じるハイマツ帯を通る。 背の低いアオモリトドマツ林を通る。 密生するネマガリダケ帯を通る。 地塘の点在する草紅葉の湿原を通る。 所々、ミネカエデの紅葉(赤と黄のグラデーションだ!)が彩りを添える。 それらの変化のある近景にウットリしっぱなしだ。
  これも改築して間もないログ調の避難小屋(大深山荘)で昼食の大休止。 この小屋も至極快適。 こんな悪天候下では地獄に仏だ。 エネルギーをたっぷりと補給して、再び歩き出す。
  この頃から、時計がチト気になってきた。 源太ヶ岳を巻いて松川温泉へショートカットするコースも脳裏に浮かんだのだけれど、このショートカットコースには、地形図でよく見ると、沢筋を歩く箇所があるようだ。 矢張り鉄砲水は怖いので、佐知子とよく相談して、当初の予定通り尾根筋を直進することにした。
  ミネザクラなどの低木帯を進み、大深岳(おおふかだけ)をなだらかに越し、緑のチシマザサと黄葉のミヤマナラ(背の低いミズナラ)や紅葉のカエデ類の、まるで原色の絵のように美しい山道を進む。 今回のコースで唯一の山登りらしい急坂をちょっと登り切ると、そこがハイマツとザレの小畚山(こもっこやま)の山頂だった。 雨足なお強く、長居はしていられない。
  再びなだらかな道になって、小ピークの三角点1448.1mを通り過ぎ、霧に包まれた幻想的な三ツ沼も過ぎ、ハイマツ帯の中からニョキッっと出ている露岩が印象的な三ツ石山を越すと、ここからはひたすらに、しかしなだらかに下ることになる。 流水の登山道で何回もドボンをやってしまっているので、靴の中はグチョグチョだ。
  建築中の三ツ石山荘の脇を通り抜け、湿原の先で裏岩手縦走路に別れを告げ、樹林帯の紅葉を愛でながら、なだらかにトラバースして下る。 最後の急降下の尾根道は階段になっていて、歩きやすかったけれど、疲れた膝にはとてもこたえた。
  下り切って着いた処が松川温泉の「松川荘」だった。 そこから10分ほどアスファルトの樹海ラインを歩き、私達の今日の宿「松楓荘」に辿り着いたのは午後5時15分。 日没寸前だった。
  とうとう最後まで雨だった。 しかし、この悪天候や、クマとばったり出遭ってしまう恐怖にもめげず、終始穏やかな表情をしていた佐知子が、私にとっては救いだった。 誰にも出会わなかった今回の静かな八幡平は、私達二人だけのものだった。

松川温泉「松楓荘」: 八幡平と岩手山の中間、標高約800mの曲がりくねった松川渓谷沿いに3軒の旅館と1軒のペンションがあるが、それぞれが遠く離れて建っているので殆ど一軒宿の風情だ。 私達が泊まった「松楓荘」は250年の歴史を持つという。 日によってその透明度や色が微妙に変化するとのことだが、この日は白濁の湯だった。 泉質は酸性単純硫黄泉で、勿論、源泉掛け流し。 内湯も岩造り。 露天風呂は熱すぎて入れなかったが、宿の裏手から吊り橋で渓谷を渡った対岸の半洞窟風呂は、ぬる湯好きの私には丁度よかった。 この名物風呂は混浴で、野趣あふれる脱衣所も男女いっしょで、しかもそれほど広くないから、女性にはちょっとキツイと思う。 しかし心配御無用。 夕方の5時から7時までは女性専用となる。
  部屋の窓の下に松川が流れていて、対岸の洞窟風呂(の入口部分)がよく見える。 瀬音がやかましいくらいに大きくて心配したけれど、悪天候下のロングコースを歩いて疲れ切っていたのだろう。 夜は早々、ぐっすりだった。
  夕食はホロホロ鳥や山菜料理など。 1泊2食付一人10,000円(税込み)は割安だ。



雨の…秋の裏岩手連峰縦走路
一瞬、霧が晴れた(嶮岨森にて)
広々とした稜線歩き
草紅葉の三ツ石湿原
湿原や地塘が点在
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