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No.190-1 笠ヶ岳から鷲羽岳と黒岳(前編) 平成17年9月25日〜29日 |
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北アルプスの主稜線から外れた「さびしい」山は幾つかあるけれど、その中でも特に有名なのが笠ヶ岳と黒岳(水晶岳)だと思う。 そして「謙虚に奥深く隠れている(森村誠一)」のが鷲羽岳だ。 深田日本百名山の中にあって「敢えてポピュラーを望まぬ」これらの三山を結ぶルートを検討してみた。 鈍足で軟弱な私達夫婦にとっては山小屋利用(2食寝具付き)の縦走が大前提だ。 高瀬ダムや湯俣温泉方面(長野県側)から裏銀座の一角を通り南へ大縦走するコースがまず目に付いたのだけれど、野口五郎小屋は8月いっぱい、水晶小屋は9月25日で閉鎖されてしまい、つまりすべり込みアウトで利用できないという。 あっさりとその大縦走コースをあきらめて、折立方面(富山県側)からの入山も検討したのだが、東京方面からはチト遠い。 例によって登山地図を穴の開くほどじっと眺めていた妻の佐知子が、岐阜県側の新穂高温泉から入山して、三俣山荘を拠点にした往復縦走コース(定着山行)を提案した。 よく話を聞いてみると、「往復…」といっても行きと帰りにそれぞれのバリエーションルートを辿れば、黒部源流をも垣間見ることのできる、かなり変化のあるコースになるようだ。 しかも日程的にも無理はない。 天才的な佐知子のひらめきに、何時ものことながら感心して、私は素直にそれに従った。 天気がよく展望に恵まれたこともあるけれど、このルートは素晴らしい雲上のスカイラインだった。 否、北アルプスそのものが、実際素晴らしかったのだ。
穴毛谷の荒涼とした景色を眺め、中崎橋を渡って左俣谷の右岸へ出る。 95年に山崩れで石ゴロになってしまった旧笠新道(廃道)の登山口跡を過ぎて間もなく、(新)笠新道入口の前で暫し立ち止まる。 壁のような急登が眼前に迫る恐ろしい景色だ。 思わず知らず、気合が入る。 その笠ヶ岳登山口を確認して尚15分ほど林道を歩き、ワサビ平小屋へ着いたのは午後3時少し前だった。 風呂もあるこの小屋は至極快適で、明日からのハードスケジュールに備えての英気を養うことができた。
思ったより歩きやすい道をジグザグと登る。 ブナやミズナラから黒木やダケカンバの原生林に徐々に移り変わる。 早くも右後方に、霧と樹林の隙間から槍ヶ岳の穂先が天高く見え隠れする。 45分〜50分歩いて10分〜15分休憩の、私達のペースを忠実に守る。 ギックリ腰と五十肩と痔と水虫の私に、果たして登り切れるか、といった不安が脳裏をよぎる。 所々にその地点の標高を書いた標柱が立っていて、現在位置が分かりやすい。 2回目の休憩場所の標高1800mの地点を少し過ぎた辺りから樹高が低く疎になり、視界が開けだした。 標高2200m地点で3回目の休憩。 霧のため展望は利かないが、頭上は大きく開けていて、草付きの斜面も現れてくる。 ハイマツやハクサンシャクナゲなどの亜高山型〜高山型の樹木が目立ち始め、、そろそろ樹林帯を抜け出るころだ。 2400m地点を過ぎると急登が一段落して、広々としてなだらかな杓子平に出る。 この頃から霧が少し晴れてきて、眼前に広大なカールの一部分が広がる。 私達は無口だったけれど、周囲の山の大きさや荘厳さを予感して、替わりばんこに溜め息をついた。 草原のチングルマは羽毛状になって群落している。 ハクサンイチゲの葉は黄土色に秋を迎えている。 上向きに赤い実をつけているのがウラジロナナカマドで、垂れ下がって実をつけているのがタカネナナカマドだ。 変化のある登路で厭きることはなかった。 一歩ずつ登っていたら、標高約2700mの稜線(抜戸岳南尾根・笠新道分岐)へひょいと出た。 不安は消え去り、予想外の早い展開にほくそ笑む私達だった。
ケルンが林立する笠ヶ岳の長細い山頂は、その手前に小祠(笠ヶ岳播隆堂)があり、少し下って登り返した40mほど先のピークに山頂標柱と2等三角点の標石がゴロ石(石英斑岩だそうだ)の中に立っている。 そこには先着の若い男女2名がいた。 霧がなかなかすっきりとは晴れず、小岩に腰掛けて、その若者たちと随分と長い間、四方山話に花を咲かせていた、そんなときだった。 私のバカチョンデジカメに写っている映像の時間によると午後3時42分。 西の雲に穴が開き、そこから太陽光が燦々と降り注ぎ始めた。 私はふと思い当たり、立ち上がり数歩進み、東の雲海を見て思わず怒鳴った。 「ブロッケンだ!」 私にとっては、もうほとんど忘れかけている40年ぶり(常念乗越で見た)の遭遇だった。 「山名・用語事典(山と渓谷社)」によると “ドイツのブロッケン山1142mで初めて観測・報告されたところからブロッケン現象、ブロッケンの妖怪、あるいは単にブロッケンという” とあるけれど、実際、思わず手を合わせたくなるような不思議な「ご来迎」だ。 4人が立ち並んでいるのに、見えているのは自分自身の大きな影だけで、その自分の影がまあるく光る虹の輪の中に浮かび上がっている。 約3分間続いたそれは、確かに、阿弥陀様のようにも妖怪のようにも見えた。 槍ヶ岳の開山で知られる播隆上人は、この笠ヶ岳の再興者でもある。 その播隆上人もこの山頂で見たというブロッケン現象に感動した私達夫婦と若者二人は、大いにはしゃぎまくり、急速に親しくなった。 …と、なにやかやで笠ヶ岳山頂には約1時間ほど、寒さも忘れて、滞在してしまった。 笠ヶ岳山荘のこの日の登山客は14〜15名ほどでゆったりとくつろげた。 暖房の効いた室内は暖かく、食事も美味しくて快適な山荘だった。 空中に浮かぶ「天空の城ラピュタ」のような好ロケーション。 夕まぐれ、表へ出てみると、辺り一面は大雲海だった。
今日の予定コースも長丁場なので、私達は急いで食事して、いそいそと、小躍りしながら、明るく輝きだした山稜を北へ向かって歩き出した。 見える景色のすべてがダイナミックで素晴らしい。 行く手には北アルプス中央部の名だたる山々が立ち並ぶ。 その奥の雲海の上には剣岳や立山などの北部の峰々も見えている。 振り返れば朝日に映える笠ヶ岳の左奥に乗鞍岳と御嶽のツーショット、右奥には遠く白山も浮かんでいる。 しかし何と云っても常に東面を覆う槍-穂高の姿が絶品だ。 凄い、すごい! やっぱり北アルプスは凄い。 今回のコースのほとんどが岩とハイマツの気持ちのよい稜線歩きだ。 絶景を見回しながら、笠新道分岐を過ぎ、抜戸岳、秩父平、大ノマ岳、弓折岳と、歩みは快調。 快適な山荘のおかげで体調も絶好調だ。 鏡平へ下る道を右に分け、更に稜線を北上する。 やがて前方に双六(すごろく)谷の源頭部が広がり、小さく見える双六小屋の、その頭上に聳える鷲羽岳が両翼を張って大きい。 登山道上の所々に落ちている黒っぽい糞は、赤色や橙色の植物の実が交じっているけれど、もしかしてライチョウの糞? 「けっこう立派なウンチね」 と佐知子が云っていた。 ライチョウのウンチの話の影響ではないが、双六小屋では昼食にカレーライス(700円)を食べた。 それから、タテヤマリンドウとイワギキョウが僅かに咲き残る双六岳の巻き道コースへ入り、三俣蓮華岳分岐から三俣山荘へ下った。 双六岳と三俣蓮華岳の山頂は明後日(帰路)のお楽しみだ。 三俣山荘付近のハイマツ帯の道筋に、シラタマノキが白くて小さくてまん丸の実をたくさんつけていた。 三俣蓮華岳と鷲羽岳の広い鞍部(鷲羽乗越)に建つ三俣山荘に辿り着いたのは午後2時55分だった。 今日も私達にとっては上出来な一日だ。 明日はいよいよ北アルプスのど真ん中、鷲羽岳〜水晶岳から黒部源流を辿る、三俣山荘を拠点にした日帰り周遊ハイキングだ。 天気も良さそうで、ワクワクする。
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