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No.215 石尊山から清澄山
平成19年(2007年)1月9日 晴れ

石尊山 略図
この先の左手が登山口
七里川温泉

樹林に囲まれて展望はない
石尊山の山頂

わかりやすい
新設された道標

房総丘陵が見渡せる
稜線からの展望

大きな露岩の脇を通る
大岩を通過

ステキな森林浴
照葉樹林の稜線

幹周約15m、樹高約47mの天然記念物
清澄寺の千年杉


清澄山系(房総丘陵)・2日間の山旅 後編
のんびりと森林浴の尾根歩き

…亀山温泉(泊)-《バス17分》-黄和田車庫〜七里川温泉〜石尊山348m〜大岩〜麻綿原・天拝園〜清澄山377m(清澄寺)-《バス18分》-JR外房線安房天津駅 【歩行時間: 4時間20分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


 温泉とたっぷりの睡眠のおかげで、昨日の猪ノ川林道と三石山ハイキングの疲れはすっかり癒えていた。朝霜の降りた「亀山温泉ホテル」前のバス停から午前中は2本の路線バスのうちの1本目(8:02発)に乗車。上総亀山駅を経由し、小櫃(おびつ)川の源流に沿って小型のバスは快調に遡行する。通学の小学生が途中で数名下車すると、乗客は私達夫婦だけになった。間もなく終点の黄和田車庫バス停に到着。手袋をつけて、準備して、歩き始めたのは8時30分頃だった。今日もいい天気で、何から何まで清々しい。
 アスファルト道を少し進み、一軒宿の七里川温泉の左裏手から登山道へ入った。身体はすぐに温まり、手袋は早々に無用のものになった。所々に樹木の名札がかかっていて分かりやすい。まずはスギ林だ。少し外れてぽつんとアカメガシワが独特な樹肌て突っ立っている。林床のヤブミョウガ群落がかなりの迫力だ。
 歩き始めて50分もした頃、薄茶色の粘土質で階段状の急坂を登り切ると少し開けた場所へ出る。石尊山(せきそんざん)の山名の由来にもなったのではないかと推測される割と大きい石祠が3つ、祀られていた。本峰の山頂標識と二等三角点の標石はその少し先、ヒノキ、スギ、ヤブニッケイ、シロダモなどの樹林に囲まれてひっそりとあった。もう少し足を伸ばして鉄塔のある辺り(北峰)まで進むと展望が良いらしいが、この先の長丁場を考えて、私達は南へ踵を返し麻綿原へ向かって稜線を進んだ。
 この山域の樹種は照葉樹(常緑広葉樹)が優先している。それはそのまま、ここの植生が自然であることを物語っている。常緑樹の親分たちはスダジイ、ウラジロガシ、アカガシ、タブノキ、モミ、ツガなどで、子分たちはシロダモ、ヤブニッケイ、ヤブツバキ、ミヤマシキミ、ヒサカキ、ヒイラギ、アオキ、ヤブコウジ、フユイチゴ、テイカカズラなどだ。劣勢の落葉樹はコナラ、クリ、シデ類、ミズキ、アカメガシワ、カラスザンショウ、ナツツバキ、ヤマザクラなど。石尊山の登りではハチク(淡竹)の竹林も交じった。バラエティに富んだ林相で、歩いていてとても楽しい。
 札郷(ふだごう)や小倉野などへの分岐をしっかりと確認したりしながら、休み休み、なだらかで気持ちの良い尾根道をゆっくりと歩く。新設された道標のおかげもあって、道に迷うこともなく順調に稜線を南進する。時折、左右の樹林が透けてきて、近隣の低い山並も垣間見ることができる。大きな露岩の壁(大岩)も順調に通り越し、現在進行形の楽しい時間はどんどん過ぎ去る。
 昼食の大休止の後、モミの大木やヒメユズリハなどを観察しながら歩いていたら、麻綿原の天拝園へ続く林道へぽんと出た。午後1時20分頃だった。
 冬の天拝園はシーンとしていて、ここも人の気配は全くなかった。「関東ふれあいの道」へ入り、なだらかに高度を上げながら3.1Kmの道のりを清澄寺(せいちょうじ→通称は「きよすみでら」)へ向かう。この非舗装道は林道を遊歩道化したもののようだった。11年前のアジサイの花期にバスツアーで歩いたことのある道→No.13麻綿原高原だったが、佐知子と一生懸命に思い出そうとしても、アジサイの咲いていない今の道筋からは何も思い出すことができなかった。この遊歩道沿いではクロガネモチやツクバネガシなどの、当地では案外と珍しい(本来はもっと西の地域に自生する)樹木も観察することができた。
 清澄山(清澄寺)へ着いたのは午後2時20分頃だった。次の安房天津駅行きのバスは4時22分発で、まだたっぷり2時間がある。それほどの距離でもないのでタクシーを呼ぶことも考えたけれど、私達の山旅はそんなに急ぐ旅じゃない。清澄寺の境内にある立派な大スギや大クスノキをじっくりと見て回ったり、参籠殿(庫裡)に上がり左甚五郎作と伝えられる一刀彫の牛(鎮火牛)を見物したりした。それでもまだたっぷりと時間があったので、閑散とした門前の茶屋で店のご主人と世間話などをしながら、おでんをつまみにビールと熱燗で…。
 それから佐知子と二人で、バス停の脇にある展望台へほろ酔い気分で登ってみた。南面が開けていて、鴨川の入江(港)などが暮れなずむ夕陽を受けてオレンジ色に輝いている。そしてその奥には、ただっ広い太平洋が横たわっていた。

* コースについて補足: 私達夫婦は今回の山行については非常にナーバスになっていた。かなり周到な準備をした上で、どんな小さな分岐でも必ず地形図とコンパスで現在位置を確認しながら進んだ。というのは、もう3年以上も前(平成15年11月)のことになるが、この房総半島南東部の山域で中高年男女30名のパーティーによる遭難騒ぎがあったからだ。そのあらましと検証については拙サイトのコラム欄で既にご紹介した。今回の「清澄山系2日間の山旅」の第2日目(本頁)は、じつはそのときの「遭難ルート」を忠実に辿ったものだった。
 コースの現況について、本文でも書いたが、その遭難騒ぎの後に整備された分かりやすい道標のおかげで、まったく道迷いの心配はなかった。数ヶ所の分岐で、多分ここで間違ったんじゃないかなぁ…、というような処があった。千葉県の山には際立った高峰がなく、ほんとうに何処も彼処も同じように見えてしまう。地形図とコンパスを駆使しても道標がなかったとしたら、間違えてもしょうがないわね、と佐知子も云っていた。実際、「遭難」はどこに潜んでいるか、わかったものじゃない…。
  石尊山行方不明事件について: 拙コラム欄へ

* ひとこと追加: この房総丘陵の清澄山系は、その植生において、私達が山行前に予想していたよりもずっとステキな処だった。広大な東京大学千葉演習林の存在が、その素晴らしい「自然」に作用しているように思われる。

亀山温泉「亀山温泉ホテル」: 前項「猪ノ川林道と三石山」を参照してください。



素晴らしい常緑樹林だった
森林浴の尾根道
清澄寺バス停裏の展望台から鴨川方面を望む
鴨川の岬(港)の向こうは太平洋・・・
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