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まず吊橋を渡る
カンアオイ
ジシバリ
ヤブウツギ
不老山の山頂
不老山の肩(南峰)
金時公園
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サンショウバラが咲いていた
小田急線新松田駅(JR御殿場線松田駅)-《タクシー25分》-棚沢キャンプ場前(山市場)〜吊橋〜大安戸〜番ガ平〜不老山〜世附峠分岐(不老山南峰)〜不老の千人広場〜鉄塔下〜金時公園〜ふじみセンタ〜(入浴)〜JR御殿場線駿河小山駅 【歩行時間:
5時間】
→ 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ
私が属しているもうひとつの山の会にHさんが主催する「テルテル山岳隊」というのがある。「山岳隊…」とは云っても、昔も今も同じ会員5名の、気の合った仲間同士の、これも規則も会費もない、いたっていい加減なハイキング同好会である。年間に数回の活動しかしないのだが、さわやかな思い出を残しながら、もう10年近くも続いている。それは、H隊長の優しくて大らかな性分に負うところが大きいと思う。
そのH隊長が一昨年に大病を患らった。発見が早かったことや、本人の体力と気力が並外れて強かったこともあり、幸いに一命はとりとめた。退院されてからのここ1年は(私たち隊員とは)軽い峠歩きなどしかしていなかった。そのH隊長が 「もう自分は大丈夫だから近郊の山へ本格的に登ってみよう!」 と言い出したのは2ヶ月前のことだった。たっぷりとリハビリ期間を置いて、H隊長が選んだ山は西丹沢前衛の不老山だった。不老の山…、とは、まさしく(事実上の)H隊長復帰後第一戦の山として相応しい山名のように思えた。
小田急線の新松田駅に今回参加の4名が揃ったのは午前8時20分頃だった。改札口を出ると目の前にあるのがJR御殿場線の松田駅で、早い話が両駅は同じ駅、のようなものだ。駅前のバス停は、シロヤシオの花見が目当ての檜洞丸登山と思われるハイカーたちで混雑している。私たちはそのバスを利用しても良かったのだが、一人分の料金はそれほど変わらないだろうということでタクシーを利用した。
タクシー料金の4,700円ほどを支払って、標高約200mに位置する山市場の棚沢キャンプ場前で降車。人影はなくひっそりとしている。軽く準備体操をして、歩き出したのは9時近かった。
河内川(酒匂川の支流)に架かる吊橋を渡り、茶畑を通り過ぎて暫らくするとけっこうきつい登りが始まる。この山の林相は、コナラ、クヌギ、シデ類、モミジ類などの雑木林も少し交じるけれど、その殆どはスギ・ヒノキの植林地帯のようだ。それらの人工林はよく管理されているようで、樹齢20〜30年くらいと思われる青年の木々が元気よく育っている。林縁にはカンアオイ(もしくはその仲間・ズソウカンアオイかオトネアオイかも)が美しい葉模様を見せていた。カンアオイ属はその種の拡散速度が非常に遅く、1万年に1Kmという説もあるらしい。これも大切にそっとしておきたい植物だ。
正味1時間半ほども歩くと傾斜が幾分なだらかになり、尾根へ出て、やがて林道と交わって小広い空間へ出る。傍らに立つ標識によるとここが「番ヶ平」で、辺りには数株のサンショウバラ(*)が咲いていた。思ったよりもずっと大きな木で、見上げるようにして観賞する。薄紅色の、普通のバラの花と比べて薄くてやわらかそうで、質素でやさしい感じがした。仰々しくないギリギリの華麗さも備えたこの花を私はとても気に入ってしまった。咲いた花が夕方には萎んでしまう(一日花)という話を聞くと、なおさら可憐に感じる。次々と咲くその花の盛期はせいぜい1週間とのことだから、私たちは非常にラッキーだった。H隊長も他の隊員たちも食い入るように花を見つめていた。
番ヶ平の林道を横切って再び山道へ入ると、益々気分の良い稜線歩きになる。しかし周囲は相変わらずのヒノキ林だ。時折木々の切れ間から右側(北面)が開け、その眼下には丹沢湖が見えている。足元に咲いていた黄色い小さな花はキク科ニガナ属のジシバリだ。これがじっくりと見るとなんとも云えず可憐で美しい。
不老山の小広い山頂928m(北峰または東峰とも云うらしい)へ着いたのは11時30分頃だった。中途半端なヒノキや自生と思われるマユミやヤマグワやアブラチャンなどに囲まれて展望は無い。サンショウバラとヤブウツギ(ケウツギ)の花がひときわ目立って咲いていた。
その山頂から歩程にして5分ほども先(南東方向)へ進むと神奈川県と静岡県の国境線上へ出て、そこが不老山の肩927m(南峰又は西峰とも云うらしい)だった。西面(静岡県側)が開けていて、もう少し晴れていれば富士山が正面に大きく見える筈だが…、今日は三国山(相模・甲斐・駿河3国の境をなす1328m峰)などの手前の山々が見えるばかりだ。時間はちょうどお昼で、ここにどっかと腰を据えて、J隊員やS隊員が重たい思いをしてザックに詰めてきた食材でミニ宴会が始まる。
冷やっこやコンロの火で焙ったウルメイワシなど、ちょっとした“赤ちょうちん”の気分だ。ビーフンの料理などはもう絶妙な味で量も多く、相変わらずJ隊員のザックは“魔法のザック”だ。私は自分で用意してきた食糧は、そのほとんどをそのまま持ち帰る羽目になった。
食後、周囲(南峰の近辺)を散歩してみた。この稜線の一角だけは(ヒノキも少し交じるが)天然林のようで、多少は樹種が多様だ。短時間だったのでその全てを同定したわけではないが、そのときの私のメモには
「・・・ウツギ類(ウツギ、ヤブウツギ、ミツバウツギ、ハコネウツギ等、何れも花がきれい)、シデ類(イヌシデ等、新緑の葉っぱがきれい)、カエデ類(オオモミジ、イタヤカエデ等)、サンショウバラ(花)、アブラチャン、マユミ、コクサギ等。
何故かモウソウチクも1箇所に少し。林床のメインはクマザサ。足下の富士スピードウェイから聞こえてくるエンジン音がちょっと煩い・・・」 と書いてある。
午後1時少し前、世附(ゆづく)峠方面の登山路を右に分け、腹も気分も充分に満たされた状態で南へ向かって下山を開始した。
少し進むとまた道が二つに分かれている。左側の道は国境に沿っており右側は金時公園を経由する道だ。何れも尾根道で、生土(いきど)からJR御殿場線の駿河小山駅へ続いている。私たちは予定通り右側(静岡県側)の道へ進む。こちら側もヒノキ・スギの人工林だ。
「不老の千人広場」と名付けられた処で林道と交わり、そこから再びその林道と平行した山道へ入る。やがて鉄塔下ヘ出て、草原の上にゴロンと横になって小休止。ここも西面が開けているが、相変わらずのぼんやりとした日和で富士山は見えない。富士スピードウェイがある辺りの谷間や三国山や大洞山1384mなどの近景をおさらいしたり、たわいもない軽口などを言い合いながら、のどかに時を過ごす。
このルートは割と最近に整備されたようで、とても歩きやすい。地元の有志の方が設置したという心温まる道標(*)など、道迷いの心配もまずない。
里も近くなってきた頃、金時公園内の森だろうか、林相が一変して広葉樹主体の自然林となる。主な樹種はコナラ、ミズナラ、クヌギ、ミズキ、ヤマザクラ、イヌシデ、クマシデ、ホオノキ、カエデ類(イタヤカエデやウリカエデなど)、ケヤキ、シラカシ、アカガシ、ウラジロガシ、モミ、モウソウチク…などで、樹木の一部にはその名札がぶら下がっている。一応私は森林インストラクターなので、待ってました、とばかり張り切って樹木の説明などを始めようとしたのだが、他のメンバーはどんどん先へ行ってしまう。金時公園の先に待っている「ゆったり湯」が頭にちらついているのだろうと思った。私も樹木観察はそこそこにして急ぎ足でメンバーを追いかけた。
金時神社(*)参拝の後、ほどよい山の疲れを足に感じながら、ほっとして小山町の閑静なアスファルト道を歩いているとき、一昨年の手術後の青白い顔をしたH隊長の表情をふと思い出した。そして、隣りに歩いているH隊長の横顔をなんとはなく覗き込んでみた。H隊長は赤みのさした穏かな笑みを私に向けて、「なぁに?」
といったような表情をした。
「ふじみセンター・ゆったり湯」に着いたのは午後3時15分頃だった。ここから駿河小山駅までは目と鼻の距離である。
* サンショウバラ: 落葉小高木。富士・箱根地方のクリ帯からブナ帯にかけての山地に成育。バラ科・バラ属では最も大きくなるそうだ。名は葉がサンショウを思わせるため。花は2日ももたずに散っていくとか…、バラにしては短命だ。「日本の野生植物(平凡社)」の該当項などを参考にしました。
* 不老山の心温まる案内板について: この山域の山道のいたる処には、小山町などの公的機関が設置した道標とは別にユニークな案内板などが設置されているが、これは個人(地元の有志の方)が苦労して作ったものだという。手作りの心温まるものだが、特に南峰にあった説明板(多分サンショウバラについての解説)は、その文字などが剥がれたり磨耗したりしてとても全文を判読できる状態にはなかった。せっかくのものが空しくて勿体なく思えた…。
* 金時神社: 金太郎(坂田金時の幼名)が生まれた屋敷跡にある神社、とのことだ。静岡県小山町にある金時公園内にあり、現在はその裏手が不老山の登山口にもなっている。この公園を始め、町内には多くの金太郎伝説の地がある。
ふじみセンター「ゆったり湯」: 金太郎のふるさと(静岡県の北東端・小山町)にある町営の天然温泉施設。不老山登山口のある金時公園と駿河小山駅の中間、つまりそれぞれからは歩いて約10分の距離に位置する。正式名称は小山町健康福祉会館(ウーン、いかにも公営らしい…)で、「ふじみセンター」は愛称、とのことだ。
平成12年にオープンしたとのことで、設備はきれいで立派だ。館内の1階と2階は様々な公共施設で、3階が浴場(ゆったりプラザ)になっている。食堂は無く、酒類もご法度だが、ふれあいルーム(大広間)にて持ち込んだものを飲み食いする分には文句は言われないようだ。各種の浴槽など多彩。泉質はアルカリ性単純泉、殆ど無味無臭透明、加熱、循環。利用時間は10:00〜20:00。受付は午後19:30まで。入浴料は2時間まで300円。
* 「ゆったり湯」はこの4年後(H23年3月)に廃止されたようです。利用客の減少がその主な理由かも。下山地の日帰り入浴施設としてかなり利用価値のある、ありがたい温泉施設だと思っていたのですが、残念です。[後日追記]
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