No.206 朝日連峰縦走(朝日岳) 後編 平成18年(2006年)8月7日〜11日 ![]() ![]() |
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第1日=東京…山形駅…左沢駅-《バス75分》-朝日鉱泉 第2日=朝日鉱泉〜鳥原山〜小朝日岳〜銀玉水〜大朝日岳1871m〜大朝日小屋 第3日=大朝日小屋〜金玉水〜中岳1812m〜西朝日岳1814m〜竜門山1688m〜竜門小屋〜寒江山1695m〜狐穴小屋 第4日=狐穴小屋〜以東岳1772m〜以東小屋〜大鳥池(大鳥小屋)〜泡滝ダム-《私営バス30分》-大鳥登山口(朝日屋・泊) 第5日=大鳥登山口-《バス73分》-鶴岡駅…新潟駅…東京【歩行時間: 第2日=7時間30分 第3日=5時間30分 第4日=7時間30分】 → 国土地理院・地図閲覧サービスの該当ページへ *** 前項 朝日連峰縦走(前編)からの続きです *** 夜半の霧が上がって未明から快晴だ。今日は狐穴(きつねあな)小屋までの楽な行程の尾根歩き。そんなに急ぐこともないのだけれど、この好天気に足がじっとしていない。そそくさと湯を沸かしてコーヒーを飲み、余った分をサーモスに詰める。大朝日小屋前の広場から素晴らしい朝の山岳風景を見て、主尾根のスカイラインへ足を踏み出したのは5時15分頃だった。
金玉水(きんぎょくすい)で水を補給して、中岳1812m、西朝日岳1814m、竜門山1688m、とスカイラインをアップダウンしながら北上する。景色も凄いけれど、足元の花も、こちら側は凄い。チングルマ、ハクサンイチゲ、ヨツバシオガマ、ハクサンシャジン、トウゲブキ、タカネマツムシソウ、ミヤマアキノキリンソウ、ヤマハハコ、シラネニンジン、ウサギギク、ニッコウキスゲ、ミヤマリンドウ、ハクサンフウロ、アオノツガザクラ、…などなどが、次から次へと草原や灌木帯を彩る。特にその盛期にあったハクサンシャジンが、私達夫婦の好きな花だったこともあり、感動的な美しさだった。山の斜面でウグイスが盛んにさえずっている。マツムシソウなどの蜜を吸うという高山蝶のベニヒカゲが飛んでいる。トンボ(アキアカネ)も相変わらずたくさん飛んでいる。 竜門小屋前の小広場でも中休止。それから寒江山1695mへの登りの途中でも大休止。と、休憩の合間に少し歩いているといった感じで花崗岩質の稜線散歩は続く。高山植物の咲き乱れる草原の傍らの小岩に腰掛けて、「マルちゃんのたぬきソバ」に焼いた餅を入れて(力蕎麦だ)昼食にした。とても美味しかったけれど、餅は餅で別に(例えば磯部などにして)食べたほうがもっと美味しかったかもしれない。この頃からガスってきて、視界は急に悪くなってきた。 休み休みゆっくりと歩いたのだが、狐穴小屋には午後の1時半頃には着いてしまった。狐穴小屋の管理人さんとは稜線の途中で既にお会いして顔見知りになっていたので、気軽に声を掛けることができた。 「花がとてもきれいですね」 と云ったら 「今年は梅雨明けが遅かったので7月の花と8月の花がいっしょに咲いている」 と答えてくれた。後日分かったことだが、この管理人さんも9月上旬に放映されたNHKの番組「小さな旅」に登場していて、81歳の大朝日小屋の管理人さんを囲む「友情の山小屋」の仲間の一員として紹介されていた。このかたも、朴訥で気さくな、ステキな山男だった。 * 狐穴(きつねあな)小屋: 寒江山の北麓、主稜線上の三方境の北側に建つ60人収容の山小屋。60人収容といってもガイドブックによっては40人とも50人とも54人とも書いてあるので、実際のところは分からない。ただ、大朝日小屋よりは若干狭そうな建物に見えた。これらの朝日連峰の山小屋は何れも新しく小奇麗で、鉄筋(骨?)の頑丈そうな造りになっている。そんなコンクリートの冷え冷えとした建物だけれど、床や内壁には木板(集合材)が貼ってあって、柔らかい居住空間を演出している。この日の宿泊客が少ないこともあったけれど、のんびりとゆったりと時間を過ごすことができた。 水場は小屋前広場(目の前)で、正面に広がる雪渓から引いている水は例年涸れたことがないそうだ。この冷たくて美味しい水場が近くにあるので、私達は水に不便な以東小屋を避けて、手前のこの狐穴小屋泊りにしたのだった。 その水溜の中に缶ビールが冷やしてあったので聞いてみたら 「ジュースはないけどビールは売っている」 とのことで、「しめた!」 と思った。夕餉の晩酌にはその缶ビールと持参したクサヤとスコッチの水割りで、もう完全に出来上がってしまった。下戸の佐知子も缶ビールを少し飲んだりして、レトルトのカレーライスを食べながらフーフー云っていた。 夜半、蒸暑くてシュラフから半分足を出して寝ていた。窓からの皓々とした月明かりで、まるで夕方のような夜が朝まで続いた。 ●第4日目(8月10日・曇): ガスったが… 狐穴小屋〜以東岳〜泡滝ダム…大鳥
ハイマツやコミネカエデに交じってハイスギとでも命名したくなるような灌木があったが、これはネズの高山型のミヤマネズ(ヒノキ科ビャクシン属)だ。尖った葉をネズミ除けにしたところから「ネズミサシ」となり、それが略されて「ネズ」と呼ばれたそうだ。しかし「面白い木だなぁ」などとのんびりと観察している場合ではなかった。長丁場の今日はそれほどゆっくりとはしていられない。幸い(?)曇っていて、山岳展望は殆どない。お花畑や灌木群などの素晴らしい植生に未練を残しつつ、ひたすら主稜線を北西へ進む。 ガスで視界の利かない以東岳の山頂で少し迷った。大鳥池への下山路が二手に分かれているのだ。私達は距離の短い左手のルートを選んだが、この道は急坂の悪路で歩きにくかった。後で分かったことだが、分岐を右へ進むコース(オツボ峰コース)のほうが花にも恵まれていて良かったらしい。所要時間は殆ど同じくらいだから、これは下調べをろくにしていなかった私達の勇み足だったかもしれない。 ドスンと下って、巨大魚(タキタロウ)伝説のある大鳥池を半周して、池畔に建つタキタロウ山荘(大鳥小屋)へ着いた。ここで神秘的な池を眺めながら昼食を摂った。山荘の管理人さんに頼んで大鳥登山口にある同系列の宿(旅館・朝日屋)に宿泊の予約を入れてもらった。ここの管理人さんも話好きの優しい方だった。 大鳥池から下山口の泡滝ダムまでは正味約3時間ほどの歩程で、なだらかだったが長かった。しかし深いブナ林が素晴らしく、沢筋を歩くので水場が随所にあり、私達は飽きることはなかった。 林道(泡滝ダム)にヒョイと出たのは午後4時近かった。ほどなくして朝日屋のワゴン車が私達を迎えにきてくれた。朝日屋のある大鳥登山口までは会員バス(つまり朝日屋の私営バス)が運行しているけれど、午後の便(14:25)はとっくに出てしまっていた。しかし朝日屋に宿泊する場合はそのつど車で迎えに来てくれるのだ。 * 朝日屋: 朝日連峰の北東山麓(大鳥集落)に位置する旅館。登山口(下山口)の泡滝ダムからは林道を車で約30分の距離にある。宿泊客は登山口まで送迎してくれる。予定以上に時間がかかって下山口からのバスがなくなってしまったときなどは特にありがたいと思う。 風呂に入ってビールを飲んで布団の上で横になって眠ることができる、っていうのは日常の当たり前のことだけれど、山から下りたときは、それは極楽に思えるものだ。腰や膝は筋肉痛だったけれど、美味しい山菜や川魚を食べて、甘露甘露の宵だった。1泊2食付一人7,300円。 ●第5日目(8月11日・晴): 帰路につく 大鳥登山口…鶴岡…東京 閑静な大鳥集落を散歩したりして時間を過ごしてから宿(朝日屋)の朝食を摂った。玄関前のバス停(大鳥登山口)から約70分、JR鶴岡駅へ着く。土砂崩れの影響で一部不通になっていた羽越本線は全線開通したようだ。まずは安心して「特急いなほ」の車中の人となる。 朝日連峰は飯豊連峰と同じ花崗岩質の隆起山脈だという。何れも深くて大きい山地で、山小屋のほとんどが避難小屋(自炊)というのもよく似ているし、その山麓にブナの原生林が広がっていて豊かな森林生態系を維持している、というのもよく似ている。 そして…、朝日連峰や飯豊連峰などの東北の山を中心に生活している人たちに共通するものは、それは多分、自然に対する敬虔な気持ちではないだろうか。身構えることのない静かな優しさや素朴な人情などとともに、それらはかけがえのない東北の風土を担っていると思う。私はその素晴らしい東北の風土が好きでたまらない。 おまけのコーナー ![]() ヒナウスユキソウ(ミヤマウスユキソウ)とヒメサユリ(オトメユリ)については、その花期が過ぎていたものか見落としたものか、見ることができなかったのが少し残念だった。 * 亜高山〜高山型の背の低い樹木(灌木)など⇒ (コ)ミネカエデ、タカネナナカマド、ミヤマハンノキ、ミヤマナラ、ハクサンシャクナゲ、クロマメノキ、ハイマツ、ミヤマネズなど。 それらの高山型の灌木に混じり、チシマザサ、ひねたオオカメノキ、ひねたダケカンバ、ひねたブナ、ドウダンツツジなどもけっこうがんばっていた。 * 蛇足になるが、登山道上にはときたまカエル(ヤマアカガエル?)が飛び出してきて、ユーモラスな仕草で私達の目を楽しませてくれた。また、それを狙った(?)ヘビ(ヤマカカシ?)もいた。
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