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No.261 白神岳1235m 前編
平成21年(2009年)7月5日〜6日 ちょっとガスったりもしたが・・・概ね良い天気

白神岳 略図
右端が山頂:北側の稜線から撮影
白神岳の山頂部


のほほん白神山地・3日間の山旅 その

第1日=羽田空港…大館能代(秋田北)空港-《バス60分》-能代駅前-《タクシー50分》-白神岳登山口広場〜二股分岐〜最後の水場〜蟶山(マテ山)841m〜十二湖分岐〜白神岳避難小屋(白神岳1235m) 第2日=白神岳避難小屋〜白神岳〜二股〜二股分岐〜登山口広場〜白神岳登山口駅-《タクシー15分》-アオーネ白神十二湖
第3日=アオーネ白神十二湖…十二湖散策…十二湖駅-《五能線》-能代-《バス60分》-大館能代空港…羽田空港
 【歩行時間: 第1日=4時間30分 第2日=4時間30分】
 → 地理院地図(電子国土Web)の該当ページへ


  平成5年(1993年)12月に世界自然遺産に登録された白神山地・ブナ原生林の面積は16971ヘクタールで、青森県側がそのうちの74パーセント、残りが秋田県側にあるという。 この総面積をわかりやすく云うと、凡そ13キロメートルを一辺とした正方形くらいの面積、ということになる。 これが広いのか狭いのか、という問題は難しい。 ブナ林(ブナを主な樹種とした落葉広葉樹林)は冷温帯を代表する極相林であり、大昔はヨーロッパやアメリカ大陸などにも広く存在していたという。 その観点から云えば、白神山地に残ったブナ林は狭すぎるかもしれない。 しかし…、紆余曲折はあったにせよ、小さな国土の日本に世界一の面積を誇る多様性に優れたブナ林が残っていたということは、これは日本人…特に東北地方の人たちが大いに誇っていいことだと思う。
  かつてブナを伐採しつくしてしまった諸外国の歴史を鑑みる度に、私は日本に生まれてきてよかったと思う。 私個人はそれ(ブナ林を残したこと)について何も貢献していないので恐縮するが、私は私が日本人であることを誇らしくさえ思うのだ。 そして、東北地方の先達と日本史と日本の気候風土に対する感謝と畏敬の念を禁じ得ない。
 * 私は皮肉で書いているのでもなく、ホメ殺しているのでもない。 本当にそう思っている。 …と、そう書くこと自体が皮肉に聞こえてしまいそうだが…。

  白神山地の世界遺産地域はコアゾーン(核心地域・保存地区)とそのぐるりを囲むバッファーゾーン(緩衝地帯・保全利用地区)からなっている。 私たち一般ハイカーが無許可で歩くことを許されているのはそのバッファーゾーンまでだ。 白神岳登山道の主稜線の部分はコアゾーンの境界に位置している。 つまり、日本人の英知が残したブナの原生林を垣間見ることができるのだ。 もう…、出かける前から感動だった。

 第1日目(7月5日・曇) 整備されたマテ山コースを登る.
  1ヶ月前に寝台特急「あけぼの」を予約しようとしたら、もう既に満席だった。 あとで知ったのだが、シーズン中のこの列車は超人気で、予約券はいつも発売と同時に売り切れるらしい。 仕方がないので飛行機を予約したら「早割り」とかで、夜行寝台車や新幹線を利用するよりはずっと安い交通費になった。 結果オーライだ。
  羽田発午前7時25分・ANA787便に乗り、閑静な大館能代(秋田北)空港に着いたのは8時35分。 空港前からシャトルバスで約1時間、能代駅前で下車。 予約の岩崎タクシーが迎えに来てくれていた。
  今回の白神岳山行のメンバーは山仲間の女性2名と妻の佐知子と私の総勢4名。 タクシーを利用しても一人頭の費用は電車とそれほど大きな差はない。 飛行機に積み込むことのできないコンロのガスボンベを能代市内のホームセンターで購入して、まずはホッとする。 タクシーの運転手さんはいやな顔ひとつせずに、車を停めて私たちの買い物に協力してくれる。 天気予報もここ数日は「梅雨の晴れ間」が続くらしい。 いたって順調なすべり出しだ。
  東京都大田区の自宅を出てから4時間半後には大きな駐車場や立派なトイレがある白神岳登山口へ着き、午前11時には車止めのロープをくぐってもう歩き始めていた。 飛行機利用の山旅では何時も思うのだが、その距離がどうも実感できない。 便利なのは良いことだとはわかっていても釈然としないのは、私が歳をとった証拠であるのかもしれない。 山里では月見草(オオマツヨイグサ)がその花期を迎えていた。
  モミジイチゴの実をつまみながら、20分ほどアスファルトの林道を進むと電話ボックスのような小さな建物があり、ここで登山届けの記帳をする。 ここからが山道だ。 徐々にスギの人工林からブナ交じりの自然林へ移行する。 サルの群れが行く手を横切る。 ブナの巨木が現れる。 アスナロ(ヒノキアスナロ=青森ヒバ)、ミズナラ、カエデ類(イタヤカエデ、ハウチワカエデ、ヤマモミジなど)、サワグルミ、ミズキ、アオダモ、なども茂っている。 林床はおなじみのネマガリダケ(チシマザサ)で、美味しそうなタケノコが所々に顔を出している。
ひっそりとした山頂でした
マテ山の山頂

ブナの純林が続きます
ブナ林を往く

稜線に群生して咲いていました
イブキトラノオ

白神岳の山頂から撮影
向白神岳方面

瀟洒な山小屋です
白神岳避難小屋

十三夜月です
小屋の屋根越しに…
  二股分岐で少し躊躇した。 急峻な二股コースで登って比較的になだらかなマテ山コースで下山するのがセオリーだと思ったが、二日分の食料などでパンパンになっているザックのことを考慮すると、上りにマテ山コースを使うのが賢明だと思った。 そしてこの選択が正しかったことはあとになってから判明するのだ。
  よく整備されたマテ山コースを進むとやがてブナの割合が増えてきて、ほとんどブナの純林となってくる。 小鳥たちが盛んに歌っている。 しかし、急坂が続く。
  いくつかの水場を過ぎ「最後の水場」で大休止。 冷たくて美味しい水をたっぷりと飲んで、羽田空港で買ってきた“空弁”を食べる。 そして立ち上がって歩き始めようとすると、二日分の飲み水を加えたザックは片手では持ち上がらないほど重くなっていた。
  再び急登して暫くすると分岐で、ここにザックをデポしてマテ山の山頂を正味約10分かけて往復する。 マテ山の山頂は樹林に囲まれて展望はなく、3等三角点の標石と地味な山頂標識だけの、私好みの静かな雰囲気だった。 メンバーが近くのブナの幹に耳を当てている。 私も当ててみたら確かにゴウゴウと水流のような音がする。 「でも、これって本当は辺りの騒音が響いているだけらしいですよ」 と云ったら、しら〜っとしてしまった。 どうやら彼女たちのブナに対するロマンを無視してしまったようだ…。

* マテ山は現地の案内板などでは「蟶山」と標記されているが、蟶(まて)とはマテガイ(蟶貝)を意味するらしい。 しかしこれは当て字だと思われる。 日本山名事典(三省堂)の該当項によると “「まて」はクマ狩りにおける射手の待機所の意であろう” と書かれてある。

  マテ山分岐に戻り、なだらかにアップダウンしながら徐々に高度を上げる。 この辺りの尾根道を“ブナ街道”と呼んでいるらしい。 やがて樹高が低くなり、ダケカンバや(ウラジロ?)ナナカマドが目立ち始め、なんとなく高山帯の趣きになり、視界が開けてくる。 生憎この頃からガスってきて、ブナ林などは幻想的でよかったのだが、展望は皆無になってしまった。 晴れていれば右前方に白神岳の山頂部などが見えるらしい。
  標高1000mの辺りで森林限界を超える。 この地(裏日本の豪雪地帯)独特の、シラビソ林などの亜高山性の針葉樹林帯を欠く、いきなりの偽高山帯だ。 トウゲブキの花は未だのようだったがニッコウキスゲとイブキトラノオが今を盛りに咲いている。 チシマフウロやゴゼンタチバナも咲いている。 種類は少ないが予想以上の花の数だ。
  十二湖分岐(大峰分岐)で主稜線へ出て、白神岳山頂まで700mとの指導標に従って右折する。 反対側(北側)の藪漕ぎのコース(十二湖コース)は現在は崩山付近の登山道崩壊のため通行禁止になっていて、ロープが張ってある。 当初はこのコースで下山する予定だったのだが、地元からの情報を受け、既にそれはあきらめていた。 この主稜線の左側(東側)が世界自然遺産のコアエリアなのだが、う〜ん、ガスっていて何にも見えない…。
  主稜線上にはひねたダケカンバやミヤマナラ(ミズナラの高山型)などの背の低い木々が繁茂している。 ナナカマドが白花を咲かせ、ミネヤナギ(ミヤマヤナギ)の花は既に綿毛で、ミヤマザクラは小さなさくらんぼを付け、ネマガリダケは相変わらず大地主だ。 私たち関東の人間にとっては珍しい組み合わせの植生だから、飽きることはない。
  重たいザックに腰と膝がイカれてきたころ、前方の至近距離にログ調の瀟洒なトイレと山頂小屋が見えてきた。 いつの間にか知らずに白神岳の最高地点1235mを通り過ぎて、小屋に着いたのは午後5時少し前だった。 山頂(三角点峰・1231.88m)はこの少し先にあるようだ。

  白神岳避難小屋(山頂小屋)は、登山家の故・長谷川恒男氏が設計したという総ヒバ造りの無人小屋。 青森県の深浦町(旧・岩崎村)が管理している。 後方(北側)におよそ30mほど離れて建つトイレのほうが大きくて立派に見える、というのは有名な話。 しかし見た目より小屋の内部は広く(収容人員30名)、中は天井の低い3層構造になっている。 私たち4名は3階部分に陣取ったが、北窓からは向白神岳方面が、南窓からは山頂方面が見渡せて、明るく陽がそそぐ、いたって快適な空間だった。  (この小屋からなだらかな山頂部を50mほど進んだ処が白神岳の1等三角点のある山頂だ。)
  水場は山頂との中間地点から左側(東側)へ5分ほども下った処にあるとのことだが、同宿の二人組みの男性に様子を尋ねたところ “雪は解けていて水場は見つかるが水量が少なくて苦労した” とのことだった。 私たちは「最後の水場」から大量の水を運び上げていたので、この山頂直下の水場は結局利用しなかったが、これも結果オーライだったようだ。
  夕餉はまず缶ビールで乾杯。 それから用意してきた和牛の高級ロース肉をたっぷり使った鍋物で、シャブシャブしたり、野菜やモチやうどんを入れたり、ちょっと失敬してきたネマガリダケの筍も入れて食べてみたり…、超ゴージャスに過ごした。
  霧が晴れてきたので、食後は山頂まで“散歩”して夕日が日本海に沈むのを眺めたり、360度の展望を楽しんだ。 多分あれが岩木山、あれが向白神岳(むかいしらかみだけ1250m・白神山地の最高峰で世界遺産のコアエリアに位置する)…、と、登山地図を頼りに初めて見る角度からの東北の山々の山座同定は楽しいものだった。 暮れなずむ景色に名残りは尽きない…。
  避難小屋の1階部分に陣取っていた二人組みの男性から翌朝に聞いた話だが、可愛らしいネズミがちょくちょく出てきたらしい。 私たちは小窓から差し込む皓々とした月明かりを受けながら、早々とシュラフに包まって熟睡状態だったので、ネズミさんたちが辺りをうろうろしていたことはまったく気付かなかった。

次項「白神岳・後編」へ続く



ニッコウキスゲの群落(稜線にて)
花とオバサン
右後方に岩手山が・・・見えるかなぁ・・・
白神岳山頂から小屋方面を撮影

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