No.214 猪ノ川林道と三石山282m 平成19年(2007年)1月8日 |
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→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ * プロローグ: はじめにお断りしておきますが、猪ノ川(いのかわ)林道の黒滝から主稜線上の地蔵峠までの区間(略図の赤破線部分)は東京大学千葉演習林の敷地内で「関係者以外は立入禁止」となっています。で、仕方がないので、今回は猪ノ川渓谷と三石山(みついしやま)を別々に散策しました。本来は亀山駅を起点に猪ノ川林道を奥へ進み、三石山登山道(柚ノ木歩道)を登って地蔵峠へ出て主稜線を北上、三石山観音寺を参拝してから下山、という周遊コース(歩行時間約4時間30分)が理想なのですが、非常に残念です。 例年、新緑と紅葉の季節の数日間、猪ノ川渓谷の東大演習林の一部が一般公開されて周遊コースを歩くことができるそうです。でも、そのときはかなり混雑するらしいです。
* アクセス: 東京都大田区に住む私達が千葉県の木更津へ行くには、アクアラインを走る高速バスを利用するのが便利で効率がいいです。東京駅八重洲口や品川、羽田空港、横浜などからも発車していますが、今回はJR川崎駅東口からの高速バス便に乗りました。30分に1本程度の定期便で、運賃は一人1,400円。JRを利用するよりは安く済みます。 木更津駅からはローカルなJR久留里線に乗ります。終点の上総亀山駅まではぴったり1時間。アクアライン高速バスに乗っていたのも丁度1時間なので、川崎駅前から上総亀山駅までの乗車時間は正味2時間、ということになります。 その久留里線は2両編成でした。一毛作なので今は枯野の田園風景の中を、ゆっくりと走ります。周りの山々が低くて平らで、千葉県独特の風景です。のどかなのがとてもよい、と思います。 閑散とした上総亀山駅前から歩き始めたのは午前10時20分頃でした。民家の庭先には必ずと云っていいほど、形の良いマキ(イヌマキ)が植えられていました。 * 折木沢・猪ノ川渓谷散策: 君津市の案内板には 「折木沢の猪ノ川渓谷は亀山湖の上流に位置し、小櫃(おびつ)川の支流のなかで最も自然景観に優れた沢です・・・」 と書かれてありました。また、「ヤマビルに注意!」という看板もありましたが、いくら房総とはいえ1月の寒さです。今回はまったくヒルには出合いませんでした。それが冬の当地の山歩きのよいところの一つでもあります。 途中までなので、そのすべてを見たわけではありませんが、この猪ノ川林道沿いの景色は独特で確かに素晴らしいと思いました。新緑や紅葉の頃は特に美しいと思います。泥岩や砂岩などのやわらかくて融けやすい地質のせいでしょうか、亀山湖に流れ込んでいる沢の水は薄く濁っているものが多いようでした。車両通行止めの鉄柵をすり抜け、素掘りのトンネルを抜け出ると右手眼下に黒滝が見えてきます。手前の樹木がジャマして全体像がよくわかりませんが、けっこう大きくて長いナメ滝であるようです。 しかし、歩くことができるのはここまで(歩き始めて約1時間の地点)でした。その黒滝の少し先には厳重なゲートがあり、東京大学千葉演習林長名で「関係者以外は立入禁止」の大きな看板が出ています。私達夫婦の近縁の息子が現在東大に在学中で、私達も「関係者」じゃなかろうか、とも思いましたが、ここは素直にあきらめて、来た道をすごすごと引き返します。 この先にはスギやメタセコイヤなどの素晴らしい人工林があると聞きます。また、シイ・カシなどの照葉樹やモミ・ツガの常緑針葉樹などの自然林が、「自然」のカタチで残っている箇所もたくさんあるらしいのです。つまり、美しい猪ノ川渓谷の核心部はこの先(東大演習林内)なのです。一般公開の時期に歩いたことがあるという友人の話によりますと、宮崎県青島の「鬼の洗濯板」をウーンと小さくしたような岩盤が沢床になっているという必見の箇所も、このすぐ先にあるらしいです。今回は、ほんとうに残念でした。 * 三石山(みついしやま)から地蔵峠: 亀山湖の南岸から左へ回り込み、三ツ石山へのアスファルトの表参道をだらだらと約1時間、登ります。自動車が時折通るのがちょっとシャクです。まずは三石山観音寺を参拝します。奥の院のある山頂からは房総の山々がよく見渡せました。 門前にある鳥獣供養塔の脇に素掘りの階段があって、ここが地蔵峠を経て元清澄山へ続く主稜線(山道)への入口になっています。この南へ続く静かな尾根道(三石山の南稜)が、とてもステキでした。 この地域の森林は昭和49年3月から三石山郷土環境保全地域に指定されているとのことで、「三石山自然林」と呼んでいるそうです。当地の極相種であるシイ・カシ・タブなどの常緑広葉樹(照葉樹)と、モミ・ツガ・カヤ・マツなどの常緑針葉樹が繁茂する、なんとも云えずしっとりと落ち着くことのできる森です。スギやヒノキなどの人工的なものも、それは日本の近代史上しょうがないことで交じりますが、コナラ・シデ・フサザクラ・モミジ類・カゴノキ・カラスザンショウなどの落葉広葉樹もけっこう生えていて、いずれ(数百年後くらいかなぁ…)は照葉樹に淘汰されるものの、その必死な“生き様”が、冬枯れの枝々から見えてきます。それほど背の高くない照葉樹では、シロダモ・ヤブニッケイ・カクレミノ・ヒサカキ・ヤブツバキ・アセビ・ミヤマシキミ・ヒイラギ・アオキ・ヤツデなどが青々としています。シダ類もナカナカきれいです。ほんとうの自然(原生林)や、ほんとうの自然へ向かって進んでいる森…この「三石山自然林」がまさにそれでした…が私達夫婦は大好きです。 1/25000地形図には、この稜線の西側斜面の一部に「ゴルフ場建設中」と書かれてありましたが、バブル崩壊の影響で建設を途中で断念したらしく、その敷地は草茫々の明るい空間になっていて、森林の二次遷移が既に始まっていました。ここも、このままほっぽっておいてくれたなら、数百年後が楽しみです。私達は多分それまでは寿命はもたないと思いますが、孫子のそのまた孫子の代には、きっと、家族連れで楽しめる素晴らしい照葉樹の原生林になっていることでしょう。 たっぷりと常緑樹林の尾根歩きを楽しんで、地蔵峠の標柱のある地点まで進み、そこから来た道を引き返します。地蔵峠から東面の猪ノ川林道・郷台畑へ下る道(柚ノ木歩道)には鉄パイプ造りの厳重な「立入禁止」のバリケードが築かれていましたが、この主稜線を元清澄山方面へ南進する道はしっかりと整備されているようで、いつの日かこの道も歩いてみたいと思いました。
* 三石山観音寺: 標高282mの山頂部に大きな岩が3つあるところから三石山(みついしやま)と呼ばれているそうです。その大岩に今にも飲み込まれそうにして建っている本殿の様子など、ちょっと異様です。異様といえば、それらの大岩の狭い空間をかいくぐっての「胎内潜り」も異様でしたし、頂上の奥の院前に結ばれたたくさんのハンカチが風になびく様もかなり異様でした。縁結びに霊験があるらしいです。女子マラソンの金メダリスト・高橋尚子さんが身につけていたのがここのお守りだったこともあり、近年益々人気のようです。門前までは車で行けます。真言宗智山派のお寺でご本尊は十一面観音とか。不謹慎な言い方かもしれませんが、なかなかユニークで面白いお寺さんだな、と思いました。 * 東京大学千葉演習林について: 林学などの研究や、学生の実習をするための森林で、現在の面積は2,171haと、かなり広いです。房総半島の南東部にあり、行政上は北部が君津市、南部が鴨川市にまたがっています。また、演習林の南部は南房総国定公園に、北部は県立養老渓谷奥清澄自然公園に属しています。1894年、日本で初めての大学演習林としてできたそうで、その植物相は極めて豊かで、自生種は木本類が約280種、シダ植物約150種を含む草本類が約800種に達しているとのことです。また、植物相に対応して動物相も豊かです。[ 東京大学千葉演習林の公式HP から抜粋して記述しました。] * エピローグ: 山頂部の三石山観音寺境内の裏手に裏参道の入口があったようですが、それに気付かずに来た道の表参道を下ってしまいましたが、どちらを歩いてもたいした差はないようです。亀山湖畔に建つ「亀山温泉ホテル」へ着いたのは午後4時頃でした。たっぷりと渓谷美と常緑樹林の尾根歩きを楽しんだ一日でした。 明日予定の石尊山から清澄山のトレイルも楽しみです。 亀山温泉「亀山温泉ホテル」: 上総亀山駅から歩いて約10分、亀山湖北岸のロケーションに恵まれた温泉ホテル。その亀山湖を一望できる大浴場はナカナカ。房総に多い例の茶褐色の湯で、含沃素臭素重曹食塩微温泉。29.4℃、加熱、掛け流し。湯量はけっこう多いようです。食事もそこそこで、特に不満はないのですけれど、この日、この宿で私達夫婦はちょっといやな思いをしました。それは、フロントでホテル前から出ている路線バスの時刻を聞いたら 「分からないので自分でバス停まで行って調べてください!」 と云われたことです。一日に数本のバスで、バス停はホテルの目の前です。私達は「ハイ!」と云ってバス停まで行って調べましたが、よくよく考えたら何かおかしい…、と気がついたとき、私達は暫らく唖然として言葉を失いました。 一泊2食付で一人8,000円から。私達は10,000円のコースでした。季節のせいもあるのかもしれませんが、地元の食材が少ないように感じました。 三石山の南稜にて このページのトップへ↑ ホームへ |